娘=母親なわけないだろ
夢の続き。重いです
しつこいくらい鳴っていた着信音が、ぴたりと止まる。かと思ったら、今度は通知が何度も鳴り始めた。
「うるっさ……」
絵麻がスマホに手を伸ばして、内容を確認する。こういったしつこい相手は、決まってあの人だ。
絵麻に近付いて、後ろからスマホの画面を確認する。しつこく連絡を送ってきた人は、私の母だった人だ。母は私のことを好きなふりをして、全く私のことを見ていない人だった。届いた内容も、父との北海道旅行の記録だった。
「どうせお土産なんて持ってこないくせに。自慢しやがって」
散々長ったらしく写真と補足の文章を送ってきていた。お母さんは相変わらずだ。私よりも、お父さんが好きな人だ。だから、思い出を語り尽くしたあと、いつもこんなメッセージを送る。
『絵麻ちゃんも遊んでないで、さっさと良い人を見つけなさいよ』
「……っうっせーんだよ!いい歳したババアが!」
絵麻の声は孤独な部屋に響き渡る。そして、手にしていたスマホをソファへと叩きつけた。
「何が、良い人を見つけなさいよ、だよ……。自分がたまたま成功したからって、娘も成功するとでも思ってんの?馬鹿じゃないの?放置はするくせに、無駄に心配みたいなことしやがって。大きくなったらもう自分達の子供じゃないとでも思ってるわけ?」
(自分達の子供じゃない、か……)
小さい頃は、確かに愛されていた。普通の家庭だった。それが、私が中学生に上がった頃から、両親の態度が少しづつ変わっていった。趣味だった旅行には、いつも連れて行ってくれたのに、ある日から私に秘密で二人で出ていくようになった。学生だった頃はまだお土産を持ってきてくれていたし、話を聞くのも楽しかったからまだ良かったが、それもそのうち無くなっていった。昔はなんでなんで、って思っていたけれど、大きくなった今なら分かる。お母さんとお父さんは、自分達の愛の結晶が欲しかったのだ。自分達が混じりあって出来た宝物だから、幼い頃は大事に育てていた。けれど、自我を持って一人の人間へと育ったら、赤の他人と同じだったのだろう。宝物としての役目を終えた私は、二人にとっては用済みだったのだ。
「お父さんとお母さんの為に、私頑張ったのに……。結婚しろって、大人になったら子供を産めってうっさいじゃん。それに、相手は若いうちに見つけなさいって言ってたじゃん。自分は高校生の頃に運命的な出会いをしたから絵麻ちゃんも……って、うっせーんだよ!」
(自分がまぐれで成功したからって、それを娘にも押し付けるんじゃねーよ。……そう思ってたな)
絵麻はソファのクッションを抱き締め、身体を横にした。せっかく可愛い服を着ているのに勿体ない。髪だって、せっかく綺麗にセットしていたのに。
(……今日、ライブだったのかな)
お母さんの自慢話を聞いてメンタルがヘラることなんて頻繁に起こっていたことだから、明確にいつの出来事だったのかは思い出せない。ただ、実家にいる頃なら、高校生くらいの話だろう。私の両親は、大人に近い年齢なら、もう大丈夫、なんて思っていたのだろうか。ちっとも、大丈夫じゃなかったのに。それでも私は、いつも大丈夫って言っていた。余計な心配掛けたくなかったから。向こうが私のことを他人だと思っていても、私にとっては、代わりが効かない大好きな人達だったから。
(でも、お母さんとお父さんは、そんなこと思っていなかったのかな)
私のことを本当に大好きだったら、趣味の旅行にも昔みたいに連れて行ってくれる。でも、いつも二人だけで行ってしまう。二人だけの時間に、私が邪魔だから。
私のことを思うなら、彼氏と別れて落ち込んでいる時は、抱き締めて背中を撫でて慰めてくれるはず。でも、そんな言葉は無く、さっさと次の人を探すよう言われる。自分が得た幸福を娘にも押し付けたいから。
