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吉沢郷土資料館

 予定通り到着した吉沢郷土資料館では、60〜70代と思しき数人のスタッフが出迎えてくれた。

 古民家めいた外観の、なかなか趣深い建物だ。


「大崎さん、ご無沙汰しております」

「小松原先生、足元の良くない中、わざわざありがとうございます」

「こちらお口に合うかわかりませんが、皆さんで召し上がってください」

「いつもすいません。ありがたく頂戴いたします」


 教授は大崎という壮年の男性に手土産を渡した。


「以前提案差し上げたクラウドファンディングの件は、その後いかがですか?」

「あまりうまく行っていませんね…。今の町長はあまり古い物に興味が薄いから…」

「こういったご時世ですから、もう少し上手にPRをすれば後援者も現れます」

「どうにも私も古い人間だもんで……」

「文化庁もデジタルアーカイブ化に補助金を出していますから、頑張りましょう。今回はサワリだけですが、学生が実際に作業するところを見て、触れていただいて、皆さんでもできるということを体験してください」

「先生、ありがとうございます」



 もともと個人で古い資料を蒐集していた吉沢氏が、自身の体調不良をきっかけにこの町に自宅ごと寄贈したのが郷土資料館の始まりらしい。

 今はほとんどボランティアで運営されているということで、苦しい状況が続いている。


 教授は大崎氏と色々と相談事があるようだ。


「すいません。本日はあまり時間がないもので、作業はどちらで行えばよいでしょうか?」

 葵が他のスタッフに尋ねると、会議室のような部屋に案内された。


 データ化する書籍はある程度集めるなど事前に準備してくれていたので、早速機材とパソコンのセッティングを行う。


 今回使用するのは、オーバーヘッドスキャナーと呼ばれるタイプの機械だ。

 デスクスタンドのような形でカメラとライトがセットされており、その下にスキャンしたい書籍や図面を置いて撮影する。

 書籍をセットする台は任意の傾斜をつけることができるので、本を開いた際に完全に開き切らずに置ける。

 そのため、ページの落丁などのダメージを少しでも減らすことができる。

 また、自動的にピント調節と歪み補正をしてくれるので、被写体がたわんでいる状態で撮影してもある程度平面化してくれる。

このタイプのスキャナーは、厚みがある書類の束なども解体せずにスキャンでき、またガラス面と接触しないので汚れたり傷みやすい書類にも対応できる。


 本来はデジタルアーカイブを専門とする業者に委託するのがベストなのだが、それなりの費用がかかってしまう。


 教授が所有しているスキャナーは20万円程度と一般向け製品の中では少し高い物だが、業者に委託することを考えれば安い方だろう。


 古い書籍を素手で触ってダメージを与えないように、白い薄手の手袋を装着する。


 大崎氏との話を終えた教授は、準備された書籍を次々と開き内容を確認している。


 機材の準備が整ったところで、マサムネが教授に声をかけた。

「先生、準備オッケーっス」


「うむ。では鳴海くん。このテーブルの、そうだな、右から順番に運んでもらおうか」

「了解しました。スキャンを終えたものはどちらに?」

「あ、重ねずに奥のテーブルに置いておいてください。後でワタシらで戻しておきますんで」

 教授とアキが話しているとスタッフの方が声をかけてくれた。


 教授がすなずく。

「ではお言葉に甘えさせていただこう。私は文書の状態と内容を確認していくから、鳴海くんはサポートを」

「はい」

「向井くんは直接文書に触れるから、丁寧な作業を頼むよ」

「はい」

「加藤くんはピンボケなどないように気をつけてくれ給え」

「うっス」


 アキは教授のセレクトした書籍を順番にテーブルに並べる。

 葵がスキャナーの下にセットした書籍のページを順番にめくり、撮影していく。

 マサムネがデータを都度確認し、書籍ごとにファイルにまとめる。

 撮影が終了した書籍をアキが回収し、郷土資料館のスタッフと保管場所に戻す。

 大まかな流れはこのようなものだ。


 郷土資料館のスタッフも葵やマサムネからやり方を教えてもらい、撮影に参加した。

 最初は恐る恐るといったところだったが、思ったよりスムーズに作業が進む。


 教授が作業をしている資料館のスタッフに話しかけた。

「最近はどんどん技術革新が進んで、初心者でも簡単にこういった作業ができるようになりました。また、機材にかかる値段もグッと安くなっています。大崎さんの知り合いの方などに一度相談してみてください」 

「そうですね。私らじゃあ無理だと思っていましたが、ずっと便利になっているんですねぇ」

「紙はどれだけ厳重に保管しても、どうしても経年劣化してしまいます。また、火事や事故などでいつ失われることがないとも限りません。なるべく早くデジタル化したものを複数箇所に保管するのが重要だと思いますよ」

「またその際には先生のお力添えをお願いします」

「ええ、勿論です。こちらにも現存する数が少ない貴重なものも多いのですから、皆さんも苦手意識を持たずにチャレンジしてみてください」


 教授の言葉に資料館のスタッフも積極的に取り組んでくれた。


 貴重で傷みやすい資料を扱うだけに神経を使う作業は、途中休憩を挟みつつも続き、気づけば12時を過ぎていた。


 教授は休憩の間に、近所の弁当屋に昼食を頼んでくれていた。


 資料館のスタッフ分も含んで注文した8食は、出来立てが届けられたので、全員で暖かい弁当を美味しくいただいた。

 昼食を15分ほどで早々に切り上げて作業を再開し、13時15分に予定の全量をスキャンする。



 マサムネがパソコン画面で取り込んだ資料が鮮明に撮影されているかチェックしている。

 都度チェックしていたこともあり、特に問題なさそうだ。


「大体オッケーだと思います」

「そうかね。加藤くん、向井くん、鳴海くんご苦労だったね」

 教授は皆を労うと資料館スタッフに挨拶をしに行った。


 撤収作業を行おう。

 データ化した資料は、後日メールと別にDVDに焼いたものを資料館に送る予定だ。



 郷土資料館のスタッフから丁重なお礼で送られた四人は、少し急ぎ足になったものの13時半には資料館を出ることにした。

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