吹雪
「…すっごい雪」
「おいおい…さっきまでそんなに降ってなかったろ」
「鳴海くん、大丈夫かね」
「次の中川さんのお宅はここから20分くらいですから…、約束は2時でしたよね。ゆっくり行けば大丈夫だと思います。一応、教授から先方に少し遅くなる旨を伝えていただけますか?」
「そうかね。では一本連絡をしておこう」
資料館に入る前は止みそうに思えた雪だったが、今は昨日に増して勢いを強めていた。
そそくさと車に乗り込んだ四人は、カーナビに次の目的地をセットした。
今が1時半、約束の時間が2時。
カーナビの案内では1時50分には到着予定だが、雪の影響は避けられないだろう。
後部座席からマサムネがアキに話しかけた。
「秋人、チェーンつけるか?」
「そうだな…。スタッドレスでも問題ないはずなんだが、念の為つけるか」
「オッケー。手伝うぞ」
「いや、ワンタッチタイプだから大丈夫。マサムネたちは車内で待っててくれ」
「秋人くん、寒いのにごめんね〜」
「このチェーンは何度かつけてるから、慣れてるんだ。そんなに時間もかからないと思うよ」
「でも…」
「良いって。すいません、教授。ちょっとチェーンつけてきますんで、その間に電話お願いできますか?」
「鳴海くん、すまないね」
「いえ。それでは…」
アキは車を降りてラゲッジから軍手とタイヤチェーンを取り出すと、前輪に取り付け始めた。
資料館の駐車場は、他の場所に比べあきらかに積雪が少ない。
おそらくアキたちが訪れる前にスタッフの方が除雪してくれていたのだろう。
余計な通行車両がないこの場所の方が、安全で素早く作業できる。
中川氏に電話をかける教授の後ろで、手持ち無沙汰なマサムネが何か手伝えないか考えていると、隣の葵が声を上げた。
「あっ!」
不審に思ったマサムネが小声で話しかけた。
「(なに?)」
「(作業中、スマホ、マナーモードにして上着に入れてたんだけど…)」
「(どうした?)」
「(六花ちゃんから、めっちゃLINEきてた…。なんか怒ってるっぽい)」
「(秋人が中学生にちょっかい出したとかLINEしてたじゃん。ちゃんとフロォーしたのか?)」
「(いや、途中でココに着いたから〜)」
「(えぇ…、放置したのか?そりゃ怒るだろ…)」
「(いや、ちゃんと作業に入るから一回終わりにするってLINE送ってる〜)」
マサムネはため息を吐いて車外を見た。
前輪の横にしゃがみ込んだアキがタイヤチェーンを取り付けているのが見える。
「(お前、あの姿見てよくそんな事が…)」
「(ホントごめんっ。すぐに悪い冗談だったって伝えるし、フォローもする!)」
「(頼むよ、マジで…。後で俺も秋人に謝るから、一緒に謝るぞ…)」
「(ごめん〜)」
「どうかしたかね?」
後部座席の二人が小声で話していると、電話をかけ終えた教授が問いかけてきた。
「い、いえ、大丈夫っす」
「あ、先生、今日はこの駅に4時までに着けば良かったですよね?」
「ん?ああ。そうだな。まあ新幹線なら1時間もかからないから、もっと遅くても良いんだが…。君たちの帰宅が遅くなってしまうからね。鳴海くんにも苦労をかけてしまった」
「資料の類は持っていきますか?」
「いや、荷物になるからね…。すまないが教授棟の受付に預けておいてもらえるかな」
「了解っす」
「ああ、そういえば先ほど撮影した資料の中に…」
教授とマサムネたちが話をしていると、ラゲッジにチェーンの収納袋や軍手を入れたアキが運転席に戻ってきた。
平然としているが、かなり寒かったのだろう。耳が真っ赤になっている。
「教授、お待たせしました」
「ああ、ご苦労様。助かるよ」
アキが後部座席を見ると、マサムネと葵がアキに向かって手を合わせて頭を下げている。
よくわからないが、なんだかユーモラスだ。
アキは車のシフトをドライブに入れた。
「じゃあ出発します」




