ゴーストマイノリティ
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ノアラは産まれた当時から霊力を所持し、研ぎ澄まされた天才的な感覚で霊を浄化していた。ノアラは、皆が霊を怖がっているのをずっと見ていたため、人助けをしているつもりだった。「パパとママを怖がらせているワルモノを自分が追い払ったら、褒めてくれる」と、本気でそう思っていたのだ。しかし、現実は違った。
「パパ、ママ!ノアラ、おばけをあっちいけしたんだよ!すごい!?」
そう無邪気に話しかけるノアラだったが、彼女の両親は、そんなノアラを見た瞬間にみるみると顔が青ざめていった。
「の、ノアラ、おばけなんていないのよ⋯⋯?何度も言っているでしょう?悪い冗談はやめてちょうだい」
「そうだぞ。ほら、そんなもの、どこにもいないだろう?⋯⋯あ、もしかして、最近流行ってる遊びだったりするのか?」
「遊びじゃないよ!本当に、昨日までママの肩に男の人のおばけが乗っていたんだよ!ママ、ずっと頭が痛いって言ってたから、ノアラ、その人のせいだと思って、パンチしたんだよ。そしたら、その人どこかに行っちゃったんだ。でも、その人が居なくなってから、ママ元気そうでノアラ嬉しい!」
「そ、そう⋯⋯。あ、ありがとね⋯⋯」
ありがとうと言うその唇は、確かに震えており、実の娘への恐怖心を隠しきれていなかった。ノアラは、僅かながら、その恐怖をずっと感じ取っていた。それを少し寂しいと思いながらも、当たり前だと感じながら仮初の幸せな日々を送っていた。しかし、その幸せも長くは続かなかった。ノアラはこの出来事から数ヶ月経ったある日、自身の荷物を纏められたトランクを持たされ、両親と共に馬車である場所へと向かった。
「⋯⋯パパ、ママ、ここは?」
「ここは、今日からお前の家になる場所だよ」
「え?な、なんで?ノアラのおうちはあそこでしょ?ここ、ノアラのおうちじゃないよ?」
「あぁ、そうだな。だけど、今日からは、ここがノアラの家なんだ」
「え⋯⋯?」
父親の言葉に、不安が膨れ上がり、肥大化していく。それはやがて形となり、彼女の目尻から雫となり幼きノアラの頬を伝っていった。
「なんでそんなこと言うの!?パパとママは、ノアラのこと嫌いなの!?なんで!なんで!!」
「⋯⋯ノアラ、泣いちゃダメだ。施設のお姉さんが困っちゃうだろ?」
「そうよ。それに、なにもずっとここがノアラの家ってわけじゃないの。その⋯⋯パパとママは、お仕事が忙しくなっちゃうから、ノアラと一緒に居られなくなっちゃうの。だから、パパとママがのんびり出来るようになるまで、ノアラのおうちはここなの。ノアラがいい子で待っていたら、ママ達も頑張って、急いでノアラのこと迎えにいけるから、ちゃんといい子にしてるんだよ」
「⋯⋯うん。ノアラ、いい子にする」
そう言って泣き止んだノアラに安堵した両親は、施設のスタッフと暫く話したのち、ノアラに手を振って別れを告げた。
その後、ノアラは孤児院で生活することとなるが、他の子供達とは上手く馴染めなかった。霊が見えるノアラを、他の孤児院の子供達は虐めていたのだ。ある日は靴を隠され、ある日は教科書のページが破られていた。仲間外れは当たり前。数人に暴力を振るわれることもあった。しかし、ノアラはそんなものをいつも平然な顔をして耐えていた。何故なら、心配させたくない人が居たからだ。それは、孤児院でのもう一人の仲間外れのフォルテだ。彼女は、フォルテを一目見た時から、初めての高揚感を覚えた。ノアラはのちにそれを、恋心だと自覚する。ノアラにとってはそれが普通だったが、他の女の子にとっては違うようだった。
「⋯⋯え?ノアラ、フォルテが好きなの?」
「えぇ?なんで?おかしいよ」
「ほら、おばけが見えるんだから、好きなタイプもおかしいんじゃないの?」
「え〜?気持ち悪〜い」
