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運命の人は男の子でした  作者: 甘語ゆうび
一章【幼少期編】
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寒い寒い雪山に

そして翌日、迎えた雪山修行の日。私達は早朝に城門の前へと集まっていた。


「とうとう自然のエネルギーに触れられるんだよね。登山は面倒だけど、楽しみだね!ネヒア!」

「そうですね〜……。凄く楽しみですね〜……」

「エッケンブルク山へは馬車を使って向かう。隣国ガナミとの国境付近にある為、移動には時間は掛かるだろう。また、ランカの話だと、自然のエネルギーを自分のものにするには、一筋縄ではいかないらしい。何日か滞在すると思った方が良いだろう」

「何日も……。何日も、寒い寒い雪山に……?」


淡々と説明をしてくれるフィナ姉様とは対照的に、ネヒアはずっとぶるぶると震えていた。まだ王都を、出てすらいないというのに。


「……ネヒア、君はいつまでそう怯えているんだ。ラディの執事だというなら、腹を括って付いてこい」

「はい……。分かりました、分かってますよ……。付いていきますよ……」


ネヒアは、はぁ、と一つ溜息を吐いて、馬車へと乗り込んでいった。


「ラディ、我々も行こう。向こうに着いたら一気に冷えるだろうから、体を冷やさないように気をつけろよ」

「はい。ご心配ありがとうございます、姉様」


手を差し出してくれたフィナ姉様の手を取って、馬車へと一緒に乗り込む。登山道具がいっぱいに詰まったリュックサック三つと人間三人では、かなり手狭だった。


「……ねぇ、ラディ様。今回の目的って、登山じゃないですよね?自然エネルギーの吸収が目的ですよね?頂上登るとか言いませんよね?」


向かいに座っていたネヒアが、不安そうに私にそう問いかける。本当に寒いのが苦手なのだろう。声がひどく震えている。


「言わないよ。私だって好き好んで登山なんて行きたくないし」

「山に登ったことがないからそう言えるんだ。山頂からでしか、見られない景色だってあるんだぞ」

「姉様はアクティブですね。私にはとても……」

「俺もちょっと……。山頂って冷えるし」

「お前は本当そればかりだな」


隣に座る姉様が、呆れた声でそう言う。姉様の中のネヒアのイメージが冷え性で塗り替えられていきそうだ。


「それより、姉様は付いてきて大丈夫なんですか?騎士団の副団長なんですよね?何日も休むなんて……」

「心配は無用だ。ちゃんと代役は頼んであるし、団長がしっかり者だから、数日開けるくらいなんの問題も無い。それより、ラディは自分のことに集中してくれ。エネルギーに触れられないまま時間切れ、なんてならないようにな」

「はーい……。でも、エネルギーの吸収って、どうやるんでしょう。魔力探知と似たようなものかな。ネヒアはなんか知らないの?エルフだし」

「エルフってだけで色々聞かないでくださいよ……。まぁいいですけど。エネルギー吸収の前に、まずは属性についておさらいしましょう。この世界に存在している魔法属性は六つ。炎、水、氷、風、大地、大樹です。自分がどの属性かを知るには、魔力鑑定をしなくちゃいけません。ラディ様もやりましたよね?」

「うん。あの、白紙の紙に念じるやつでしょ?」


魔力鑑定とは、自分がどの属性に属するかを知るために行うものだ。方法は幾つかあるようで、私がやったのは、一番シンプルな紙魔式というらしい。普通の紙を使って行うものだ。その紙に全魔力を込めて念じれば、紙に変化が訪れる。その変化が、自分の体に流れる属性、らしい。私がやった時は、紙の表面が少しずつ凍りついた。それが氷属性の変化とのことだった。


「そうです。それが、ラディ様の魔力です。それを使って、近いエネルギーが流れ出る場所を探すんです。これはもう根気です。自分とジャスト合う場所を見つけるんです。そして、見つけたら集中して、エネルギーを頑張って自分のものにするんです。これも根気です。気合いです。運が悪ければ向こうに拒まれます。自然は気まぐれなので」


なんて覇気のない声で説明してくれる。何処か遠くを見つめている瞳は、これからの雪山というよりは、苦い過去を思い耽っているように見えた。ネヒアは吸収に苦労したのかもしれない。


「ネヒアは、どれくらい時間が掛かったの?」

「えぇっと……。確か、一ヶ月くらいだったはずです。俺は炎属性なんで、溶岩地帯で過ごしました。もう二度と行きたくないですけどね」

「お前、寒いのだけじゃなくて暑いのも無理なのか」

「寒暖差っていうんですかね〜。極端に暑かったり寒かったりすんのが駄目なんですよ。だから、炎か氷以外が良かったですね〜……。そういえば、フィナ様の属性はなんなんですか?」

「私?水属性だが……。何故私の属性なんか聞くんだ?ランカならともかく、私のを聞いてもためにはならないだろう。私は魔法の知識は乏しいし、属性も違うんだから」

「いえいえ。剣技が優れているという話はよく耳にしますけど、フィナ様の魔力の話はあまり聞かないので。ちょっと気になっちゃって」


ネヒアの発言に、フィナ姉様は少し困ったように顔を歪めた。


「……まぁ、私は不器用だからな。剣を奮っている方が落ち着く。ああいうのはランカに任せるべきだ」

「ランカ兄様といえば、なんで今日来なかったんですかね?忙しいなんて言ってたけど、案外サボりだったりするのかな。ネヒアと同じで寒いの苦手だったりして」

「……いや、ランカは本当に忙しいさ。第一王子だからな。司書以外にやることがあるんだ。……私と違って忙しいから。今は特にな」


フィナ姉様は目を伏せてそう言った。兄様と姉様は、隠しごとが多い。私よりも幾つも歳上で、沢山のものを背負っているということは分かっているが、少しくらい軽くなってもいいのではないだろうか、とも思う。だって二人ともまだ十代だし、私が前世で二人の年齢だった頃は、遊び呆けてばかりだったのに。私がその荷を背負おうと思っても、きっと少しも持てないのだろう。だって、姉様や兄様に比べて、私はずっとずっと子供なんだから。


「……姉様達は、いつも大変そうですね。私に何か出来ることがあったら言ってくださいよ」

「……あぁ、抱えきれなくなったら、頼らせてもらう」


姉様はそれだけ言って窓に目を向けてしまった。


そんな気まずい空気を漂わせたまま、私達三人を乗せた馬車は極寒の雪山、エッケンブルク山へと向かっていった。

次回更新今日16時30分

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