帰ろう
マヤは「ちゃんと大人しく待っていて」と念を押すアキをスーパーへと追い立てると、ハルカの隣に座った。
自分も残業で遅くなって電車が止まってしまったことなどを話してから、ハルカのバイトのことやアキとの関係など色々尋ねていく。
ふと気になり、ハルカの前に置かれたコーヒーカップに触れるとすっかり冷たくなっている。
どうやらハルカは結構な時間ココに滞在していたようだ。
マヤの人柄か初対面とは思えないほど2人の話は弾んでいた。
買い物を終えスーパーの袋を携えたアキが2人の後ろに立っても、全く気づかないほどに。
「ゴメンね、鳴海くん、ありがとう。マヤさんもありがとうございます」
「良いのよ。ハルカちゃん。可愛いわね。お姉さんに全部任せてね」
アキの後ろを上機嫌なマヤと申し訳なさそうなハルカが腕を組みながらついてくる。
駅から離れ路地を3本ほど入った駐車場の一角に1台のSUV車が駐車してあった。
トヨタのライズだ。
今は車体に雪が積もっていてわかりにくいが、鮮やかな青いメタリックのボディカラーが特徴的だ。
車のロックを解除し2人を後部座席に押し込むと、アキは一度運転席に乗り込みエンジンをかけた。
スーパーの袋を助手席に置いてから表に出てる
窓ガラスに積もった雪やミラーについた雪をタオルで払っていく。
あらかた雪を払い除けると車内に戻り、カーナビをセットする。
「桂木さんから先に送るから。えっと、桜木町の…宮下の先、ね。ココからだと30分くらいかな」
「はい。大川渡って20分くらいでしょうか」
「あら、ココの橋渡るの?なにか赤いマーク出てない?到着予定時刻も……2時30分って3時間以上かかるじゃない!」
後部座席からカーナビを覗き込んだマヤの声に改めてチェックすると、何箇所か事故渋滞が発生しているようだ。
おそらくノーマルタイヤで走行した車両によるスリップ事故だろう。
運の悪い事に橋の手前に事故を示す✖️マークがついていて、渋滞解消にはかなりの時間がかかりそうだ。
他のルートも検索するがどの道もさほど変わらない。
「あの……、やっぱりどこか、出来たら漫画喫茶とかあったら連れて行ってもらっても良いですか?」
ハルカの困った顔を見たマヤが、運転席に座るアキの肩を掴んだ。
「アキちゃん。優しいあなたに2人の美人をおウチに泊めるご褒美を与えてあげるわ」
「……ダメって言っても聞かないでしょうが。って、痛いから力入れないでください。そんなに桂木さんのことが気に入ったならマヤさんの家に泊めれば良いでしょうに」
「きょ、今日はちょっとお部屋がね……」
「まあ、2人が良いなら構いませんよ。晩飯、カレーの予定なんですが、食べますか?」
「食べる!けど、ドンキ寄って〜」
とんとん拍子に決まっていく話にハルカが困惑していると、マヤが声をかけた。
「大丈夫よ。私がマヤちゃんを守ってあげるから!」
「あの、鳴海くん…?」
「桂木さんさえ良ければ。大学の連中も結構ウチに泊まりに来てるし、客間もあるから。寝巻きもスエットで良ければ上下セットの奴が何着かあるよ」
「前から一度アキちゃんのおウチには行ってみたかったのよ〜」
なし崩しに話がついたところで、カーナビをキャンセルしたアキは車をゆっくりと駐車場から出した。
スタッドレスタイヤは雪が積もった路面でもキチンとグリップを確保して、スリップすることなく安定した走行が出来ている。
交通量は意外なほどに多い。誰かを迎えに行くのだろうか。
国道に出たが他の車両が突っ込んでくるかもしれないので、なるべく車間距離を空けておく。
10分ほど進んだところのドン・キホーテに入ると、2人はそそくさと店の奥に姿を消した。
アンダーウエアと化粧品を買い込んだようだ。
2人に巻き込まれないように店内を見て廻っていたアキも朝用食に食パンを買った。
ドン・キホーテからさらに15分ほど走った住宅街。
綺麗な外観の高層マンション。
そのマンションの暖かな一室に3人の姿があった。




