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運命の人は男の子でした  作者: 甘語ゆうび
一章【幼少期編】
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目が覚めたら見知らぬ女の子だったんだけど...…

「ごめん、俺たち、もう別れよう」

「なんか無理ってか、つまんねーんだよな」

「遊びだって。何そんなマジになってんの?もういいわ」


 男運は最悪だ。この人はと思っても、その人も同じで、私だけの特別になってはくれなかった。そうやって、次は、次こそはと思っても、全部違うんだ。皆、女なら誰でもいいと体が言っている。そうしているうちに、心も、体も全部ボロボロになっていった。体を重ねる度、虚しさが募る。腹を割くたび、ごめんねと思う。

 それでも、人肌を求めてしまう自分に、求められたいと思う自分に対して嫌気が刺し、縄を首にかけた。

 きゅーっと、それは私の喉をゆっくり締め上げ、

 ──自分とお別れをした。

 あぁ、私は死んだんだ。真っ暗な空間が見える。

 あぁ、光が見える。お迎えが来てくれたんだ。こんな糞みたいな私のことを。ありがとう、神様、来世では恋愛なんてせず、真っ当に生きます。だから、来世ではどうか、いい人を紹介してください。



 ちゅんちゅん、と小鳥のさえずりが聞こえてくる。どうやら、もう朝になってしまったらしい。ふかふかのベッドで目を覚まし、大きく伸びをする。ベッドから降り、部屋に備え付けられている鏡で身支度を整えようとする。けれど、そこである異変に気がついた。


「え?だ、誰?誰なの?この子?」


 腰まで緩くカーブがかかった綺麗なブロンドの髪に、青と赤が混じり気にグラデーションがかった綺麗な瞳。鏡に映る小さな女の子は、私の知らない子だった。ほっぺをつねれば痛い。鏡の女の子も、私と同じ動きをして痛そうにしている。あぁ、ごめんね。多分まだ6歳とかそのくらいだよね。

 だが、これは一体どういうことだろう。昨日は確か、確か。

 昨日の光景を思い出す。いや、私が昨日と思ってるだけで、正確にはもう何年も前のことなのかもしれない。だが、最期の記憶では..….。


 ───私はもう、死んだはずだ。


 男に振り回され、地下アイドルやホストに貢ぐために自分を売っていた地雷女はいなくなったはずだ。

 もしかしたら、これは来世というものなのだろうか。だが、それにしてはおかしい。私は私としての記憶しかなくて、この体の子の記憶は一切持っていない。まるで、この子の人格は存在していないような。ここまで成長しているからには、この子の人生だってあっただろう。だが、それが無くなってる。


 ───私が、この子の体に宿ったから?

 だとしたら、前世も今世も変わらない。結局私は、誰かに迷惑をかけなければ生きていけない。


「ごめんね。私のせいで。ごめんね」


 鏡に向かって謝っても、鏡からは何も返ってこない。当たり前だ。何故、私は悪くないのに、こんなことを思わなくてはならないのだろう。神様の気まぐれとでもいうのだろうか。全く勘弁願いたいものだ。

 これからどうしたものかと思い、部屋を見渡す。随分と大きくて、丁寧に整頓された部屋は、まるでどこかのお姫様の部屋だ。前世の1DKがみっともなく見えてくる。


「なんか、こういう撮影スタジオありそうだよな〜...…」

 部屋をぐるぐると練り歩いていると、ドアからノックが聞こえてきた。あまりの突然のことに驚き、どこか隠れる場所はないかと、部屋中を走ろうとした拍子に、椅子に足を引っ掛け、勢いよく転んでしまった。


「ラディ様、おはようございます。お着替えの手伝いに参りました。失礼してよろしいでしょうか」


 転けたと同時にそんな声が聞こえてくる。口ぶりからしてメイドさんとかだろうか。こんなみっともないところを見せてもいいのかという気持ちと、初対面のメイドさんに対してどうしたらいいのかとか、でもこの子にとっては初対面ではないよねとか、色々な気持ちが頭の中をぐるぐると駆け回り、なんと言ったらいいのか分からずに言葉を発せずにいれば、扉が向こうから勝手に開かれた。私がひぃ、と素っ頓狂な恐怖を含んだ声を上げようともお構いなしに、部屋に侵入してくる。その正体は、私を見るやいなや、戸惑いかのような声をあげてきた。


「ラディ様、どうなされたんですか?そんなところで」

「あ、えーっと...…」


 なんて言おうか。急に前世の自分を取り戻してこの体の持ち主の子は消えましたって正直に言ってやろうか。いや、けれどそれは私がさいあく死ぬのではなかろうか。それより、この子の名前はラディというらしい。私はこの子のことを全く知らないのだが、どう接するのが正解なのだろう。とりあえず、それらしい令嬢っぽく振る舞ってみることとした。


