最初の課題
リュサールとのクッキー作りから数週間後、私は兄様と姉様とダーシルテルタ騎士団長と共に、ロレッタの裁判へと参列していた。
「これにて閉廷!」
勢いよく、裁判の終了を告げるベルの音がなる。この世界での裁判は、ベルを前世での小さなハンマーのようなもので叩くらしい。「静粛に」というイメージしかない。なにはともあれ、これでようやく空気が篭った室内から出られる──。
「んー!外の空気が美味しいー!」
町の裁判所から出て早々、大きく伸びをして外の新鮮な空気をいっぱいに吸い込む。今は迎えに来てくれるらしい馬車を待っているところだ。ダーシルテルタ騎士団長は、仕事だからと、そのまま町の見回りへと行ってしまった。相変わらず忙しい人だ。
「ロレッタも良かったね!すぐに解放されて!」
ロレッタは、裁判の前と後、書類を大量に確認させられいた。裁判では、ロレッタの年齢、罪の軽さにより懲役になることは、無かった。罰金も、子供にとっては大層な額だが、払いきれないことは無かった。しかし、一応犯罪者の身のため、また何日か拘留でもされるのかと思っていたが、そんなこともなく、一応は自由の身となった。しかし──
「こんな手錠かけられっぱなしで何が自由だ」
ロレッタの粗暴な性格、 そして膨大な魔力故に、高度の魔力拘束の呪文がかけられた長めの手錠をかけられている。おまけに、ランカ兄様と何故か奴隷契約というものまで結ばされたらしい。
「そういえば兄様。兄様達が話していた奴隷契約ってなんですか?あれって、結ぶ必要あるんですか?」
「え?ラディ覚えてないの?昔、ネヒアと奴隷契約結んでたじゃん」
「え!?私が!?」
『わたくしの双子の弟であり、貴女の奴隷です』
昔、この世界に来たばかりの頃、セラーネ様にネヒアのことをそう紹介された出来事を思い出す。そういえば、私とネヒアも奴隷と主という関係だった。
「……あ、ええと、昔のことで、あまり覚えてないかもしれません。奴隷契約って、どんな内容でしたっけ?」
「奴隷契約というのは、その名の通り、自分の奴隷にすることの出来る契約だ。条件としては、主となる者の地位が奴隷より高いことだな。それさえ達成していれば、誰でも奴隷にすることが出来る。但し、奴隷契約を完遂するまでにやることが多く、契約を結ぶのを面倒くさがる者が殆どだ。今回は、事前に準備を済ませていたから、此処では書類五枚程度で済ませることが出来た。しかし、奴隷契約を結ぶことにはメリットも多い。契約内容によっては、奴隷に様々な制限をかけられるし、主側は奴隷の命を握ることが出来る。だから、なにか嫌なことをされたら、あっさりと殺すことが出来るということだな。今回結んだ理由は、ロレッタの素行の悪さが理由だな。だから契約内容としては、他者を傷つけないことや、拘束具を外さないこと等があるな」
「えぇ……。そんな命軽いんですか、奴隷契約って……」
「心配しなくても、俺はそんなことしないよ。それに、こんな逸材を殺すなんて勿体ないこと、俺には出来ないからね!ロレッタは本当に才能の塊だよ!学院での五締メや図書員どころか、何れは王族魔導師にだってなれちゃうかもね〜!」
腕を組み、人差し指を立てながら目をキラキラと輝かせる兄様の姿は、本当に楽しそうに見える。その姿が昔の兄様を思い出させて、思わず頬を緩めてしまう。しかし、褒められまくってる当の本人は少しも満足していないらしい。
「チッ。どうせ内心では白髪で素行の悪いクソガキの犯罪者とでも思ってるくせに」
「別にそんなこと思ってないよ?でも自覚してるなら直してくれる?君はこれからお城で過ごすんだから」
そう。ロレッタは結局、我が家である王城で保護する運びとなった。しかし、このままの彼女を城で自由に歩かせるわけにもいかず、教育係兼見張りをつけることとなった。担当はこれから決めるらしい。
「あ、お城で思い出したんですけど、ロレッタの教育係ってどうなるんですか?なんか、誰かに任せるとか言ってませんでしたか?」
「はぁ!?教育係!?おいポニテ騎士!ロン毛クズ!あたし聞いてないんだけど!?」
怒鳴り声がうるさいよりも、あだ名のセンスについて問いたくなってしまった。しかし、どうにかすんでのところで止めることが出来た。
