のぞみとゆり子
吹き抜けのリビングで、タエさんが教授に昔語りをしている。
それをマサムネと葵が撮影している。
少し外れた場所のテーブルで、オバ様とアキが小声で何か話をしている。
それを吹き抜けの2階から伺い見る二つの顔があった。
二人の背後に座ったハチワレ猫が、その様子を見て大きなあくびをした。
「…ねえ、今うちのおばあちゃんと話をしている人、ヤバくない?」
「…ヤバいね。超イケてる。えっと、あの俳優のさ」
「え?だれ?」
「中川大志っぽくない?」
「あ、わかる〜福士蒼汰とかそっち系」
「ノゾからイケメンきたってLINEきた時は、とうとう沸いちゃったと思ったけど」
「ひどっ!呼ぶんじゃなかった…」
「ウソウソ!チョー感謝してる!」
「めっちゃアガる!ってなって、すぐ呼んであげたのにぃ…」
「ゴメンて!ねぇ、あの人空いてるみたいだから、ちょっとしゃべれないかな?」
「う〜ん……。じゃあ、宿題してることにして…」
ちょうど一つの話が終わったところで、マサムネがSDカードの交換と休憩を申し出た。
教授と葵が動画をチェックしていると、リビングの戸が開きのぞみがあらわれ、オバ様と談笑するアキに話しかけた。
「ぁのぅ、皆さんは東京の大学生って聞いたんですけど、どこの学校なんですか?」
「ボクたちは武州大学ってところなんだ」
「武大ですか!すごいところじゃないですか」
「規模は小さいけど、ゼミは力を入れている大学なんだよ」
「ちょっと、いまぁ、友達と宿題やってて…わからないところがあって行き詰まっちゃったんですけど…、教えてもらったりとか、ダメですか?」
「良いけど、女の子の方が良いかな?であれば向井さん…」
アキが葵に視線を向けたが、葵から行って来いと手を振られた。
「ちょっと忙しいみたいだから、ボクでも構わないかな?」
「もちろんです!」
一応教授に一言断りを入れてから、のぞみの部屋だという2階の一室に入った。
ぬいぐるみや勉強机などが置かれたベッドルームには、ベージュのラグマットの上に小さな四角テーブルが置いてあった。
テーブルの上には教科書とノートが拡げてあり、その前にひとりの女の子がちょこんと座っていた。
昨日はタエさんのところにいた猫が、のぞみのベッドの隅で丸くなっている。
「ぁ、友達のゆりですぅ」
のぞみが紹介してくれたので、挨拶しておく。
「こんにちは。ゆりさん。日曜日なのに勉強するなんてすごいね」
「…ひゃい。ゆり子ですぅ。あのぅ、お兄さんのお名前は?」
「ボク?鳴海と言うんだ。よろしくね。わからないところ、答えられると良いんだけど」
「ナルミさんですね…。あ、じゃあ反対側がのぞの席なので、この横に座ってくでしゃい」
アキは二人の間に座るとテキストを見渡した。
「図形の合同の証明かぁ。ボクも苦手だったな。うまく教えられるかわからないけど、何処で詰まったの?」
「ええっと、この問5なんですけど……」
「……△PADは直角三角形なので、∠C PE=∠APD=90°-∠PAD。
△C AEも直角三角形なので、∠C EP=90°-∠CAE。
∠PAD=∠CAEだから、∠C PE=∠C EP。
よって、2つの角が等しいので、△C PEは二等辺三角形である。って感じかな?」
のぞみとゆり子は、請われるまま何問も解説する真剣な表情のアキをぼーっと見つめていた。
「ちょっと難しいね。わかりにくかったかな?大丈夫?」
「ぃいえ、とてもわかり易かったですぅ」
「ありがとうございます…」
と、部屋のドアがノックされた。
オバ様が呼びに来てくれたようだ。
「鳴海さん?そろそろ先生が引き上げるそうでして…」
「あ、はい。それじゃあ失礼しますね。のぞみさんもゆり子さんもガンバってね」
アキは立ち上がると部屋を出た。
「お忙しいのにすいません…」
「ありがとうございました…」
二人は座ったままアキを見送った。
猫は丸くなって寝ている。
「ヤッばー!!なにアレ」
「もう押し倒そうかと思った」
「アンタもヤバいわねぇ」
「でも、なんかチョーいい匂いしなかった?」
「してた!ていうか、普通に教えてくれてるのに全然頭に入って来なかった~」
「ゆり、アタシに感謝の言葉は?」
「チョウウレシイ、アリガト」
「アンタも大概じゃない!でも、なんつーか…」
「「メッチャエロかった」」
「……ぅにゃっ」
騒ぐ二人をベッドから眺めていた猫が、呆れたようにひと声鳴いた。




