そういうところ
廊下を歩き出したはいいが、どこに向かえばいいのだろうか。食堂には先程向かってみたが、既にリュサールは居なかった。私は、まだリガルーファルの屋敷の構造を把握出来ていない。それに、リュサールが何処に居るのかも見当が付かない。
(どうしよう⋯⋯。明るい時は、温室には行けないって言ってたから、それ以外の場所かな。でも、何処にいるんだろう?)
「殿下、何かお困りか?」
「え?」
落ち着いた低い声に話し掛けられ、咄嗟に後ろを向く。
「シルヴィさん!」
「殿下、俺に敬称は要らないと言ったはずだが⋯⋯」
「え、いえいえ!私よりも年上ですし⋯⋯。私はこちらの方が楽なので、このままでもいいでしょうか?」
「そうか。なら、そのままでお願いしようか。それより、何かを探していたのか?」
「リュサールを探しているんです。見かけませんでしたか?」
「リュサールなら、稽古場に行くのを見たぞ」
「ありがとうございます!失礼します!」
私はシルヴィさんに頭を下げ、ドレスの裾を掴んで廊下を駆けていった。彼の疑問の声が聞こえてきたが、構うことなく走ってしまった。後程、シルヴィさんには事情を説明しておいた方がいいだろう。
「リュサール!居る!?」
稽古場の扉を勢いよく開け、声を張上げる。思った以上に声が響いてしまって、少し恥ずかしくなる。
「ラディ?」
求めていた声に目を向けると、そこにはいつもと姿が違う彼が居た。薄いブラウスに、動きやすそうなレギンスパンツとスニーカーと履いており、手には舞台の時に使用していた扇が握られていた。そして、いつもと違って、彼は髪をクリップで一纏めにしていた。
「⋯⋯リュサール?」
「そうですけど、なんですか?その有り得ないものを見たような顔」
「いや、なんか、初めて見たから⋯⋯」
「ふーん?ドキドキします?」
彼は愉しそうな笑みを浮かべて、いつもの調子で私を揶揄う。
「し、しないよ!」
「へぇ?それで?ラディは、わざわざ僕を探しにきてくれたんですか?」
「あ、そう!さっきのこと、謝りたくて」
「さっきのこと?その話って長いです?」
「⋯⋯まぁ」
「なら座りましょうか。簡素な丸椅子に王女殿下である貴女を座らせるのも申し訳ありませんけど」
「そんなの気にしないよ」
「⋯⋯貴女なら、そう言いますよね。少し待っててください。持ってきます。あ、一つはそこにあるので、先に座っていてください」
リュサールはそう言って、奥の扉を開けて、その部屋へと入っていった。私は言われた通り、質素な丸椅子を持ってきて、休息を求めるように腰を下ろした。そして暫くして、椅子を一つ持って戻ってきた。彼は私の目の前に椅子を置き、それに繊細な所作で腰掛けた。
「さて、聞きましょうか」
「⋯⋯その、さっき、食堂で話して、喧嘩みたいになったじゃん?」
「なりましたね」
「その時は、勝手に、一人であれこれ暴走してごめんなさい。実はあの後、ヴァリーさんに会って、色々話したの。その時に、婚約破棄をした方がいいんじゃないかって言わちゃって⋯⋯」
「え⋯⋯」
悲しそうな声を上げるリュサールに、子供っぽい、なんて場違いなことが頭を過ぎって通り過ぎていく。耳を垂らした犬みたいにあからさまに落ち込む彼を、少しだけ可愛いだなんて思ってしまった。
「しないよ!?ちゃんと婚約破棄しないってヴァリーさんにも伝えたからね!?」
「⋯⋯そうですか」
「うん。リガルーファルの人達の苦悩も色々と話してくれたし、ヴァリーさんが心配する気持ちも分かったよ。それでも、私はリュサールの期待に応えたいと思っているし、リュサールが残り短い時間しか生きられなくても、私はリュサールと一緒に居るつもりだよ」
「⋯⋯やっぱり、貴女は変わりませんね。貴女のそういうところが、僕はずっと大好きなんです」
「そういうところ?」
「はい。ずーっと、真っ直ぐに僕のところを見てくれるところです。しかも、今はあの子じゃなくて、ちゃんと僕を見ている。それが、堪らなく凄く嬉しい」
リュサールはそう言ってから、私の額に軽くキスを落とした。
「⋯⋯⋯⋯」
「なんです?呆けた顔して」
「い、いや。急に、されるなんて思ってなかったから⋯⋯」
「キス一つに一々承認なんて要らないと言ったのは、貴女の方でしょう?」
「いや、まぁ、うん。言ったけど⋯⋯」
もしかして私は、とんでもないことを口走ってしまったのだろうか、なんて、恐ろしい考えが頭に浮かぶ。
「僕は十年もの間、貴女を想い続け、六年もの間会えずにいたのです。そして、貴女が僕の好意をやっと認めてくださったのです。これくらい、許してくれませんか?」
「⋯⋯調子に乗りすぎ。そんなこと言って、私が嫌いになったらどうするの?」
「そしたら、また惚れさせてみせます」
「⋯⋯女の子って減点方式なんだよ。一回嫌いになったら、もう一回好きになることって滅多に無いんだよ」
「それは無いですよ。例え貴女が僕のことを嫌いになっても僕から離れることは出来ません。貴女と僕は、魂が繋がってますから」
「なにそのロマンチストみたいな台詞」
「ロマンスなんて概念的なものではありませんよ。いい機会だから、お話しましょうか」
リュサールは、そこで一度息を吸って、吐き出した。
「リガルーファルと、魂の結び付きについて」
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遅れてないです!!!!(遅刻)
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