ユキアネサ 1
この辺りにも雪女の話があってな。
ユキアネサ、と言うんだよ。
冬場に子供らだけで遅くまで遊んでいると、ユキアネサに連れていかれるって言うのさ。
大嶽村というところに、太吉という子供がおった。
母親が早くに亡くなった子でな。
父親と婆と三人で暮らしておった。
子供ながら図体がデカく、力が強かった。
喧嘩をすれば負けなしで横柄な態度をとるもんだから、村のみんなから嫌われとった。
とある年の1月の中日。
正月から降り続いた雪がやっと止んで、子供らが外で遊ぼうと家から飛び出してきた。
雪の日に表に子供を出すと、ユキアネサに肝を抜かれると言われておってな。
雪が降っとる間は子供は外に出してもらえんかった。
そんなもんだでやっと雪が止んだと子供も大人も喜んだ。
さて、子供らはみんなで集まって何をしようか相談した。
里の小高い丘でそり遊びをしようということになってな。
小さい子から大きい子まで十人もいるが、そりは3つしかない。
それでもみんなで遊ぼうと、順番にかわりばんこで仲良く遊んでおった。
そこに太吉がふらっと現れた。
婆から「晩になるとユキアネサが出るで、早く帰れよ」と言われておったが、「ユキアネサが怖くてソリが滑れるかよ」とまるで聞き耳もたん悪タレだった。
そりなんぞ持たずにやってきて、どけ、どけ。オレが滑るから、どいていろ。と、小さな子からそりを奪って滑り始めた。
そりを取られた子は泣いたが、周りの子供も太吉に逆らうとどんな目に遭わされるかわからない。
丘の端で、残りのそりを使って順番に遊んでおった。
時を忘れて遊んでいると、いつしか陽が傾いてきた。
子供らは大人にユキアネサに会ったら命を取られると言いつけられているから、はぐれが出ないように互いに確かめ合って家に帰った。
帰ろ、帰ろ。ユキアネサが来るからな。早く帰らねえと叱られる。
そんなこと言いながらな。
面白くねえのは、ひとり取り残された太吉。
口では偉そうなことを言ったがな。
本当はみんなと一緒に滑るのが楽しかったんで、みんな帰ると、一人で滑るのもつまらない。
それで自分も帰るようなら世話ないが、世の中臆病者ほど虚勢を張るからな。
あいつらは馬鹿だ。日が暮れればみんな帰る。帰らずに残っていれば、順番など待たずに好きなだけ滑れるでねえか。
そう言って一人残って遊んでおった。
それでもだんだん陽が山の向こうへ沈んでいくと、やはり、そこはまだ子ども。
お天道様にまで見放されたような心持ちになった。
大人の言うことを聞かずに、夜になっても遊んでいるような子どもは、ユキオナゴに魂抜かれっど。
婆から言われた言葉を思い出し、急に恐ろしくなってな。
慌ててソリを担いで帰ろうとした。
その時よ。
白い雪の塊のようなものが、宙を軽やかに舞うように、ふわーり、ふわーりと近づいてくるのが見えた。
目を凝らしてよく見ると、白帷子に身を包んだ色白の女が、長い黒髪を靡かせて、こちらへ向かって歩いてくる。
手には、これまた透き通るように白い、一頭のべごを連れている。
スラリと背の高い白い女と、妙におとなしい白い牛――。
女は右手にべごの鼻先を持ち、左手には桶を持っている。
太吉は逃げ出そうとしたが、足が動かない。
そればかりか、手も顔も動かないし、声も出ない。
太吉は凍りついたような顔をして、黙って立ってることしか出来んかった。




