婚姻の話
お腹が空いていた私は、リュサールに連れられて、食堂へと足を運んでいた。朝食を食べ終わり、用意された紅茶に口をつける。私の前には、頬杖をついてこちらをずっと眺めてるリュサールが座っていた。
「ふー。ここの料理は本当に美味しいね」
「王城の料理とどっちが美味しいですか?」
「え?え〜?うーん⋯⋯。どっちもどっちでどっちも同じくらい美味しいからなぁ⋯⋯。悩む〜⋯⋯」
「ふふ。その言葉、シェフに伝えておきます。第二王女殿下から、国の城の料理と同じくらい美味しいと言われるのは、凄く嬉しいと思いますから」
「え!?い、いいよ、恥ずかしいし⋯⋯」
「いいえ、伝えます。あ、そうだ。そういえば、ノアラとフォルテは迷惑を掛けてはいませんか?貴女の部屋に向かった際、色々と大変そうだったので、少し心配しているんですけど⋯⋯」
「え?あ〜⋯⋯」
目を逸らしながら、二人について考える。ノアラとフォルテのことは迷惑なんて思っていないし、二人と居るのは楽しいと、心の底から思っている。ただ、いつ話しても底知れないエネルギーを抱えながら接してくるせいで、疲れはする。しかし、良い友達だと思っている。
「うーん。迷惑とは思ってないよ」
「本当ですか?ヴァリーや父さんに相談して、他のメイドを付けさせてもらったりも出来ると思いますけど」
「本当に大丈夫!もう何回も二人に助けてもらってるし、私って、今まで同い年の子と接する機会にあまり恵まれてこなかったから、二人と話すのは凄く新鮮で、楽しいよ。良い友達だと思ってる」
「友達、ですか。それは良いことですけど⋯⋯あぁ、いや、僕が王位や主従関係についてのことをとやかく話すのは野暮ですね。そういったのは、大人のやるべきことであって、婚約者の僕がすべきことじゃないですね」
「それ言ってるんじゃない?まぁ、もう今更だけど」
十年もこの世界で暮らしてるにも関わらず、私は未だに王族らしくないらしい。しかし、それも仕方ない話だ。わたしのお手本となるべき兄と姉が王族らしくないのだから。前世で王族経験ゼロの私では、王族らしくなるのは無理な話だ。執事やメイドや師匠も皆一癖あってはまともでは無いことも原因なのかもしれない。
「⋯⋯待って、よくよく考えたらさ、私の周りの人達って、皆一癖も二癖もあるよね」
「まぁ、オブラートに包めばそうですね」
「包まないとどうなるの?」
「⋯⋯変人?」
「だよね。だからさ、私が王族らしくなるのって難しいと思うの。父様や母様も私と積極的に関わろうとしてこなかったし。呼び出したと思ったらなんか政治の話されることばっかだし」
「それはちゃんと応えてあげてください」
「とにかく!」
机をバン、思いきり叩き、私は立ち上がった。
「私が王族らしくなるのは無理って話!つまり!私にも女王になる資格は無い!だって王族らしくないもん!」
「⋯⋯それは構いませんけど、それなら誰が王位を継ぐんですか?」
「⋯⋯⋯⋯」
半ばやけになった回答は、リュサールに冷静に返されてしまった。私も頭が冷めてきて、再び椅子に腰を下ろした。
「⋯⋯はぁ、もうこの話辞めよ。リガルーファルに来てまで王位の話なんてしたくないよ⋯⋯」
「なら、婚姻の話でもします?」
「⋯⋯うん。そっちの方がまだいい」
婚姻という言葉に、昨日の一連の出来事を思い出してしまって、頬が熱くなっていくのを肌で感じてしまう。
「なら、まずは確認からしましょうか。⋯⋯ラディ、改めて、僕と婚姻を結ぶ気になってくれましたか?」
「⋯⋯うん、なった。けど、まだ無理」
「へぇ?まだ無理とは?」
「私、思ったよりリュサールのこと、そんなに知らないんじゃないかなって。ほら、婚姻って、結婚でしょ?それって、私達、一生もののパートナーってことでしょ?だから、リュサールのことは、その、好きだけど、もっと、ちゃんと知ってから結婚したい⋯⋯」
指をもじもじと動かし、目を逸らしながらそう話す。我ながら恥ずかしいこと言ってしまったと感じているせいで、心臓が煩く脈打っているし、耳が燃えそうなくらい熱い。
「⋯⋯貴女のその気持ちは嬉しいし、心から尊重したいと思っています。でも、難しいかもしれない」
「難しいって、どういうこと?」
「恐らくですが、僕の余命はあと数年です」
「え⋯⋯」
壁の発した言葉が、信じられない。残り、数年しか生きられないと、そういう意味だなんて信じたくない。
「邪龍を討伐出来れば、寿命も伸びるのかもしれませんが、それは不可能に近いでしょう。なんせ、邪龍を封印した偉大なる魔法使いでさえ、邪龍を討伐することは叶わなかったのです。なので、封印という形を取りました。しかし、魔法使いもただの人間です。術者が死ねば、必然的に魔力は弱まり、封印は段々と解けていきます。そして、封印が弱まれば、封印をされていようが、自我を持てるようになってしまいます。そうなれば、自分は動けなくても、封印の解析や、遠隔から操ることだって出来てしまいます。そして、邪龍は今その段階です。そして邪龍は、過去に二度封印されています。龍は知力が高く、学ぶ生き物らしいので、邪龍は二度の封印で魔法を学んでいるでしょう」
「で、でも、魔法だって進化しているでしょ?新型魔法だって出来たんだし⋯⋯」
「新型魔法は確かに手軽で、魔法を使いたい人間にとっては最高の魔法ですが、エネルギーは旧型魔法には劣るそうです。リリウムさんや、過去に王族魔導師殿から聞いた話なので、事実は分かりませんけど。ラディの方が分かるんじゃないんですか?」
「それは、まぁ⋯⋯」
「取り敢えずまぁ、色々話しましたけど、まとめると、悠長にしている時間は無いということです。皆の見解だと、封印が解けるまで時間は掛からないとのことらしいですし」
「そう、なんだ⋯⋯」
これから、私の知らない彼を知って、もっと好きになって、結婚して、一緒に暮らして、一生を添い遂げられると思っていた。初めて、私の人生をあげたいと思える人に出会った。ゆっくり、時間を掛けて、一緒に隣を歩いてくれると思っていた。クルリさんから邪龍について聞いた時には、知識としてインプットしただけなのに、本人から言われるのは、心が苦しい。
「⋯⋯ラディ」
「ごめん。私、これから、ずっと、リュサールと居ると思ってたから」
「謝るのはこちらの方です。ごめんなさい」
「それなら、早く婚姻を結んだ方がいいよね⋯⋯」
「そう言わないでください。僕の言い方が悪かったです。確かに、僕に残された時間は多くはありませんけど、それは、貴女を急かしたいわけでも、貴女の気持ちを無視したいわけでもありません。それは、どうかわかってほしいんです」
「⋯⋯ごめんね。ちょっと、一人で考えさせて」
「ラディ!」
泣き顔を誤魔化すように顔を伏せ、席を立って急ぎ足で食堂を後にする。
後を追いかける足音は、聞こえなかった。
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ただの余談
めっちゃギリギリですが、投稿時間まだ日付超えてないんでセーフだと思ってます(時間は不定期なので)




