野蛮なこと
チュヲカさんの店を出た後、私達は街を見て歩いていた。しかし、髪色のせいなのか、至るところから視線を感じる。
「⋯⋯殿下、何処かで少し休むか?」
「そ、そうですね⋯⋯」
「なら、この前来た時に、美味しいお店を見つけたんだが、そこに行くか?」
「はい!」
と意気揚々と返事をした後で、私はとんでもないことを言ってしまったのでは、と後悔をした。しかし、その後悔も時既に遅く、シルヴィさんは道案内に対してなのか知らないが、やけに張り切っていた。
(この人、方向音痴だって、あの二人が言ってたな〜⋯⋯)
不安な気持ちに駆られながらも、私はシルヴィさんについていった。
その結果──
「ふむ⋯⋯あの時俺が行った店にしては騒がしすぎるな」
路地裏のカジノに入っていた。
「いや、あの、どこをどう歩いたらこんなとこに着くんですか!?探してたのって、レストランとかじゃないんですか!?」
「いや、レストランというよりは、喫茶店という言葉の方が近いな。メニューが豊富で、凄く静かな場所なんだ」
「はぁ⋯⋯。なんでチュヲカさんの店に行く時は迷わなかったんですか⋯⋯」
「あそこは何度も行ってるし、真っ直ぐ歩けば着くからな。迷った方が良かったか?」
「違いますよ!」
そう怒鳴り立てた時、ゆらりと私に影がかかる。何かと思って恐る恐る顔を上げれば、そこには厳つい強面な男性がジョッキ片手に私達を見下ろしていた。
「姉ちゃん達ぃ、さっきからピーチクパーチクうっせぇなぁ。痴話喧嘩なら外でやってくんねぇか?ここはお前らみたいな若造が来るとこじゃねぇんだよ。分かって入ってやがってんのか?あぁん?」
「ひっ!?し、しししシルヴィさん!ほら、早く出ましょ!ここ私達が来ていい場所なんかじゃありませんって!」
「しかし道くらい聞かなければ⋯⋯」
「そんなん表に出て聞けばいいじゃないですか!こんなとこにいる人に聞いても絶対嘘つかれますってば!」
「そんなことは無いと思うが⋯⋯」
「おいちょっと待て!」
私がシルヴィさんの背中を強引に押して店を出ようとしたところを、先程の男とはまた別の男が、ドアを塞ぐように私達の前に立ち、進路を邪魔してくる。
「ちょ、な、なんですかぁ⋯⋯?」
「お前達、その髪色、王族とリガルーファルの者だろう!?」
「⋯⋯⋯⋯ち、チガイマス」
「そうだが、それがどうかしたか?」
「えぇ!?ちょ、ちょっとシルヴィさん!?」
ロレッタを追いかけて路地裏に迷い込んだ時の経験を活かして咄嗟に誤魔化したというのに、それをシルヴィさんに台無しにされてしまった。
男達は、シルヴィさんの言葉を聞いて、目を細め、ぎらりと鈍い光を眼に灯した。その鋭さには、あの時のハサミを思い出してしまう。
気付けば、私達の周囲には、先程の二名のみならず、多数の者に囲まれてしまっていた。なんとか逃げ道をこじ開けようと、決死の思いで魔力を右手に纏わせる。氷属性の冷気が、私の焦りきっていた頭も冷ましてくれる。
「⋯⋯シルヴィさん、ドアの前にいるあの男に氷の刃を飛ばしたら、全速力で逃げてください」
私が彼にだけ聞こえるよう小声でそう伝えると、シルヴィさんは小さく頷いてくれた。それを見て、私は隙を狙って、氷の刃を飛ばした。しかしそれは、横から入っていた火の玉によって溶けてしまった。
「え⋯⋯?」
「第二王女殿下ともあろうお人が、こんなとこでなに野蛮なことしてんですか〜。俺を巻き込まないでくださいよ」
暫く聞いてなかったその軽い口調に、驚きで声が出てこない。
「ネヒア⋯⋯?」
「はい。貴女の専属執事、本日非番のネヒアですよ」
「な、何でここに⋯⋯?」
「俺はただの趣味です。このカジノが好きで、よく来てるんですよ。それより、その質問を聞きたいのは俺の方ですって。何がどうなったら、貴女みたいな人がリガルーファルの人とカジノになんて来るんですか。というか、お隣どちら様です?」
「え、あぁ。紹介が遅れてすまない。俺はシルヴィ・リガルーファル。ええと、ラディの執事ということなら、リュサールの兄、といったほうが早いだろうか?」