「お、おはようございます。朝食の準備は出来たのですか?」

「...…先に朝食をお召し上がりになりますか?」


 質問に質問で返すな。このメイドはまともな会話もできないのか。


「えーっと…...。先にお着替えからしたいですわ」


 ロリィタっぽくて可愛らしいが、流石にこれはルームウェアだろう。そんな状態で外を出歩くわけにはいかない。私が一つそう提案すれば、メイドさんは畏まりました、と丁寧に返事をして、するすると器用にルームウェアを脱がせていく。そして下着になった私に、ピンクとフリルで、女の子の夢が詰まった可愛らしいドレスを着せてくれる。その技術とセンスは、まるで魔法のようだ。


「素敵なドレスですね。ありがとうございます!」


 全身鏡を見て、自分にうっとりとする。ナルシストのように聞こえるが、可愛い女の子が可愛いドレスを着ていたら誰だって見惚れてしまうだろう。


「そろそろ朝食も出来ている筈です。冷めないうちに参りましょう」

「えぇ、分かりましたわ」


 笑顔で子供らしく、けれど品位を持って返事をすれば、彼女は驚いたような顔を見せた。先程から、彼女の様子が少し変な気がする。このメイドさんとは初めて会ったのは確かだが、微かな動揺が見える。というより、彼女から警戒心のような恐怖心のようなものが出ている気がする。このままむずむずしたものを放っておきたくなくて、思い切って彼女に訊いてみることとした。


「あの、今日はどうしたのですか?体調が悪いなら、休んでいただいても構いませんよ」


 大分あやふやな問いになってしまった。だが、彼女は今まで1番の動揺を見せ、誰にでも分かるほどの焦りを見せた。


「い、いえ!そんな滅相な!休むなど!わ、私は大丈夫ですので、朝食に参りましょう」


 何故、ここまでの動揺を見せるか私には分からないが、お腹が空いていることを今自覚し、朝食に連れてってくれるという彼女の手を取った。私が手を握ると、彼女はビクリと体を震わせ、また動揺を見せた。もしかして、彼女の不安の理由は、私にあるのだろうか。そう思いもするが、元のラディが消えてしまった以上、その理由を知れる手がかりもない。今は、何れ関係者から聞けたりすることを祈るしかない。



 そのまま彼女と歩くこと数分、足は1つの両開き扉の前で止まり、メイドさんがその扉を開けてくれる。

 彼女に促されて、中へと入っていく。中には、いかにも王様の食卓という感じで、縦に長いテーブルが1つ。真ん中奥には、王様らしき人、恐らく私の父だろう。他には、近くに座る綺麗な女の人と、ちょっと離れて座る10代半ば程の男女がいた。私の年齢を考えるに、母、そして姉と兄といったところだろう。おはようございます、挨拶をしながらメイドさんに着いていく。そしたら皆もおはよう、と返してくれた。態度は別に普通だ。メイドさんの時の違和感がない。メイドさんが引いてくれた椅子に腰掛ければ、恐らくお父様が声を上げた。


「皆揃ったようだな。では、食事を頂くとしよう」


 そこから朝食会が始まった。出された食事はどれも1級品の物で、何を食べてもほっぺが落ちてしまうほどに美味しかった。


「では皆、何か報告はあるか?まずフィナ」

「はい!」


 名前を呼ばれ、元気よく返事をしたその女性は、立ち上がって報告を始めた。随分とまぁ窮屈な朝食だ、と思う。


「まず、騎士団についてですが、先日の騎士団試験に合格した5名が、本日こちらに向かわれるとのことです。それから、昨日の夜の見回りにて、不審な生物を目撃したという報告が上がっています。しかし、見回りに行った兵士には特に外傷は見られませんでした。他に証拠が無いため、真偽は定かではありませんが、兵士の見間違いの可能性が高いかと。私からの報告は以上です。門番には話は通しておきますので、新人兵士の件はよろしくお願い致します」


 そこまで言って頭を下げ、彼女は再び席に座った。


「うむ、畏まった。では次、ランカ」

「はーい」


 そう軽く返事をした青年は立ち上がり、彼女と同様に話をしていく。


「図書館の方は特に変化は無いよ。蔵書がちょっと増えたくらい。だけど、精霊達の様子がちょっと変なんだよね。なんか、皆いつにも増して活発だし、家出してそのまま帰ってきてない子とかもいるんだよね。近々何か起きるかもしれないから、注意が必要かも」

「うむ……。それはお前が個人的に契約している精霊か?それとも、図書館が管理している一般精霊か?」

「どっちも。一般精霊の方は、最近借りたがる人も多いから、何かしら対策しないとかもね〜」

 先程の女性とは変わって、最後まで軽く言ってのけ、彼は席に座った。それにしても、先程から日常生活で聞き慣れないような言葉ばかりだ。精霊とか騎士団とか……。もしかしてここ、かなりファンタジーな世界だったりする?だとすると、今までの常識は通じないだろう。誰かからこの世界について教わることが出来たらいいのだが、その前にどう事情を話すべきだろうか。


