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運命の人は男の子でした【完結済】  作者: 甘語ゆうび
三章【リガルーファル家編】

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嫌われたくない

「はぁ⋯⋯」


 リュサールから逃げるように、適当な部屋の扉を開け、そこに飛び込む。扉に背を付けて床に腰を下ろせば、やってくるのは反省と後悔ばかりだ。リュサールは、私が思っている以上に、多くのことを知り、多くのものを背負っている。しかし、私はそれを真の意味で理解なんてしていなかった。おまけに、彼にとっては幻想にしか思えないだろう夢物語を語ってしまった。


(酷いことを言っちゃったとは思ってるけど、でも、さっきのはリュサールの態度にだって、問題はあるもん)


 なんて彼のせいにしたって、心の錘は何も軽くはならない。それどころか、重さは増して、私の心をすり潰そうとしてくる。

 リュサールは、私のことを思って、隠すべき真実を隠し、話せる事実を話してくれた。それなのに、私は彼の話を受け止められず、逃げ出してしまった。


「こんな所にお客人とは珍しいですねぇ。それも、かなりお疲れのご様子」


 目の前から聞こえて来た声に顔を上げ、聞き覚えのある声の主を確かめる。


「⋯⋯ヴァリーさん」

「ふふ。こんにちは⋯⋯あぁいえ、まだおはようございます、でしょうか。まぁ、挨拶なんて些細なことですし、どうでもいいですね」

「⋯⋯ヴァリーさんは、何で此処に?そもそも、この部屋は一体⋯⋯」

「知らずに入ったのですかぁ?」

「ご、ごめんなさい!ちょっと、慌ててたから⋯⋯」


 立ち上がり、部屋を見回す。アンティーク調のキャビネットと戸棚には、機械のパーツらしきものや、ネジやドライバー等の工具が仕舞われている。キャビネットの上には、子供が好みそうな可愛らしい人形やぬいぐるみが飾られていた。反対側の壁に置かれている本棚には、本が隙間なく並べられていた。テーブルの上には、書類や何かのパーツ等が乱雑に置かれていた。まるで作業部屋だ。


「あの、ヴァリーさん、この部屋って、一体なんの部屋なんですか?」

「今は私の私室です。以前は、リガルーファルの歴史ある記念品を保管する倉庫でした。しかし、ものは殆ど舞姫の待機部屋へと移動していき、残ったものは応接間へと運ばれました。一応、そこの本棚にまだ残ってはいますが、絵画とか記念品とか、そういったものは残っていません」

「そうなんだ⋯⋯。でも、それがなんでヴァリーさんの私室になるんですか?というか、執事って、私室を持つものなんですか?」

「普通は持たないかと思われますよ。主にとっては、使用人をそこまで優遇する理由はありませんし、ただの負担ですからね。しかし、旦那様はもうこの部屋を使うつもりは無いらしいですし、私も、部屋にものが入らなくて困っていたのです。しかし、使用人である私自ら『あの部屋を私室にくれ』なんて頼めないでしょう?そう悩んでいたら、旦那様の方から、この部屋を私の部屋にしていいと言ってくださったのです。それで、お言葉に甘えて、この部屋は私の私室となったわけなのですよ」

「へぇ⋯⋯」

「さて、殿下の質問には応えました。今度は私が質問しても宜しいですか?」

「どうぞ」

「何故、お一人で行動されているのですか?貴女は、常人よりも霊を寄せ付けやすい体質でしょう。そして、この屋敷はベラリヤで最も霊が多い場所です。一人で行動されるのは、本当に危険なのですよ。また、霊に襲われたら、どう対処するおつもりです?」


 彼は腕を組み、鋭い眼差しで私を見つめてくる。

 本当に、私は何も考えていない。ヴァリーさんの質問にだって、答えを考えてしまう。


「そ、その、ごめんなさい。ちょっと、リュサールと喧嘩しちゃって。いや、喧嘩といっても、私が一方的に落ち込んだだけな気もしますけど、とにかく、一人で、色々気持ちと情報を整理したかったんです。勝手に部屋に入ったのも、感情に任せて一人で行動してしまったことも、ごめんなさい」


 頭を下げて、謝罪の意思を示す。


「頭を上げてください。貴女にとって、貴女自身の頭は安いものだと思っているのかもしれませんけど、他の者にとっては、自分の人生を案じる程に恐れるものだったりするらしいのですよ。⋯⋯まぁ、私は人間では無いので、恐れるものなんて蛇以外ありませんけれどね」

「ヴァリーさん、蛇苦手なんですね⋯⋯って、人間じゃない!?」


 驚く私とは対照的に、ヴァリーさんは至って冷静のように見える。


「えぇ。私は人間ではなく、人形です。その証拠にほら、指が関節になっているのですよ」


 ヴァリーさんは手袋を外して、自身の手を私に見せてくれる。その手は、関節人形そのものだった。手首と手はパーツで繋がれており、人間のものではない。


「触ったらもっと分かりますよ。人間とは明らかに違いますから」

「そ、それじゃ、失礼します⋯⋯」


 彼の手にそっと触れると、それは陶器のような滑らかさだった。人間のように柔らかくもなく、温かさも無い、硬い肌だ。


「うわぁ⋯⋯。本当に人形みたい」

「人形みたい、ではなく、本当に人形なのですよ」


 ヴァリーさんは私から手を離し、再び手袋をはめる。


「ここも、置いてあるものの殆どは自分自身のメンテナンスの為のものです。私は、人よりも遥かに長生きし過ぎているので、この身体も、少しずつ錆びてきているのです。一応、定期的に人形師の方にメンテナンスをしてもらってはいますけれど、パーツを取り替えても、結局の根本的な解決は出来ていないのです。私は、造りが特殊なようなので」