「そうですね。あ、俺はネヒア。さっきも言った通り、ラディ様の専属執事で、ついでにエルフで白髪ですけど、あまり気にしないでくださいね。あの性悪腹黒⋯⋯じゃなかった。リュサール様と、あまり変わらないですから」
ネヒアは、私の婚約者のことを性悪で腹黒だなんて思っていたらしい。その言葉を否定したい自分がどこかに居たが、正論で間違っていない、という自分が大きすぎて、潰されてしまった。
「そうか。ならそうしよう。それと、先程の質問には俺から答えよう。実は、ミュシュパンテという喫茶店に行きたいのだが、道に迷ってしまったんだ。外装は、この店と少し似ているんだが、それで間違えてしまったんだ⋯⋯」
「なるほど⋯⋯?それにしても、ミュシュパンテ⋯⋯。あぁ、それなら、俺多分知ってますよ。案内しましょうか?」
「本当!?助かる〜⋯⋯。ネヒアならシルヴィさんみたいに迷うことも無いだろうしね」
「殿下、それは流石に傷つくぞ⋯⋯」
「お、おいネヒア!その二人を逃がすつもりか!?」
ネヒアの乱入からずっと黙っていた賊のうちの一人が、そんな声を上げた。それに、ネヒアは心底鬱陶しそうにそいつに顔を向けた。
「あのねぇ。さっきの話聞こえなかったの?俺は、お城で働いてる執事なわけ。俺にとってなにより大事なのはご主人様。それは、例え休暇中でも変わらないの」
「そ、それじゃ、そいつらの髪を少しでもいいから切らせてくれよ。金髪と黒髪なんて、滅多にお目にかかれないんだ。どれくらいの値が付くか、お前も気にならないか?」
「全然?」
「そんな萎えること言うなよ。あ!報酬は、お前にも分けてやってもいい!例え取り分が三割だったとしても、この先暫くは贅沢に暮らせるはずだ!」
未知の世界の会話に怯える私を、シルヴィさんが前に立って庇ってくれる。その姿は、下の子を守る兄のように見えた。流石は、七人兄弟の長兄なだけはある。
「あのさぁ!俺は、大事なゲーム友達を失いたくないから、こんなに優しく言ってあげてるんだよ?そもそも、俺はそんな報酬なんか無くても、十分良い暮らしさせてもらってるからいらないし。そのありもしない幻の金は、娼館の女にでも使ってあげたら?ま、ケツ叩かれて追い出されるだろうけど」
「くっそ!お前、少し運が良いからって、調子に乗りやがって⋯⋯。いや、どうせイカサマしてたんだ!このイカサマ野郎ー!!」
男は、怒りを顕にして、ネヒアに一目散に殴り掛かっていく。
「はぁ⋯⋯。人間の男って、いつも暴力に辿り着くよね〜」
彼が殴られると思い、瞼をぎゅっと下ろし固く閉ざす。しかし、聞こえてきたのは殴り掛かった男の悲鳴だった。
「え⋯⋯?」
恐る恐る目を開けると、そこには、男の背中をヒールのあるブーツで踏みつけているネヒアの姿だった。
「はぁ。こんなことなら、ピンヒールのブーツ履いてくるんだった。ラディ様に手を出そうとする奴に手加減してるみたいじゃん。ま、してるけど。じゃなきゃ死んでるしね〜」
「ね、ネヒア⋯⋯?」
「なんですか?あぁ、もしかしてお腹空きました?すみません。もう少し懲らしめないと、コイツ反省しないんで、もう少し待ってもらえます?」
「ぐあっ⋯⋯」
男性は苦しそうな呻き声を上げており、動く気配は無かった。
「あ、いや、可哀想だから、離してあげて⋯⋯」
「うーん。ラディ様がそういうなら、離してあげるか。感謝しろよ」
ネヒアは男の腹から足を退けて、私達の方へと歩いてきた。
「⋯⋯なぁ、殿下。ヴァリーを抱えている俺が言えたことではないが、殿下の執事も中々にクセが強いな」
「そうですね⋯⋯」
「聞こえてますよ」
「ね、ネヒア⋯⋯」
「全くもう。ほら、ミュシュパンテに行くんでしょ?さっさと行きましょ。こんなとこ、お二人みたいなお偉いさんが来ていい場所じゃないんですから」
私達はネヒアについていって、カジノ、そして路地裏を抜け出し、彼の案内の元、ミュシュパンテへと向かっていくのだった。
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ネヒアが一番野蛮だよ




