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運命の人は男の子でした  作者: 甘語ゆうび
一章【幼少期編】
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すきですか

セラーネ様に本を頂いてから更に一年。7歳に成長した私は、周囲との関係を築きながら、魔法の勉強に勤しんでいた。その本をくれた当の本人は、まだ帰ってきていない。独学で続けていくことを難しいと判断した私は、セラーネ様が帰ってくるまでの間、講師をランカ兄様に頼むことにした。今日も図書館の奥にある彼の私室にて授業を受けている。


「はい、今日はここまで!明日は、外に出て本物の自然のエネルギーで魔法を使おうか」

「はい!」

「……それにしても、今時旧型を使いたいだなんて珍しいよね。セラーネ様の影響?」

「はい。少しでも、あの人の見ていた景色を見てみたくて」


今の私は、自分の力を理解出来ていて、一般精霊の力を借りて魔法を扱うことが出来ている。しかし、使えるのは基礎中の基礎ばかりで、セラーネ様には当然遠く及ばないし、自分の身を守れる程の力も無い。私はまだまだ弱いのだ。


「……セラーネ様、早く帰ってこないかな」

「そうだね。俺もあの人に会いたいよ。魔法について聞きたいことだってあるし。あ、そういえばラディ。ここに来る前、リガルーファル家のあの子と廊下ですれ違ったよ。名前は確か……」

「ユエナちゃんですか!?」


食い気味で前のめりにランカ兄様に迫れば、彼はその勢いに押されたようで、一歩後ずさった。


「う、うん。そうだと思う。あの、白髪の……」

「ありがとうございますランカ兄様!失礼致しますわ!」


急ぐくらいでは足りないくらいの猛ダッシュで、彼の私室、そして図書館を後にする。そしてすっかり彼女との遊び場となった、庭園へと足を運んだ。



「ユエナちゃん!」


花々に囲まれる揺れる白髪の女の子に向かって、ぶんぶんと手を振り声をかける。彼女は私を見つけた途端、花が咲いたような可憐な笑顔を見せてくれた。その笑顔に胸が高鳴る感覚を覚えながらも、ユエナちゃんの方へと駆け寄る。


「ラディさん!お勉強はもう宜しいんですか?」

「うん。ランカ兄様が今日は終わりだって」

「そうですか。でしたら、今日はいっぱい遊べますね」

「うん!そういえば、ユエナちゃんは今日もお父様と一緒なの?」

「ふふふ、実はですね……。ちょっと耳を貸してくださいませ」

「ん?うん」


どこか誇らしげにしているユエナちゃんに従い、彼女に耳を傾ける。耳に直接当たる彼女の吐息が擽ったい。


「私、お父様には黙って来たんですよ」

「えぇ!?まさか一人で!?」


驚きの余り、飛び退いて彼女の顔をじっと見つめてしまう。


「いいえ。使用人には付いてきて頂いています。私一人では、馬車を引くことだって出来ないので。今は、席を外してもらっていますけど」

「そうなんだ。でも、一人でいていいの?使用人の人、心配しているんじゃない?」

「……どうでしょう。彼女は、私の事をなんとも思ってないでしょうから。ただ、黙々と仕事をこなしているだけです。寧ろ、嫌われ者の私から離れられて良かった、なんて思っているかもしれません」


自虐的に目を伏せた彼女は、近くの花を一輪手折り、私の耳にかけてくれた。


「ユエナちゃん……?」

「こんな使用人の話なんて忘れましょう。私は、ラディさんに会いに来たのですから。……花、良くお似合いですよ」

「そ、そう……?ありがとう」


可愛い女の子にそう言われたら、自然と頬が緩んで情けなくにやけそうになる。みっともない姿を見せるまいと、なんとか口角を正す。


「……ラディさん、変なことを聞いてもいいですか?」

「変なこと?何?」

「私のこと、好きですか?」

「……へ?」


質問の意味が分からないまま、顔は熱を募らせていく。ユエナちゃんの言う好きは、どういう好きなのだろう。


「そ、それは、どういう意味でいらっしゃるのでしょうか……」

「何で敬語なんですか……。答えられないのなら、大丈夫ですよ。無理に聞きたいわけでもないので。……ごめんなさい。変なこと聞いてすみませんでした。お父様に心配かけてしまうので、やっぱり今日はもう帰りますね。お邪魔してしまってすみませんでした。さようなら」

「あ……」


伸ばした手は虚しく、何も掴むことは無かった。追いかけようと思えば追いかけられたが、追いかけたところで、どんな言葉を掛けていいのか、分からなかった。結局、ユエナちゃんが居なくなった庭園で一人になる気も失せて、自分の部屋へと戻ることにした。



「おや、ラディじゃないか」

「フィナ姉様」


部屋に向かう途中の廊下、フィナ姉様とすれ違った。彼女は私に気付いた途端、こちらに駆け寄ってくれた。


「おや、随分と可愛らしい髪飾りを付けているな。庭園で採ってきたのか?」

「はい、ユエナちゃんが私にくれたんです」

「ユエナ……。リガルーファル家の白髪か。その子に花を貰ったのか?」

「はい。そうですけど……」

「そうか……。まぁ、まだ子供だし、女の子同士だしな……。そもそもあれもただの逸話だし……」


フィナ姉様は、どこか気まずそうに視線をさまよわせた。


「あぁ、そうだ!私はまだ仕事中でな。また夕食でな」

「はい。また。お仕事頑張ってくださいね」

「あぁ!ありがとう。ラディも魔法の勉強、頑張れよ」



フィナ姉様と別れた後、私は真っ直ぐと部屋に帰った。花は部屋に置かれていて放置されっぱなしの花瓶に生けたが、花の手入れなんてまともにしたことが無い私には、それで正しいのかは分からない。後で押し花にでもしよう。枯らしてしまうには、勿体ない。ネヒアにでも聞けば、きっと教えてくれるだろう。ベッドに体を横にすれば、自然と浮かぶのは、ユエナちゃんの顔だった。


「ユエナちゃん……。どうして、あんなことを聞いたんだろう。それに、あの時のユエナちゃんの顔……」


私に花をかけてくれたあの時の顔。目を伏せた彼女は、いつもより美しさが何倍も増していた。それと同時に、不思議なことを思った。


「なんか、少女というより、少年みたいだったな……」


目を閉じても、思い出すのはやっぱりユエナちゃんの顔。この一年間、父の付き添いで、庭園が遊び場の彼女。そう、ユエナちゃんは、女の子、のはずだ。


「あんな可愛いのに、男のわけないじゃん……」


『だから、ラディくらいのリガルーファル家の子は、皆女の子なんだけど、それって、本当に女の子なのか分かんないんだよね』


前に聞いたランカ兄様の言葉が頭を過ぎっていく。


「だー!!もう!そんなわけないって!!」


『私のこと、好きですか?』


今度はユエナちゃんの言葉だ。真剣な眼差しが、脳裏にこびりついて離れてくれない。頭の中が、ユエナちゃんでいっぱいに満たされる。こんなの、もう……


「好きに決まってるよ……」


そう呟いた時、どうしようもなく頬に熱が溜まっていくのを感じた。

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