私は、両親を安心させたくて、自分の為ではなく男の為に自分磨きを続けた。その努力は実を結び、何人もの男性と付き合うことが出来た。でもそれは同時に、何回も別れを経験したということだ。それはとても辛いことだった。でも、私は寂しさを紛らわす為に、常に傍に居る人を求めていたのだ。
(なのに、最終的に皆居なくなっちゃった)
だから、男なんて信用出来ない。女を高く見積もって、勝手に理想を押し付けるだけの馬鹿だから。私に期待させて、辛いことをさせるから。
(だから、嫌い。恋愛も嫌い。どうせ裏切って、私を捨てるから。私は、お母さんじゃないから……)
お母さんみたいに、運命的な出会いなんて出来なかったから。「運命の出会い」なんて言う男も居たけれど、結局は運命じゃなかった。お母さんはそんな私を見て「私の血が流れてるはずなのに、なんで恋愛で何度も失敗するのかしらね。顔だって、私に似て可愛いのに」と言ったことがある。
(うるさい。恋愛に親の血なんて関係ないだろうが)
「そんなヘンテコな服を着てるからじゃないの?もっと綺麗な服着なさいよ。ほら、この前買ってあげた白のワンピースはどうしたの?」
(知らないよ、そんなの。私の趣味に文句言わないでよ!勝手に話しかけてこないで!)
気付けば、絵麻の姿は無くなっていた。目の前には、私を哀れみの眼差しで見つめるかつての両親が居た。
(あ……)
「ねぇ絵麻ちゃん、この前の男性どうしたの?ほら、確か、陸さんって、言ったかしら?かっこよかったわよね〜」
(……二週間で別れたよ)
「絵麻ちゃん!そんな服着ちゃ駄目って言ってるでしょ!?そんなの、男の人は好きじゃないんだから」
(私は女なんだから、男の趣味なんて知らないよ……。好きな服着させてよ)
「絵麻ちゃんも、アルバム見る?恭二くんとのアルバムなんだけど」
(見たくない。見せないで)
「あ、見てみて〜!これ、高校卒業の時に行った旅行の写真だ〜。懐かしい〜。……見て、絵麻ちゃん、恭二くん、昔も今もイケメンだと思わない?」
(全然)
見たくない幻が次々と形になっていく。お母さんになり切れていないお母さんの話を聞くのは、苦痛でしかなかった。
私のお母さんは、母にはなりきれずに、女をずっと捨てきれなかった人なのだ。私とお父さんどちらかを選ぶとなったら、間違いなくお父さんを選ぶような人だ。しかし、それはそうだろう。いきなり腹の中に出来た他人より、ずっと人生を歩んできた人を選ぶのは当然だと思う。それに私は、お母さんにあまり似なかった不出来な娘だったから。
(やば……。泣きそう……)
泣くのは駄目だ。面倒臭いって、過去に何度も言われたから。女はただ、可愛らしくにこにこしているだけがいいらしい。だから、泣くのは駄目。笑っていなきゃ、また捨てられちゃう。
「絵麻ってさ、すぐに泣くよな。そういうとこ、マジで面倒臭い」
(知ってるよ!言わないでよ!だから努力してたじゃん!!)
泣かないようにしていた。ずっと笑っていた。なのに、少し間違っただけで、すぐに私のことを責め立ててくる最低な奴らだ。
そんな人達全員が嫌いで、一緒に居られなくて、私は首を吊った。
──どうせ皆、裏切ってくるから。
最後に見た場面は、足を浮かせて、ロープで首を吊った私だった。光の無い目は、何処を見ていたのだろうか。
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マジでどうでもいい裏話
絵麻の享年は二十歳です。死因は一話の通り首を吊っての自殺です。男に裏切られたことは自殺の直接的な原因にはなっていません。一番は、両親が自分を見てくれないことです。まともな愛をもらっていなかったから、いつまでも子供のように自己中だったのです。とはいえ、割と自業自得ではあります
それから今日、8月15日はセラーネ様の誕生日です。おめでとう。これからもラディを導く王族魔導師でいてください。こんなメンヘラ女の回で迎えてしまってごめんな。書いてて凄い気持ち悪かった回殿堂入りです




