好きになっちゃいそう
「はいはーい!今行くー!」
チュヲカさんの声を聞いて、兎の置物をカウンターへと置く。それと同時に、がたがたと物音がしたのが聞こえた。
「いってー!おい誰だよ!こんなとこに箱置いたやつ!」
「お前だバカ!そんな歩きにくい服着てるから転けるんだよ」
「あぁ?可愛い服はオレのモチベなんだよ。お前みたいな服テンション上がんないね」
シルヴィさんと茶々言い合いながらも、チュヲカさんはカウンターの奥の部屋からシルヴィさんと一緒に出てきた。
「ったく、どいつもこいつもオレの性別ばっか言及しやがるんだからよぉ。⋯⋯あ、シルヴィは倉庫片付けといて」
「はぁ⋯⋯。貴族をこき使う庶民なんて、お前くらいだよ。いいから、さっさと会計済ませてこい」
「どうも〜。⋯⋯殿下、お待たせ。どれ選んだの?」
「これです」
私は、カウンターに置いたばかりの兎の置物を指さした。それを取ったチュヲカさんは、少し驚いたような顔を見せた。
「へぇ。てっきり適当な人形を取るのかと思ってた」
「いや、リガルーファルに人形なんて持っていったら、変な魂入って動き出しそうじゃないですか」
「あ〜⋯⋯。まぁ、あそこ不気味だもんね〜」
「チュヲカさんも、リガルーファルに行ったことがあるんですね」
「うん。ヴァリーのメンテでね〜。⋯⋯あ、ヴァリーのこと知ってる?人じゃなくて、事情?」
チュヲカさんが言いたいのは、ヴァリーさんの種族や内情についてだろう。だから、言いづらそうに目を逸らしながら話したのだ。
「知ってます。人形、のことですよね?」
「そうそう。知ってたんだ。あ、値段は九百ユルね〜」
「え!?そんな安くていいんですか?」
「いいよ〜。元々千五百ユルだったし。殿下なら、安くしたら後々なんかしてくれそうじゃん?」
「なんかするつもりありませんけど⋯⋯」
財布から言われた通りの金額を出し、会計を済ませる。そして、チュヲカさんが丁寧に包装して、紙袋へと入れてくれた。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
「⋯⋯さて、少しだけ話の続きしない?オレ、王族の人と話すの初めてだからさ〜。こんな話しやすい人だなんて思わなかったよ」
「よく言われます。皆の思う王族って、そんな話しづらい感じなんですか?」
「話しづらいというか、堅物そうっていうか⋯⋯。あんまいい話聞かないじゃん?第二王女殿下も、なんか粗暴やら乱暴やら、使用人をバンバン首にするとか、なんか嫌な話しか聞かなかったし」
「うっ⋯⋯」
久々に聞く悪女ラディの話に、思わず顔を背けてしまう。私であって私でない存在の話を聞くのは、不思議というより、居た堪れない気持ちになる。それは、人格が人格のせいだろう。
「そ、それは、幼い頃のヤンチャみたいなものなので、忘れてください⋯⋯。い、今はそんなことしてないので!」
「王族って、子供の頃のヤンチャもやること凄いんだね」
「い、いえ。そんなことは、ない、はず⋯⋯」
見本の兄様と姉様があれのせいで、はっきりと断定することが出来ない。
「はっきりしないねぇ。ま、いいけど。それより、ヴァリーの様子はどう?ちゃんと執事してる?」
「はい!凄く頼もしい執事さんですよ。⋯⋯まぁ、リュサールに対しては、かなり愛情が重いみたいですけど」
「あー、あの白髪の人か。オレ話したことないんだよね」
「そうなんですか?リガルーファルに行ってるのに?」
「うん。遠目には何度も見たことあんだけど、ヴァリーのやつから接触すんなって言われてんだよ。オレを経由して、正体がバレるのが嫌なんだって」
「そうなんですか⋯⋯」
嫌われたくないという彼の気持ちは分からなくはないが、だからといって、こんなに徹底的に避ける必要があるのだろうか。
「まぁそもそも、リガルーファルに行く理由もヴァリーのメンテくらいで、別にオレは客人とかでも無いし、他の人と話す理由もないからね〜」
「でも、シルヴィさんとは仲良さそうでしたよね」
「そだね。シルヴィは、ヴァリーの事情を理解しているし、オレの格好も、文句は言うけど、説教たれてこないから、一緒に居て楽なんだよね。オレを男友達だと思ってくれてる」
チュヲカさんの言葉に、改めて彼の姿を見てみる。カウンターに頬杖をついているその姿は、生きた人形のように美しかった。しかし、喋ればその人形は人間へと逆戻りしてしまう。
「⋯⋯聞いていいか悩んでたんですけど、チュヲカさんは、どうしてそういった格好してるんですか?」
「お?なに〜?殿下も説教〜?」
「違います!ただ、単純に気になって。言えない理由があるのなら、無理に聞きません。私とチュヲカさんは、今日会ったばかりですし、他人の服の趣味を聞くのって、変な話ですから」
「⋯⋯他人の服の趣味、ね。それ、殿下はオレの着てる服が気になるの?それとも、オレが何でこんな服着てるかが気になるの?」
「うーん⋯⋯。どっちも?」
「ふーん?」
端正な顔のパーツである桃色の瞳に間近で見つめられ、身体が固まってしまう。その瞳は、近くで見ると桃色の中に、少し赤色が入っているのが見えた。意外と目立つその赤色は、鋭く私の瞳を射抜いているようだった。
「殿下って、面白いね。好きになっちゃいそう」
「え?」
「今、オレにドキッとした?」
「し、してないです⋯⋯」
「えー?残念」
そこでようやくチュヲカさんは離れてくれた。妙に心臓がバクバクと煩くて、それが気持ち悪く思えてしまう。リュサールの時とは全くの別物だ。
「おいチュヲカ、片付け終わったぞ」
「あ、はいはーい。どーもありがと」
「ついでにパーツも貰ったぞ。金はこれでいいか?」
シルヴィさんは、手に持っていた布袋を、チュヲカさんに手渡した。チュヲカさんはそれを面倒くさそうに受け取り、中を軽く見た。
「ん。まぁいいでしょ。また近いうち、リガルーファル行くから、そん時はよろしく」
「あぁ。⋯⋯殿下、他に買いたいものが無いなら、店を出よう」
「あ、はい。チュヲカさん、私達は、これで失礼しますね」
「はいはい。あ、そうだ殿下、ちょっと耳貸して」
「え?はい⋯⋯」
チュヲカさんの方に寄ると、彼は私の耳元へ顔を近付けてきて、小声で話し出した。
「もしリュサール様に泣かされたら、いつでもおいでよ。励ますくらいはしたげる。⋯⋯またね、ラディ」
そう話して、彼は私から離れていった。
「今度時間出来たら、お城にも行くね。といっても、庶民は図書館くらいしか入れないけどさ」
「は、はい。お待ちしています。あ、それとチュヲカさん!」
「なに?」
「今言われた話、多分、実現すること、ないと思いますので、心配してもらわなくて大丈夫です!」
私の言葉に、チュヲカさんはぽかんと口を開けっ放しにしてしまった。かと思えば、口角で弧を描いた。
「はいはい。ざーんねん。またのご来店お待ちしていまーす」
やる気のない棒読みで、挨拶をしたチュヲカさんに手を振り、私達は店を後にした。
***
「うーん。勝算の無い勝負って、やらない主義なんだけどな〜⋯⋯。ま、遊ぶくらいいっか」
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