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運命の人は男の子でした【完結済】  作者: 甘語ゆうび
三章【リガルーファル家編】

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クソ幽霊が

 食堂にて朝食を終えた私は、メイドのノアラさんとフォルテさんに連れられるまま、リガルーファルの案内に着いていくこととなった。


「現在のリガルーファル家は、旦那様と奥様。それから、お子様である兄弟が五人居らっしゃる九人家族ッス!あ、それと、自分達含めたメイドが五人と、執事が一人住み込みで働いているッスね」

「へぇ……」


 廊下を歩きながら、ノアラさんはそう説明してくれる。兄弟が五人なのに、九人家族とはどういうことかと思ったが、聞いていいことか分からず、口を開くことが出来なかった。気を紛らわすようにフォルテさんの方をちらりと覗き見ると、興味が無さそうに呑気に大きな欠伸をしていた。


「眠〜……」

「フォルテ、仕事中ッスよ」

「だって寝たりないんだもーん……」

「……あの、凄く失礼なこと言いますけど、フォルテさんって、よくクビになりませんね」

「あー、それは……」


 ノアラさんが何かを喋ろうとしたところに、誰かに思い切り身体を引っ張られる。


「……っ!?」


 二人の青ざめて驚いた顔が見える。何に掴まれたか確認しようにも、何も見えなくてそれが分からない。魔力探知で探ろうにも、魔力を持った存在では無いのか、何も反応が無い。


「クソ幽霊が……!」

「昨日葬儀屋来たんじゃないんスか!?魂持ち帰ってないじゃ無いッスか!」


 二人は体勢を切り替え、ノアラさんが銃、フォルテさんが刀を何も無い空間から生成する。


(具現化した!?魔法なの!?)


 恐怖よりも今まで見たことのない技術に僅かながら高揚を覚える。しかし、ちゅうぶらりんと足が浮いている現状に恐怖心が帰ってくる。


「その汚い手をさっさと離せよ、クソゴミがぁ!」


 フォルテさんが形相を歪め、勢いよくこちらに斬りかかってくる。咄嗟に、きゅ、と目を瞑り、身構えてしまう。しかし、思ったような痛みは無く、急に放されたような浮遊感を覚える。心臓が縮む思いで目を見開けば、想像したような衝撃は無く、誰かに受け止められた。短い時間の中で起こった数々の奇妙な出来事に、心臓の鼓動がばくばくと煩く脈打っている。


「セーフ……!」

「え?え?なに?何が起こったの?」


 私をお姫様抱っこの体勢で抱きとめたノアラさんは、安堵したように表情を緩めた。その手にはもう、銃は握られていなかった。


「ごめんなさーい、殿下。クソ幽霊の魂逃がしちゃった〜……」

「いや、あの……。え?ここ、幽霊出るんですか?」

「はい、一応。聞いてませんか?」

「うーん……。なんとなくは聞いてる、かも?でも、リュサールは信じて無さそうだったけどな……」

「それもそうだと思うッス。リュサール様は、昔から幽霊に嫌われてるッスから。いや、嫌われてる、というより、恐れられているんスかね?」


 ノアラさんが疑問を示すかのように首を傾げる。しかし、それよりも私には、解消すべき問題が存在していた。


「あの、ノアラさん。もう大丈夫なので、下ろしてもらえませんか?」

「あぁ、すみません。今降ろすッス」


 ノアラさんに降ろしてもらい、再び地面に足を付ける。


「それで、幽霊って一体どういうことなんですか?普段から、ああやって頻繁に襲われたりしているんですか?」

「うーん。まず、一つ目の質問に応えるッスね。リガルーファルの家って、邪龍の気を損ねたくないのと、民間人を巻き込むわけにはいかないという理由で、こんな立地の悪い森の中に建てられてるんスよ。でも、ここって滅多に人が寄り付かない森なんで、幽霊達にとっては絶好の巣穴なんスよ。だから、この辺りには怨念が残った魂がふよふよ浮いているって事ッス。一応、リガルーファル家の敷地内には、昔から葬儀屋が幽霊専用の結界を貼ってくれてるんスけど、それでも偶に結界を潜って侵入してきたり、内部から形が出来た幽霊がいるんスよ。でも、今みたいに人を襲うことはあんまり無いッス。まぁ偶に、踊ったり、うろうろしたり、変なことしてる幽霊はいるッスけど……。とにかく、自分達はメイドであると同時に、そんなリガルーファルに蔓延る幽霊を討伐するリガルーファルのボディーガードでもあるッス!てか、自分達はそっちの方が本業だったりするッス。メイドはついでッス」

