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運命の人は男の子でした  作者: 甘語ゆうび
一章【幼少期編】
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ユエナ・リガルーファル

庭園に向かうと、そこにはユエナちゃんが今日もお花を眺めていた。今日も可愛い彼女に近付き、挨拶をする。


「こんにちは、ユエナちゃん。今日も来てたんだね」

「あ、こんにちは、ラディさん。昨日の会議で、お父様が話忘れたことがあったみたいだから。私はまた着いてきちゃっただけ」


可愛くふふ、と少し悪戯そうに笑う。本当に可愛い。まるで天使だ。


「ここのお花達は本当に綺麗なの。皆、自分の魅力が分かっています」

薔薇に優しく触れながら、そう言う。だけど、私は

「ユエナちゃんの方が、ずっと綺麗だよ」

「へ?」


やってしまったかもしれない。ぽかんとしている彼女の顔がみるみる林檎のように赤く染まっていく。お陰でこっちまで照れてきてしまう。


「あ、なんか、ご、ごめんね」


気まずくなり、咄嗟に謝る。しかし、私は何に対して謝っているのだろう。


「う、ううん。綺麗だなんて言われたことが無かったから、驚いただけです」

「え?そうなの?」


なんだか意外だ。けれど、もしかしたら、周りはユエナちゃんのあまりの美貌にビビっているだけかもしれない。気持ちは分かる。


「……周りからは、私は家の者では無いと言われているから」

「え?どうして?」

「……ラディさんは、髪色について知っていますか?」


髪色、確か、セラーネ様が話してくれた内容だ。髪色で、その人の身分や出自が分かる、と。そして、ユエナちゃんは綺麗な白髪だ。白髪?白髪は確か


『白は、大罪人の末裔です。だから、白髪の方には近付いてはいけません』


先程聞いたセラーネ様の言葉を思い出す。白は、大罪人の末裔。


「……知ってるよ」

「…そっか。それじゃ、ラディさんも、私には、近付きたくはない?」


震えた声と、僅かに潤んだ瞳がそう言ってくる。その姿を見たら、何も言えなくなってしまう。まだこんなに小さい女の子に対して、この世界の人達はなんて酷いことをするのだ。何故、髪色が違うというだけで、否定されなければならないのだろうか。私の価値観がおかしいのだろうか。


「……どんな姿でも、ユエナちゃんはユエナちゃん!それは絶対変わらないよ!」


彼女の手をぎゅっと握り、思ったままをユエナちゃんにぶつける。固まったままの彼女だったが、少しして、彼女の目には温かい雫が溜まり初め、貯蔵を超えたそれらは、彼女の肌を伝い、ゆっくりと流れ始めた。


「……ありがとう、ラディさん。今まで、そういう風に言ってくれる人が居なかったから、凄く嬉しいです」


花が咲いたように、ふわっと彼女は笑う。その顔を見た途端、心臓がどくん、と音を立てて跳ねてきた。彼女の笑顔なんて、何度か見ているのに、その顔をまた見たいと思う。似たような高鳴りを、私は知っている。何度も味わってきた。


「ん?ラディさん、どうかしました?」

「え、いや、なんでもないよ!」


危ないところだった。こんな綺麗な子にアタックしたところで、私に振り向いてもらえるわけない。というか、それ以前に気持ち悪いって言われるかもしれない。ユエナちゃんがそんな風に考えるだなんて思ってはいないけれど、それは私の押し付けであって、確証ではない。だけど、そのもしもがあるだけで十分怖い。それに、この気持ちだって、一瞬の昂りなのかもしれない。そう、続くわけが無いのだ。今までが我ながら尻軽過ぎたせいで、色々な自信を無くしそうになる。いや、既に欠落している。


