知ってるんですよ
「ん〜!美味しい〜!」
無事ミュシュパンテに着いた私は、注文したナポリタンを頬張った。普段パスタを食べる機会があまり無かったせいか、余計美味しく感じる。
「ネヒアは、本当にコーヒーだけでいいの?」
「はい。お腹空いてないので。それより、何でお二人で出掛けてるんです?リュサール様は?」
「稽古中。凄い集中しだしたから、邪魔すんのも悪いな〜って思って」
「ふーん。色々大変なんだね〜。あ、そういえば、この前の舞台も色々凄かったらしいですね。城の使用人達が噂してましたよ」
「そうなの!リュサール、黒いドレスを真っ白にしちゃったりしたの!それに、踊ってる姿も妖精みたいで、とても綺麗で⋯⋯って、あ」
ネヒアの物珍しいものを見るような目で見られていることに気付き、急に羞恥心が込み上げてきて、頭が冷静になってくる。
「ふーん?それでぇ?舞台の後とかなんかあったりしましたぁ?」
「な、な、なななんもにゃい!」
「噛んでますけど〜?図星ですかぁ?」
珍しくにやけ顔で執拗に責めてくるネヒアに、顔を逸らしてしまう。向かいに座るシルヴィさんは、どうしたらいいのかと慌てているようだった。
「あ、あの、ネヒア殿、殿下が困っているようだが⋯⋯」
「知ってます。だけど、殿下があの性悪男をそんな風に言うなんて珍しいから、問い詰めないと」
「問い詰めるって⋯⋯。そんなことされなくても話すよ」
「お、それじゃお願いします」
座り直したネヒアを見て、私はわざとらしく一つ咳払いをした。
「その、ネヒア。私ね、リュサールと結婚することにした」
私の言葉に、隣に座っているネヒアは、急に興味が無さそうに呆けた顔になった。そのまま、先程の勢いを失い、コーヒーに角砂糖を一つ足して、それをかき混ぜた。そして、カップを手に取り、一口啜った。
「そんなこと知ってるんですよ。なに新事実みたいな顔して話してるんですか」
「だ、だって、私がリュサールのこと避けてたから、他の人と結婚するのかな、とか考えてるのかと思ってたから⋯⋯」
「はぁ〜。そんなこと一切思ってませんよ。アイツがどんだけラディ様のこと好きかなんて嫌でも分かりますし、ラディ様がちょろいことも知ってますから。最初から時間の問題だったろうな〜って思ってたんで」
「そ、そう⋯⋯」
変に理解され過ぎていることには、どんな顔をしていいのか分からないくらい照れくさい気持ちだが、信じてもらえていたのは、単純に嬉しい。
(いや、信じてもらってたって言っていいのか?これ。呆れられてない?)
「ま、楽しくやれてるならいいですよ。あ、そうだシルヴィ様。ラディ様は、リガルーファルでどうですか?上手くやれています?」
「ちょっとネヒア!お母さんみたいなこと聞かないでよ!」
「王妃殿下はそんなこと言わないじゃないですか」
「だから母様じゃなくてお母さんって言ったんじゃん。⋯⋯あ、そうだ」
母様で思い出したことがあり、シルヴィさんへと向き直る。
「シルヴィさん、私の母様⋯⋯王妃殿下って、黒髪なんですけど、リガルーファルと関係ってあるんですか?」
「王妃殿下?特に聞いたことは無いが⋯⋯。殿下、王妃殿下の名前を教えてくれるか?恥ずかしながら知識不足でな⋯⋯」
「いえ、母様はあまり表舞台に上がりませんから、それも当然だと思います。それから、母様の名前はグラリエといいます。⋯⋯あの、ただ気になっただけなので、ほんと、何も無かったら何もないでいいんです。母様がそういう話全然しないので⋯⋯」
私のそんな言葉も意味をなさず、シルヴィさんは顎に手を当て、深く考えるような仕草をした。その反応に、興味本位というだけで聞いしまったことを少しだけ後悔している。
「⋯⋯いや、恐らく、リガルーファルとは関係が無いだろう。しかし、邪龍とは関係があるかもしれない」
「どういうことですか?」
「殿下は、リガルーファルが誕生したきっかけとされる伝承を知っているか?」
「はい。あの、邪龍に美しい女性捧げるって言っちゃったやつですよね?」
「そうだ。その一連の騒動があり、リガルーファルは生まれた。しかし、当然だが、その村に居た全員がリガルーファルとして一つの家族になったのではなく、村長が、リガルーファルという家を邪龍と共に生きる家にしたんだ。それは、その村の村民が呪われてしまったことが大きな要因だったといわれている」
「つまり⋯⋯?」
「王妃殿下は、その村民の末裔なのかもしれない」
そう語ってくれたシルヴィさんの話を咀嚼している最中、頬杖をついて話を退屈そうに聞いていたネヒアが割って入ってきた。
「でもさ〜、その話って三千年前のことでしょ?元々小さな村だったらしいし、当時の村民の血は殆ど絶えてると思うけど」
「でも、有り得るんじゃない?母様って、自分の故郷とか家族についてとかの昔の話、全然したがらないもん。リガルーファルがずっと生き残っているんだから、誰かしらの末裔が生きてても不思議な話じゃないんじゃない?」
(ここファンタジー世界だし。そういう話題って、異世界クオリティーでどうにでもなりそうなもんだけどな〜⋯⋯)
「ま、真実はどうあれ、こういった詮索じみたことはあんまするべきじゃありませんよ。陛下が王妃殿下をどこから拾ってきたのかは知りませんけど、こういうのは、知らぬが仏ってもんですよ」
「ネヒアも会話に入ってきたくせに」
「別にいいじゃないですか。口を開いてしまっただけで、俺は王妃殿下が何者かだなんて案外どうでもいいんですよ。大事なのは、あの人が王妃殿下ってことじゃありません?」
長年生きていたエルフだからなのか、妙に言葉に説得力がある。話をふらふら躱すのが上手いエルフだ。
「あ、そういや、ラディ様はいつ頃帰ってくるご予定で?確か、数日の予定でしたよね?」
「あぁ、うん。もう結構満喫したし、明日の夜くらいには帰ろうかな〜⋯⋯」
「分かりました。帰ったら他の使用人にも伝えときます。帰ってくるの、楽しみにしてますね」
「お待たせ致しました。特盛イチゴパフェです。注文以上でお間違いないでしょうか」
店員さんが、もりもりにデコレーションをされたイチゴパフェをテーブルに置く。私はデザートなんて頼んだ記憶がない。
「はいはーい。大丈夫ですよ〜。どうもありがとうございまーす」
ネヒアのその言葉を聞き、店員さんは伝票をテーブルに置き、一礼して去っていく。
「⋯⋯これ、ネヒアが頼んだの?」
「そですよ〜。来るの結構遅かったですね〜」
「いつ頼んでたんだ⋯⋯」
「お二人が気付かなかっただけですよ〜」
「お腹空いてないんじゃなかったの⋯⋯?」
「俺、スイーツと普通の食事のお腹は別腹の主義なんで。⋯⋯ん〜!うまーい!」
パフェを頬張った幸せそうなネヒアを見て、私とシルヴィさんは呆れるように目を合わせるのだった。
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