「ラディ」


 素直に転生したことを言うか。いや、けれどそんなこと言って信じてもらえるだろうか。どのみち、協力者を探さないことには、この世界で生きることは難しいだろう。近いうちなんとかしなければ。


「ラディ」

「お嬢様」


 隣から体が揺られる。何事かと思えば、メイドさんが私の肩を揺すっていたのだ。


「あ、ええと、どうしたのですか?」

「陛下がお嬢様をお呼びです。お嬢様も報告をしてください」

「えぇ?」


 報告だなんて言われても、私はこの世界に来て数時間も経ってるか怪しい程の時間しかいない。昨日何してたかだかんて覚えてない。というか知らない。素直に自害して来ましたって言って誰が得するんだ。


「ええと、その」


 何か言わなければ。でも何を?そう思った私の目の前には、美味しそうなベーコンが置かれているのがみえた。


「あ、お肉!お肉が凄く美味しいです!!」


 私が、肉が刺さったフォークを片手に立ち上がれば、一同がしん、と静まり返る。めちゃくちゃ気まずい。


「ふ、あははは!ラディ、どうしたんだ?お前がそんな報告をするだなんて珍しいな」


 そう言って声を上げてくれたのは、ランカと名を呼ばれた青年だった。彼が一声上げてくれたお陰か、他の皆まで笑いだした。メイドさんも、小さくだが確かに笑っていた。普通ならば、皆して何笑ってんだ、と怒るような場面かもしれないが、私はそれ以上に、この人達にも笑う心があって良かった、と変な安堵感を覚え、気付けば私も笑っていた。だが、その中で1人、母である彼女だけは、口角が上がらず真顔のままだった。



 それから朝食は解散となり、私は広いお城の中を散策していた。

「まさか、自分が転生して城に住むことになるとは……」

 ふと、近くの窓から外を見てみたら、綺麗な花々が咲き誇る大きな庭園が見えた。せっかくの機会だと思い、私は階段を降り、その庭園へと足を運ぶ。



「わぁ、綺麗……!」


 庭園は手入れが行き届いており、花一つ一つがまるで主役かのように自身の花弁をいっぱいに広げていた。

 思えば、前世では花なんて楽しむ余裕もなく、いつも何かに追われていた。子供特有の童心からか、やっと解放されたという自由からか、私はその庭園をもっと見てみたいと思った。


 それから庭園を見ながら歩いていると、遠くに誰か少女を見つけた。丁度私と同じくらいだろうか。どこか儚げなその子のことが気になり、

「あの、ここで何してるの?」

 つい声をかけてしまった。

 彼女は私の声に振り返り、その顔を見せてくれる。綺麗な白髪に、赤い瞳。暗い色をしたドレスは、彼女の髪色を際立たせていた。まるで御伽噺から出てきた妖精かのように思う。あまりの儚さに目を奪われて動けずにいると、彼女の方から歩み寄ってきた。思わず私が一歩後ずさると、彼女は悲しそうに俯いた。


「あ、や、ごめんなさい!嫌とかじゃなくて、あなたが凄く綺麗だったから、その、驚いちゃって!」


 思わず素の自分で、大分捲し立てながらの言葉になってしまう。そんな私を見て、彼女はふふ、と優雅に笑ってみせた。


「綺麗だなんて、私には勿体無いお言葉です。貴女の方が、何倍もお綺麗ですよ」


 そう言ってにこ、と笑ってきた。だめだ、笑顔の破壊力が強すぎる。

 それから、私は彼女に手を引かれ、庭園を見て回った。


 彼女の名前はユエナ・リガルーファルというらしい。親の都合で、何度かここに来ているらしく、この庭園には何度も足を運んでるとのことだった。花冠を作ってもらったり、花のことを教えてもらったり、彼女と過ごす時間は、とても楽しかった。遊び疲れた頃には、もう日が暮れていた。



 その日の晩、私は自分の部屋のベッドに突っ伏し、考え事をしていた。

 前世は男に散々振り回されて痛い目に遭った。だから、恋愛はもう懲り懲りだと思っていた。だけど今日、彼女と過ごしてみてわかった。やっぱり私は誰かと一緒に居たい。それに単純に、やっぱり寂しい。

 だけど、男だとまた散々な目に遭うかもしれない。

 そこで私は考えた。男が駄目なら、女の子と恋すればいいと。

 男も女も、きっとそう変わらない。だから私は今世では可愛い女の子を見つけて、その子と添い遂げてやる!

 待ってろ、私の運命!!

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