「はぁ……」


そんな溜息と共に、頭にはぽん、軽く何かが乗せられていた。その正体が気になり、私が少し頭を上にすると、その正体ははらり、と床に落ちてしまった。


「これって……」

「あ、ごめんなさい。少し小さかったかも」


ユエナちゃんが拾い上げたそれは、花冠だった。私の頭の上に乗ったものだろう。白と黄色の花をメインに編まれていて、とても可愛らしかった。そして、なんだか


「私とユエナちゃんの髪色みたいだね」


そう思った時には、既に口から出ていた。咄嗟に口を手で抑えるも、もう遅い。言ってしまったことは取り消せない。変な奴だと思われただろうか。ユエナちゃんを恐る恐る見てみると、まんまると目を開き、頬を赤く染めていた。


「え、あ、バレ、ちゃった……」

「え?」

「その、凄く綺麗に咲いていたのだけど、なんだか、私とラディさんの色みたいだなと思って……。あ!庭師さんの許可は以前に頂いて、好きに使っていいと言って頂けているんです!そこは心配しないでください!」


後半早口になって捲し立ててきた。その様子に、こちらまで照れてくる。そしてすごくドキドキする。その状態でお互い無言のまま見つめあっている時間が気まずくて、つい目を逸らしてしまう。


「リュ……ユエナー!」


そんな甘酸っぱい空気は、何処からかの男性の声によって破られた。そちらの方に目を向けると、綺麗な長い黒髪を一つ結びにしており、派手とまではいかない綺麗な化粧。そしてシンプルなのに、高貴さを感じられる服装と佇まい。あまりの美貌に一瞬女性かと勘違いするが、体格的に恐らく男性、だろう。でも筋トレをしている女性かも、と思ったが、先程の声を思い出す。普通に男性だ。ユエナちゃんは、その人を見ると嬉しそうにそちらに駆け寄っていった。


「お父様ー!」


という有り得ない言葉を言いながら。お父様、呼ばれるには、随分と、それはもう随分と若々しく美しい。これがお父様とは、と思ったが、ユエナちゃんの年齢を考えれば、別に有り得ないことではないのだろうか。

お父様と呼ばれた彼は、ユエナちゃんを笑顔で抱き留め、軽々と抱き上げた。


「お父様、お仕事はもう終わったの?」

「あぁ、お仕事といっても、昨日の忘れ物の確認みたいなものだったからね」

「そうだったのね。あ、お父様、私新しいお友達が出来たの。紹介するわ」


と言って、私の方に視線を注ぐ。へ?と変な声が出る。気になってる人と美人さんからの視線は色々と破壊力がとんでもない。


「あ、えと、ラディ、と申します!」


咄嗟にファミリーネームが思い出せなくて、名前だけの名乗りとなってしまった。ユエナちゃんのお父様は、私を見た途端、顔に怒りの意思をありありと浮かべていた。


「ピアグレータが産みだした異物が友だと!?貴様!ユエナに何を吹き込みやがった!!」

「えぇ!?」


先程までの優しい面影はこの一瞬でどこに無くされてしまったのですか!?そう言いたくなるほどに彼の顔は眉間に皺がより、口はいの字になっている。元のラディが悪役過ぎる悪役令嬢ということは既に知っているつもりだったが、いの一番にそんなことを言われる程なのだろうか。


「お前みたいな王族の恥晒しが、気安くユエナに触れるな!!ユエナ、こんな奴を友人と言うなんてどうしたんだ、こんなやつを本当に友だと思っているのか?」

「……人間関係くらい、私の勝手でしょう?お父様の基準で勝手にラディさんの価値を決めないで!」


そう言って無理矢理抱っこの状態からじたばたと暴れて抜け出そうとする。お父様も私も慌てて彼女を支えようとする。そんな私を見て、お父様はユエナちゃんを無理矢理自分の方へと引き寄せ、しっかりと抱き締める。