「そうなの!?」


 思わぬ想定外の事実に、目を丸くする。


「そうですよ〜。あ、あと、さっきの質問も応えそびれてましたね。うちがクビにならないのは、うちがメイドの中で一番強いからですよ。だから、どれだけメイド業をサボっても、許されているんです」

「許されてはないッスけどね。ヴァリーさんめっちゃ怒ってるッスよ」

「えー?あの人いつも怒ってるね。なんでだろ」

「フォルテがサボるからッスよ!いい加減自覚するッス!」


 また始まった二人の喧騒に耳を傾けていると、目の前から誰かが歩いてくる足音が聞こえた。目を凝らして見ると、フードを深く被ったクルリさんと、昨日声を掛けてくれた和風美人な男性だった。


「あっ、シルヴィ様にクルリくんじゃないッスか!」

「ノアラにフォルテ。それに殿下までお揃いじゃないか」

「昨日ぶりです。えっと……」

「シルヴィ様ッス!」

「シルヴィさん!」

「はは。俺に無理して敬称は付けなくてもいい。殿下の方が立場は偉いんだから。それと、昨日は名乗りそびれてしまってすまない。改めてにはなるが、俺はシルヴィ・リガルーファル。長兄に当たる者だ。よろしく頼む」


 シルヴィさんはそう自己紹介をして、軽く頭を下げる。貴族として完成された佇まいに、隣に立っていたクルリさんは、いたたまれなくなったのか、もじもじと魂籠の取っ手を指でなぞっている。籠が動く度に、からん、と氷とグラスがぶつかったかのような音を立てる。


「あ、あの!僕も、昨日、名乗るの忘れててすみませんでした。今更ですけど、僕は、クルリ・ロランパヌといいます。僕はリガルーファルじゃなくて、リガルーファルに通っている葬儀屋、です……。えっと、その、よろしくお願いします……」

「はい、よろしくお願いします。クルリさん」


 なるべく愛想良く返事を返すが、クルリさんは顔を下に下げて俯いてしまった。


「あ、そうだクルリく〜ん。昨日、魂回収しそびれてたよ。逃がしちゃったから、後で回収しといて。そいつ、殿下襲ったから。放置したら、また殿下のこと襲うかもしれないし」

「え!?そうなの!?それは、大変だったでしょ……。大丈夫だった?」

「平気」


 クルリさんはフォルテさんを心配したのか、真っ先に彼女の元へと駆け寄っていった。


「……なら、いいけど。でも、殿下が襲われたなら、その幽霊は放ってはおけないですね。うーん……。でも、今日は舞台もあるし、邪龍の封印も弱まってきているから、葬儀屋が居ないと、何かあった時に対処が出来ないかもしれない……。かといって、他の葬儀屋をリガルーファルに連れてくるわけにもいかないし、急に舞台に行ける程皆暇でも無い……。どうしよう……」

「だったら、昼の間にぱぱーっと見つけて、夜までに舞台に来ればいいんじゃないッスか?」

「それが出来たら一番楽なんですけどね……。霊って、昼の間は霊気が薄くなるんですよ。だから、水晶で探すのも、無理があって……。出来ないことは無いんですけど、夜までに見つかるかどうか……」

「次に回しちゃ駄目なんですか?」

「次に来れるのは、また満月の前日なんです。だから、今日までにどうにかしないといけなくて……」


 クルリさんは、必死に悩んでくれてるようで、ずっと頭を傾げて唸っている。


「……はぁ、よし。分かりました。殿下を襲った幽霊は、僕が舞台までに必ずなんとかします。でも、まだ不安なので、フォルテとノアラさんは、殿下の護衛をしていてください。もしかしたら、殿下の体質みたいなものもあるのかもしれない」

「そのつもりッス!相変わらず、仕事の話となると頼もしいッスね」

「えっ!?あ!……そんなこと、ないです」


 クルリさんは顔を真っ赤にして、物理的に後ろへと下がってしまった。


「そ、それじゃ、僕は、幽霊を探しにいくのでこれで失礼しますー!」


 そのまま勢いよく、何処かへと走り去ってしまったのだった。

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