その言葉は、ノアラに深い傷を残した。それから、自分は異端なのだと思うようになり、フォルテの話をしなくなった。それに、幽霊の話も皆が怖がるから、しなくなった。しかし、幼い頃のノアラには、生者と死者の区別が付かない時があった。子供の幽霊を生者だと勘違いして、フォルテと一緒に他の子供達の前で紹介してしまったことがある。その出来事がトリガーとなり、元々上手くいっていなかった孤児院を出ることとなってしまった。そうやって連れていかれた先が、あの変わり者のエルフが経営している孤児院だった。
「あなたたちが、ノアラちゃんとフォルテちゃんね?」
「は、はい⋯⋯」
尖っている耳に驚きつつも、二人はリリウムの案内についていった。
「ここはね、あなた達みたいに、他の孤児院で上手くやれなかったり、特殊に特殊を重ねた事情の子供達がいるのよ〜」
「とくしゅにとくしゅ⋯⋯?」
フォルテがはてなを浮かべた声で聞けば、リリウムは首を傾げて悩みだした。
「あ、うーん。子供には難しかったかしらぁ?要するに、あなた達と似たもの同士の子供達がたくさんいるのよ」
「似たもの同士⋯⋯」
その言葉が、ノアラにとっては救いだった。今まで少数派だった自分に、初めて仲間が出来ると思ったのだ。実際、リリウムの孤児院は、ノアラにとっては新たな帰る場所となった。「ただいま」と言って帰れば、誰かが「おかえり」と言って出迎えてくれる。そんな当たり前じゃなかった生活が当たり前へとなっていった。しかし、フォルテが好きということは、誰にも打ち明けることはなかった。ノアラの心に残った傷は、深く深く刺さっていたからだ。そのまま、ずるずるとこの気持ちを抱え込んでいた──
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「そんで、なんやこんやあって、リガルーファルのボディーガード兼メイドとして、ここで働くことになったんスよ」
「そっか⋯⋯」
ノアラは、私が想像していたよりも、多くのものを抱え込んでいたんだ。子供の頃に体験したことは、彼女にとってどれほど耐え難いことだったのだろう。
「自分はいつも変わり者みたいッス。皆と変わらないのは、髪色くらいッスよ」
そう言って、ノアラは自嘲気味に笑った。その顔に、私まで胸が締め付けられる。
「⋯⋯あー!やっぱ、自分にはこういうの合わないッスね。無理に、押しかけて、変な話して申し訳ないっス」
「そんな。変な話だなんて思ってないよ。寧ろ、私がノアラのことちゃんと考えてあげられてなかった⋯⋯」
ノアラの手を握って、心から思ったことを言葉にする。私の話に、ノアラはどこか面食らったような顔をした。かと思えば、困ったように眉を下げて微笑んだ。
「知ってたッスけど、殿下はやっぱ変わってるッスね。話して良かったッス。⋯⋯相談、乗ってくれてありがとうございます。自分、もう少し、悩んでみることにするッス。告白する時は、また、その時は、背中を押してほしいッス」
「うん!応援してる!」
私の声に、ノアラはいつもの陽気さからは想像出来ないほど、静かに微笑んだ。
「あ、そうだ殿下、殿下は明日の夜には帰るんスよね?」
「え?うん。そのつもりけど」
「なら、一つお願いがあるんスけど⋯⋯」
そう言って頼まれたことは、私にとっては予想外のものだった。しかし、頷けないものでもなかった。
「うん、いいよ。いいけど、屋敷的には問題ないの?それ」
「問題ないッス。既に手は打ってあるんで」
そういうノアラは、どこかいたずらそうに悪巧みを思いついたような顔をした。
「引き受けてくれてありがとうございます!それじゃ、自分はこれで。長くお邪魔してしまって申し訳ないッス。⋯⋯おやすみなさい、殿下。いい夢を」
部屋を去っていったノアラを見送って、私も今度こそという思いで、ベッドに身体を預けた。
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マジでどうでもいい裏話
タイトルのゴーストマイノリティって、直訳で多分幽霊の少数派とかになると思うんですけど、別にノアラが死んでるとかではないです。ただの語感の良さです。「幽霊が見える少数派」と思ってください