「聞いてないって……そりゃ言ってないからな」
「言うわけないでしょー?そうやってブチギレる未来見えてたんだから」
二人はあだ名には慣れてしまっているのか特に難色を示すこともなく、ロレッタの発言に呆れているようだった。一方のロレッタは、余程頭に来たらしく、彼女の手からは一瞬、つむじ風が吹いていたのが見えた。
「クッソ!全然使えないじゃんクソが!牢屋の時より呪文強くなってやがる……!おい、これ外せロン毛クズ!邪魔なんだよ!」
ロレッタは鬱陶しそうに手錠をランカ兄様に見せつける。しかし、兄様は手錠に何かをする素振りもなく、ロレッタのその手をそっと降ろさせただけだった。
「悪いけど、それは出来ない。奴隷契約があるとはいっても、結構自由に動くことが出来るからね。今手錠外したら、速攻逃げてくでしょ」
「…………逃げないし」
「そんな溜めた上に目を逸らして言われても説得力無いよ。嘘下手くそだね」
「うっ……」
「大体、逃げたとして何処に行くつもりなの?治安の悪い路地裏?」
兄様の問いかけに、ロレッタは気まずそうに目を少しだけ逸らした。
「……アルノのとこ、行きたいだけ。心配だから」
「あ、そっか。弟さん……」
城へと連れてこられたのはロレッタだけで、弟のアルノはまだ町の路地裏に居る。病弱と言っていたし、姉としては気がかりなのだろう。
「あぁ、アルノならこの前」
「そうだよね!お姉ちゃんとしては心配だよね!まだ見つかってないらしいからね〜」
今、あからさまに兄様が姉様の言葉を遮ったように見えた。二人はなにを企んでるのか、私達に背を向けてひそひそと内緒話をしているようだった。
「おい!何故真実を伝えないんだ!今言ったって問題無いだろう」
「えー?だって、もう少しからかいたくない?それに、お城に着いた時のサプライズとして取っておきたいじゃん。その方が、感動も一入じゃない?」
「言いたいことは分からんでも無いが……」
姉様と兄様は、聞こえないとおもっているらしいが、丸聞こえだった。私とロレッタは、目を合わせて瞬きするしか出来なかった。
「……なぁ、あのさ、全然正直に言ってくれていいんだけど、アルノ、保護したの?」
ロレッタの言葉に、二人はこちらに向き直った。姉様は呆れているようだし、兄様は明後日の方向に目を逸らしていた。
「……保護はした。お前が用意していた備蓄で食い繋いでいたらしいが、元が病弱だったこともあり、現在はかなり衰弱してしまっている。今は、城に医者を呼んで付きっきりで診てもらっている形だ」
「そっか……。まぁ、一旦は安心した」
「……サプライズは失敗したけど、これで一緒に来る理由が出来たね。丁度馬車も来たみたいだし、一緒に帰るでしょ?ロレッタ」
兄様の言葉に、辺りを見回せば、他の馬車よりも一段と豪華な馬車がこちらの方に向かってくるのが見えた。
「……分かった。行ってやるよ。けど、手錠は外させてやるからな!」
「いいよ?てかそこまで言うんだったら、いっその事自力で外してもらおうかな」
「は?」
兄様は不満気なロレッタを無視して、ロレッタの手錠に触れた。少しして手錠が光を纏ったかと思えば、すぐに元通りになった。
「これでよし」
「お、おい!今何したんだよ!」
「ちょーっとだけ呪文を書き換えたんだよ。一定の条件を満たせば、ロレッタが自分で手錠を外せるようにした」
「はぁ!?ほ、本当に!?」
「うん。そして、それを自力で外すのが最初の課題」
「最初の課題?」
そう聞いたのは、ロレッタではなく私だ。
「まさか兄様!ロレッタの講師……」
「うん。特別に引き受けてあげる」
姉様と顔を見合わせ、嬉しいという感情をありありと顔に描く。さっさと馬車に乗り込んでしまった兄様に付いていって、私達も馬車に入っていったのだった。
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マジでどうでもいい裏話
ロレッタとクッキーの感想
「普通に美味かったは美味かったけど……。でも、あの偽善女が作ったと思うと腹立つから、やっぱ不味いってことにしとく。……アイツに感想伝えるんでしょ?だったらゲロマズかったって言っといて。絶対ね!」
後日、フィナにより一言一句違わず全てラディに伝達されました。




