フォルテとノアラ
「……ん」
見知らぬ天井。黒一色な部屋のせいで、夜だと勘違いしそうになる。
「……あぁ、そっか。私、リガルーファルのお家に来たんだ。それにしてもなんか、凄い嫌な夢見た気がする……。頭痛い……」
ひどい頭痛のせいでまだ起き上がる気になれなくて、一度目を閉じる。
「すぅ……すぅ……」
「……ん?」
何故か聞こえる寝息。私のものではない。壁を見つめていた身体をころんと動かし、反対の方を見る。
「ん〜……。のあらぁ、見てぇ。空飛ぶお肉ぅ……。ふへ、えへへ〜。うちのショートケーキ〜……」
「……え」
私の目の前に居る……というより、一緒のベッドに入っているのは、草原のような黄緑色の髪をツインテールにしたメイド?さんだった。彼女は涎を垂らし、ずっと寝言で食べ物について喋っている。私は夢についてツッコミたい気持ちよりも先に、知らない人が部屋に入ってきている恐怖の方が打ち勝った。
「キャーーーーーーー!?!?」
気付けば叫んでいた。しかしそれも仕方ないだろう。こんなの、不審者と何も変わりない。
「ノアラうるさい……。あと五分〜。……あ、じゃないや。ラディ様、起きてくださ……って、あれ。もう起きてる」
不審者のメイドさんは、ベッドから起き上がり、私の方を見て首を傾げている。首を傾げたいのは私の方なのだが。
疑心が心の中で渦巻く中、ドアの方から、がしゃん、と明らかに立ててはいけないような音が聞こえたような気がした。そして、ドアが開く音が聞こえたかと思えば、その扉の奥から急に人が飛び出してきた。
「殿下!?大きな声がされましたが無事ッスか!?生きてるッスか!?生存反応求むッスー!」
「え、えっと。いや、あの、生きてはいるんですけど……。これ、何がどうなってるんですか?あと、どちら様……?」
「あ!これは名乗りもせずに失礼しました!自分、じゃなかった。ええと……私は、リガルーファル家にお仕えしております、ノアラ・コーレインといいます。殿下がリガルーファルに滞在される間、殿下の身の回りのサポートを致します。何卒、お見知り置きを」
子供の発表会のような棒読みで、ふわふわの赤毛を高いポニーテールにした彼女は自己紹介をしてくれる。未だに状況を理解しきれない私を置いて、ぱちぱちと活気のない拍手が鳴り響いた。
「ノアラすごーい。えらーい。ヴァリーさんに言われた自己紹介ちゃんと言いきってた〜」
「ふっふっふ。そうッスよね。偉いッスよね。もっと褒めていいッスよ〜!……って、はぁ!?な、なんで殿下の部屋にフォルテが当たり前のようにしれっと居るんスか!?」
「え?何でって、うちが殿下起こす予定だったじゃん。でもうち、朝苦手だし、起きれる自信無いから、殿下の部屋に侵入……じゃないか。すぐに起こせるように、張り込み?してたの」
「は、張り込み……」
私は何か、罪でも犯してしまったのだろうか。フォルテと呼ばれたメイドさんの言葉に、苦笑いしか出てこない。
「だからって、寝ている殿下の部屋に入り込んだらダメッスよ。てかそれ以前に、どうやって入ったんスか……」
「え?普通に針金使って鍵開けたよ?」
「えぇ……」
不法侵入をする泥棒同然の行動に、苦笑いどころか心の底から軽蔑してしまう。
「『開けたよ?』じゃないんスよ。前言ったッスよね?人様の部屋の鍵は絶対に開けちゃダメだって」
「でも、うちの鍵開け技術で開く扉の方が悪くない?うちに開けてほしくないなら、鍵をもっと頑丈にすばきだと思うんだ」
「あー、確かに……。じゃないんスよ!なに人のせいにしてんスか!そもそも、鍵が閉まってる部屋を無理矢理開けようとすることが間違ってるんスよ!」
「えー。でも、鍵ってうちがピッキングする為に存在しているものなんじゃないの?」
「なに腕試しみたいなこと言ってるんスか。世界はフォルテを中心には回ってないッスよ。どこの女王様気取りッスか」
目の前で淡々と繰り広げれられるコントに、開いた口が塞がらない。私を置いて話を進めないでほしい。
「あ、あの〜……。フォルテ、さん?」
「ん?はーい。フォルテ・ミリコフでーす。何かお困り事ですかー?」
「い、いや。お困り事というか、何に困ってるか分からないというか……。色々聞きたいんですけど、二人は、何で私の部屋に……?」
私が訊ねると、フォルテさんは顎に人差し指を当てて、目をきょろきょろと動かし、考えているような素振りを見せる。そして、ノアラさんの肩をぽん、と叩いた。
「説明よろ」
「自分で説明して欲しいッス……。えーと、改めてお話するッスね。自分達は、殿下がリガルーファルにいらっしゃる間のサポートを仰せつかったッス。重ねてにはなるッスけど、自分はノアラ。そして、このやる気が無いのがフォルテ。重ねてにはなるッスけど、よろしくお願いします!」
「は、はい。よろしくお願いします……」
「さて、フォルテの説教はあとでヴァリーさんにやってもらうとして……。今は、殿下の身支度を整えないといけないッスね」
二人はさっさと準備を進め始めた。ぼーっとしているうちに、私のドレスは剥ぎ取られ、ユエナちゃんが着ていたかのような真っ黒なドレスを着せられていた。
「あ、あの、これは……?」
「リガルーファルに嫁ぎ、妻となる人が着るドレスッスよ。リガルーファルに嫁ぐ人は、黒のドレスを着るのが決まりなんスよ」
「妻!?」
ノアラさんの言葉に、後ろに飛び退いて驚いてしまう。リュサールは、メイド達になんと話をしたのだろうか。
「そうです。リュサール様は、殿下を妻にする〜って話してましたよ〜?あれ?それなら、今は妻じゃないんですかね〜?」
「今もこれからも、妻になる予定は無いですよ!」
「へ〜。リュサール様かわいそ〜」
フォルテさんがじっと私を見つめながらそう言ってくるけれど、私は目を逸らすしか出来なかった。
「そ、それより!今日は何をする予定なんですか?」
いたたまれなくて、あからさまに話を変えてしまう。
「え?今日は、夜に舞台があるッスね。それまでは、好きに過ごしていいって言われてるッス。なので、舞台までの時間、リガルーファルを案内しながら、此処に住む人達を紹介するッス!」
ノアラさんは、ぱん、と勢いよく手を叩き、私の左手を取った。かと思えば、右手をフォルテさんに取られる。
「え?え?」
「そうとなれば、行くッスよ。今日は皆忙しいッスから」
「そだね。ついでに朝食も食べに行きましょうか」
「出発ッスー!」
二人に手を取られて、部屋を後にすることとなる。どこまでも、勢いが凄いメイドさん達だ。何故、私の世話係となるメイドさんは、こうも人格が濃い人達ばかりなのだろうか。
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書いてたらなんか急に文字数が減って泣きたくなりました。