「危ないじゃないか!暴れるんじゃない!」

「お父様が私の話を聞いてくれないからです!ラディさんはそんな人じゃないのに!この分からずや!」

「わか……!ユエナ!父になんて口の利き方をするんだ!それにこの娘は、幼子の皮を被ったとんでもない化け物なんだぞ!」


私を挟んで親子喧嘩が始まってしまった。私の為に争わないで、くらい言えたら良かったのだが、お父様の方にブチ切れられるだろう。


「全く、自分の息、娘がここまで話の出来ない子だとは思わなかった」

「あら、こちらこそ、私のお父様が噂ばかりを信じる駄目人間ということがよく分かりましたわ!」

「全く……。今日はもう帰って教育のやり直しだ」


お父様はそう言って、ユエナちゃんを抱えたまますたすたと歩いていってしまった。私には一切目もくれず。



「え?リガルーファル家?」

「はい!教えて頂けませんか?」


あれから私は、ユエナちゃんのことが気になって気になって仕方が無いため、まずは彼女の家柄について調べようと思った。この世界をもっと知ることだって出来るかもしれないし。そう思い、博識だというランカ兄様に教えを乞いに来たのだ。


「別にいいけど……急にどうしたの?お勉強?」


幽霊でも見たのかくらいの驚き顔をされる。元のラディは勉強もまともにしてこなかったのだろうか。かくいう私も、前世では学校サボり気味だったけれど。


「まぁ、そんなところです!いいですか?ランカ兄様」

「うん、まぁ、それはいいんだけど。リガルーファル家かぁ……。あぁ、リガルーファル家といえば、やっぱあの話が有名かな」

「あの話?」

「うん、昔から伝わる御伽噺でね。リガルーファル家の誕生秘話みたいなものなんだ。まぁ、全然秘密じゃないんだけど」


ランカ兄様は1つ呼吸を吸って、ゆっくり、昔昔というありきたりな導入から、話を始めた。


「むかーしむかし、あるところに、村1番の美しい白髪の女性がおりました。その女性の心根は清く、皆が彼女を愛しておりました。しかしその中でも、彼女に一際強い好意を抱いている男性がおりました。男性は彼女に好意を見せることなく、友として接していました。そんなある日、こわーい邪龍が村を襲いに来ました。なんとか見逃されようとした村人達は、様々な物を邪龍に貢物として捧げました。けれど、邪龍はどれも満足しませんでした。そこで、村人の1人が、この村で1番美しい女性をやる、と言ってしまったのです。邪龍はそれに満足し、火山の方へと連れてくるよう言いました。白髪の女性はひどく震えていました。自分が龍のものになってしまうかもしれない、と。そこで、彼女を好きな男性なある提案をしました。それは、自分が女の格好をして、邪龍の元へ会いに行く、というものでした。村人からの反対はありましたが、男性は無理を通して、邪龍の元へと行ってしまいました。その男性のお陰で、村にはそれ以来邪龍は訪れず平和が続いたとさ。ちゃんちゃん。...…みたいなお話」

「...…へ、へぇ」

女性から悲劇のヒロインぶっている感を感じるのは気のせいだろうか。なんだか私可哀想、みたいな空気を感じるのは、私の心が汚れているせいなのだろうか。


「まぁでも?その何百年後かに、邪龍はまた村を襲いにきたんだけど、その時も綺麗な娘を要求したみたいなんだよね。んで、それも同じように女の格好をした男を差し出したみたいなんだけど、その時はバレちゃったみたいでね。でも、その村は代々女が中々産まれてこなかったみたいだから、圧倒的に女性が足りなかったんだろうね。だから、どうにかして男、それもいらんやつを押し付けたかったと。ただ、普通の男を出してもバレるから、幼少期から女として育てようってなっていって誕生していったのが今のリガルーファル家。だから、ラディくらいのリガルーファル家の子は、皆女の子なんだけど、それって、本当に女の子なのか分かんないんだよね。まぁ、とにかく、リガルーファル家っていうのは、邪龍を鎮める為にいる一族ってこと」

「なるほど...…。色々ありがとうございました、ランカ兄様」

「んーん。こんくらいのことなら、いつでも手伝うよ」


彼にもう一度頭を下げ、ランカ兄様と別れる。髪色のことについても聞こうか悩んだが、ユエナちゃんのプライバシーに踏み込んでいないかと不安になる。いや、今の時点で大分詮索みたいなことをしているだろうが。


「はぁ..….」


明日も、この痛い程の胸の高鳴りが続いていればいいのに。もっと、ユエナちゃんのことをいっぱい考えていたい。

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