「そんな⋯⋯。それって、ヴァリーさんが、近いうちに亡くなってしまうかもしれないってことですか?」

「まさか。そんな大層な話ではありませんよ。ずっと前から身体の錆びはありましたし、大変大変、今回こそ死んでしまうかもしれない、なんて一人で慌てても、いつもどうにかなってますから。今回もなんとかなりますよ」

「なら、どうして私にこのことを話したんですか?」


 ヴァリーさんと私は、出会って時間も経っていないし、こんなに大事なことを理由なしに話すとは思えない。話さなくたって問題ないはずだ。


「⋯⋯そうですねぇ。何故でしょう。私なりの、人間の励まし方なのかもしれません。それに、お嬢様以外には、別に隠すことでも無いと思っていますし」

「⋯⋯その、色々聞きたいんですけど、何でリュサールのことを『お嬢様』って呼んでるんですか?」

「だって、あの方は私にとってはずっとお嬢様ですから。彼は昔から男性でしたし、修行期間を終えたとしても、私のお嬢様という事実は変わりませんから。それに、彼は美しいですから、お坊ちゃまよりお嬢様の方が似合うでしょう?それより、他にも聞きたいことがありそうですね。なんです?」


 彼はテーブルとセットで置かれていた椅子を引き、腰を下ろして、脚を組む。そして、私にはもう一つの椅子に座るよう促した。私はその椅子を引き、腰を下ろした。


「⋯⋯はい。その、リュサール以外に隠すことではないというのは、どういうことですか?他の人は、知ってるんですか?」

「知ってるのは、旦那様と奥様、それからシルヴィ様だけです。他の者には、話す機会がありませんし、無理して話すことでもありません。前者の質問に答えるのなら⋯⋯嫌われたくないから、でしょうか」

「嫌われたくない?」

「はい。私は、人間のことは嫌いではありませんが、別に好きでもありません。そもそも、好き嫌いというものの実感があまり無いのです。お嬢様に対しても、好きだから引っ付いてたわけではありません。可哀想だと想ったから、彼を守るべきと思ったのです」

「可哀想?リュサールは、リガルーファルで楽しくやれてるように見えますけど⋯⋯」


 私はここに来て大して時間は経っていないが、リュサールを可哀想だと思ったことは一度も無い。


「えぇ。今はそうかもしれませんね。しかし、お嬢様が産まれた当時は違います。あの時は、今と違って使用人も多く、霊が見えない者も居ました。彼らは私達とは違って、一般的な感性を持っていたので、白髪のお嬢様が産まれたことを、厄災だのなんだのとあらぬ憶測を立てて、勝手に恐れました。実際はそんなことないのに。私は、そんなお嬢様を哀れに思って、お嬢様の周りの手伝いをよくするようになったのです。お嬢様が、そんな私を鬱陶しく思ってるのは知っていましたけれど、当時は良い牽制になりました」

「今も、かなりしつこく引っ付いていますよね⋯⋯」

「はい!だって、今は本当にお嬢様のことが大好きですから!お嬢様がどれだけ私のことをどれだけ鬱陶しく思っていようと、私はお嬢様に引っ付きますからね!」

「⋯⋯⋯⋯」


 嫌われているということを自覚しながらも、話しかけにいく姿勢は、凄いと尊敬するべきなのだろうか。


「まぁ、とにかく?私は他人には嫌われても別に構いません。それは、殿下、貴女にも言えることです。あぁ気を悪くされないでくださいね。嫌われたいわけではありませんから。ただ、なんとも思わないだけです」

「は、はい⋯⋯」

「でも、お嬢様は別です。⋯⋯あの方に本当に嫌われてしまったら、私はまた、耐えられなくなるでしょう。だから、人形であるということを隠しているのです。同族だと思っていたら異族だったなんて、人間にとっては、ショックが大きいみたいですから」


 ヴァリーさんは、そう言って顔を伏せてしまった。過去に何かあったのかもしれない。しかし、それを私が聞くのは無礼だ。


「⋯⋯そういうことなので、お嬢様にはこのことを喋らないでくださいね」

「分かりました。でも、リュサールはそんなことで、ヴァリーさんのことを嫌わないと思いますけど⋯⋯」

「えぇ知っています。貴女みたいなぽっと出の小娘よりも、私の方がお嬢様をよく知っているのですよ」

「ぽ、ぽっと出の小娘⋯⋯」


 第二王女にそんな口を利くヴァリーさんに、こちらが怯んでしまう。何故そんな平気そうに言えるのだ。


「えぇ。こんな口を叩く私を捕まえて牢に縛りますか?それとも、身体のパーツを全て外して粉々にされますか?」

「し、しませんよそんな怖いこと!!」

「えぇ。頷かれたらどうしようかと思いました。そうだ殿下。せっかくですし、貴方達の婚姻について、私の意見を話させてください」

「は、はい⋯⋯。どうぞ」


 何を言われるのかと身構えながらも、彼の言葉に耳を傾ける。


「お嬢様との婚姻は、破棄された方がよろしいかと思います」


「⋯⋯え?」

よければ、ブクマや評価、リアクション等お願いします。一言の感想だけでも、作者のモチベになります


マジでどうでもいい裏話

ヴァリーは、自分でメンテナンスを行う際、一人だと手の届かないところもあるため、シルヴィに手伝ってもらったりしています。お陰で、シルヴィは手先が器用になったり、人形の仕組みに詳しくなったりしたそうです。主人の子供と使用人という主従関係ではありますが、結構友人的な意味で仲は良いです

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