大罪人
買い物を済ませて店を出た私達。そこに、一人の影が歩み寄ってきたのが見えた。
「お二人ともー!」
それは、馬車の手配をすると言って、席を外していたネヒアだった。
「ネヒア?どうかしたの?」
「馬車の用意が出来たんで、探してたんですよ。早く行きましょう。寄り道は許しませんからね」
「もうしないよ。用事も済んだし」
「そうでしたか。だったら、丁度良かったですね。案内します。付いてきてください」
ネヒアの案内に付いていくまま歩いていく。すると、いつの間にか栄えていた街からは少し離れた場所まで来ていた。そして、ある店に一台の馬車が停まっているのが見える。あれが、ネヒアが呼んだ馬車らしい。ネヒアは御者に近付いて話しかけに行った。挨拶でも、と思って近付こうと思ったが、リュサールに腕を軽く掴まれ、止められてしまった。
「リュサール?」
「本当に信用出来るか分かりませんよ。あまり近付かない方が良いです」
「でも、ネヒアは信用出来る人って言ってたよ」
「えぇ。ですが、僕は彼をあまり信じていませんので」
さらっと言った疑いの言葉に、思わず彼に言い返したくなる。しかし、今争ったらまためんどくさいことになることが分かっていたため、喉を通りかかったところで飲み込んだ。
「……リュサールって、割と人を疑うくせ付いてるよね」
「まぁ、まず人を疑うように作られてしまったので」
「……それもお家の都合?」
「それもありますが……そうじゃなくても、多分人を疑ってましたよ。この髪色に産まれる限りは」
「ふーん。そんなに綺麗なのに、なんでそんなに蔑まれるんだろうね」
「……なんででしょうね」
顔を逸らしたリュサールに思うところがありつつも、話を終えたらしいネヒアに顔を向ける。
「お待たせしました。改めて事情は説明してきたので、馬車に乗ってください。何があったかは馬車の中で聞きます」
「……外に漏れて、御者に聞かれるようなことはありませんよね」
「はは。貴方は本当に疑い深いんですね。俺のこと大っ嫌いなんだなってバレバレですよ」
「……まさか。彼女の使用人の方を僕が嫌う理由なんてありませんよ」
「そうですか。それはなによりです。あぁそれと、心配しているようなことは起こらないので安心してもらっていいですよ。彼の耳も常人より少し悪いので」
「あ、あの、早く乗ろうよ。人が少ないとはいえ、話聞かれるわけにはいかないでしょ?」
二人の間に火花が散っているのが見えたせいで、早く切り上げないとという本能から、二人の間に割って入ってそんな言葉を掛ける。なんでこの二人は、さっきも今もドラマやアニメで見そうな会話しかしないんだろう。
「はぁ。そうですね。とにかく、ラディ嬢にはことのあらましは話してもらいますからね。事情は把握しておきたいですし、陛下達に話す時に何も知らないのでは面倒なことになりそうですからね」
「うっ……。やっぱ、父様には話すよね〜……」
馬車に乗るのが少し億劫になりながらも乗り込んでいく。席順は、私とリュサールが隣同士で、ネヒアが向かいに座ることとなった。
「……それで?何がどうあってどうなったら貴女は路地裏でゴロツキに絡まれるですか?」
「ゴロツキ!?ラディ、そんな危険な目に遭ってたんですか!?」
「だー!もう!話す、ちゃんと全部話すから!質問は最後にちゃんと受け付けるから、一旦私の話を聞いて!」
私は、城を出てからのことを、改めて二人に話した。変装して買い物に町に出たこと、ある少女が泥棒と言われて逃げてったこと、それを追って路地裏に入っていったこと、魔力探知を使ったら気分が悪くなったこと、数人の男に話しかけられて髪を切られそうになったこと、そこをネヒアが助けてくれたこと。全部話した。
「……とまぁ、そんな感じで」
「全く……。無茶しますね」
「泥棒の女の子か……。その子の特徴とか覚えてる?」
「えーっと、フード被ってたからあんまり。あ、でも……」
走っている時、あの女の子のフードから僅かに漏れ出た髪色は、白色だった。
「白髪、だったと思う。フード被ってたし、顔はよく見えなかったんだけど」
「……白髪。民間人のですか」
「抜け出してきたんですかね〜。大罪人の分際で」
「……大罪人。それは、僕も貴方も変わらないでしょう。少し違えば、あの少女が僕達になることだってありましたよ。特に貴方は」
「ははは〜。やですね〜。人間がエルフ様に逆らえるわけないじゃないですか〜」
なんて笑顔でけろっと言ってのけるネヒア。この外出で、彼の恐ろしい側面に触れてしまってる気がする。
「……ねぇ、白髪って、そんなに恐ろしいの?」
私の発言に、リュサールもネヒアも、驚いたようにこちらを見ている。何か、変なことを言ってしまったらしい。
「……白髪はですね、とんでもない力を持って産まれてくるんです。それは呪いともいえるくらいに強い力を。大体の白髪は、己の持った力に耐えきれず、暴走して死にます。それは、今日かもしれないし、明日かもしれない。何もしなければ良いってもんじゃない。俺達白髪は、必ず周りを滅ぼして死ぬ運命にあるんですよ。だから、大罪人なんです。恵まれすぎた力は、それはもう力じゃないんですよ。ただの厄災です」
「厄災……」
その話は、初めて聞くものだった。セラーネ様も、そんなに深く語ったことは無かった。
「……ですから、普通は産まれた時点で牢に繋がれるんです。罪を犯した犯してないに関わらず。僕やネヒア、それから元王族魔導師のセラーネ殿は特殊ですが」
「特殊?それって、偉いから、ってこと?」
「えぇ。僕はリガルーファルに産まれた貴族、セラーネ殿はエルフで王族魔導師、ネヒアは……なんでですか」
「そこは知らないんですね。まぁ無理もないか。……俺は、兄さんのお陰で自由に過ごせてるんですよ。本来なら、俺も牢に繋がれるか、エルフの里に軟禁されてたでしょうからね。ま、実際やらかして牢屋で拷問されてたんですけどね!」
「え……?」
またさらっととんでもないことを言われたせいで、出てくる言葉が何もなくなる。
「そ、それって……」
「別に今はなんとも思っていませんよ。今は平穏に過ごせていますから。……詳しいことは、いつか話しますよ。話さなきゃいけなくなった時が来てしまったら」
「……そう。……って、ん?それなら、なんであの女の子は外に出てたの?」
「だから脱走したんですよ。脱走」
「手を貸した人でもいたんでしょうかね。それにしても愚かですね。せっかく抜け出せたのに、盗みを働くなんて。そんなことをしては、更に辛い目に遭ってしまうかもしれないというのに」
「……そっか。それって、私が捕まえようとしてたのって、悪いことだったのかな」
正体を隠していたとはいえ、王族の私が彼女を捕まえるのは、あの少女を更に地獄に追い詰めることだったのかもしれない。ただ、話をしたかっただけだというのに。
「良いことなんじゃないんですか?ま、ラディ嬢がその子をどうしたいか、でも変わってくるとは思いますけどね」
「……ふーん。そっか」
その子と会うことは不可能なのだろうか。身近な人が白髪のせいで、その女の子を助けたいと思う私の願いは、叶わないのだろうか。
「見ず知らずの人間なのに、変だなぁ。私」




