木梨家
木梨家には9時を少し過ぎたころに無事到着した。
タエさんとオバ様に加えて、ひ孫だという中学生の女の子が出迎えてくれた。
「おはようございます」
「朝からすいません。お邪魔します」
「いらっしゃい。待っとったよ」
挨拶もそこそこに、早速教授とタエさんが話し込んでいる。
と、マサムネと葵がカメラなどを運んできた。
「おはようございます。またちょっとカメラとかセッティングさせていただきますね」
「はいはい…。のぞみちゃん、せっかくだからお手伝いしてくれる?」
オバ様がマサムネのバッグを見て、リビングの隅に立っている女の子に声をかけた。
「オバ様、そんな、大丈夫ですよ」
「そうっす。二人で十分なくらいなんで!」
葵が慌てて断りを入れると、マサムネもうなづいた。
「のぞみさん、で、良かったかな?今何年生ですか?」
「ア、ハイ、2年生です…」
「じゃあ、来年受験かあ。どこの高校に行きたいとかもう決めてるの?」
「ま、まだ、そんなにですけど、こ、この高校の制服が可愛いなって」
アキは女の子が見せてくれたスマホ画面をみて微笑んだ。
「うん。可愛い制服だね。のぞみさんにもきっと似合うと思うよ」
「あ、ありがとぅございますぅ…。お、おばあちゃん、ちょっと、私、部屋に戻ってるね」
「あらぁ?ハルナがイケメン見たいって…」
「おばあちゃん!ちょっと!」
女の子はおばさまを連れて出ていってしまった。
リビングの外で何か話しているようだ。
「(のぞみちゃんが見たいっていうから…)」
「(おばあちゃんの話だから、どうせ雰囲気イケメンとかだと思ったの!まじヤバイんですけど!なんか良い匂いするし…)」
「(困った子だねえ…)」
「(そうだ、ゆり子に連絡しよ。おばあちゃん!あの人何時までいるの?)」
「(せいぜい11時くらいかしら)」
「(ヤバイ!すぐ呼ばなきゃ!伸ばしてぇ!お願い〜!)」
廊下で何やら話す二人にマサムネと葵が気づいた。
「葵、見たか?」
「あ〜久しぶりにやってるね〜。アレは中学生には毒だよ」
教授と話をしたアキが、二人の状況確認に来た。
「教授がそろそろ始めるってさ。準備、大丈夫か?」
「アキト…、準備はいいけど、お前またやらかしてるぞ」
「後でさやかちゃんに呼ばれたら、ちょっと相手してあげてね」
「ん?まあ俺は別にここでやることないから構わないけど…」
「あと、距離感に注意してね」
「そうだな」
「はいはい…いいから始めるぞ」
教授はタエさんとこの辺りの地酒の話をしていたが、ひとしきり話を終えたところでマサムネに頷いた。
マサムネもカメラとICレコーダーのスイッチを入れ、OKサインを返した。
「そういえば昨日仰っていた毛むくじゃらの目撃例は、いつ頃まであったんですか?」
気になっていたのか葵が質問した。
「今年の夏にもあったさ。トラックの運ちゃんが見たってさ」
「一応クマがいるらしいってことで、歩きじゃあ入っちゃいけんということになってるんですよ。マムシやヤマカガシもいる山ですし」
「でも道が使えないと不便じゃないんですか?」
「20年も前に隣町に続く道ができてから、滅多に誰も使わないんですよ。新しい道の方が明るくてきれいで早いからねえ」
「そこが事故で通行止めになったりしたら使うんよ」
「裏道になってるんですね」
「なんだかたまにゴミを捨てに来るトラックがいるんだけど、その運ちゃんだったから、誰も相手にせんのさ」
「怖いけど、ある種ガードマンみたいになってるんですね」
タエさんの言葉に葵が何度も頷いている。
タエさんが窓から山の方を眺めている。
「今日の雪は随分大人しいが…、この辺りにはユキアネサの話もいくつかあるでな…。そん話にしようかねえ…」




