ロビー
アキがカードキーをフロントに返し、チェックアウトしているとマサムネが降りてきた。
アキの横でキーを返却している。
「先生、降りてきた?」
「まだ」
「40分くらいになって来なかったら、俺が連絡するよ」
「りょーかい」
ロビーに置かれた大きいテレビでは、ニュースが流れている。
昨日一度降り止んだ雪は、夕方から再度降り出したようだ。
その雪の影響で、都内の公共交通機関の一部が運休している事や高速道路の一部区間が通行止めになっている事を繰り返し伝えている。
ロビーのソファに並んで座る。
「あ、そうだ。昨日のバーの飲み代、一人二千円な」
「じゃあ葵の分も合わせて払うよ。…五千円札でもいいか?」
「なに、奢ってくれんの?…冗談だよ。ほらお釣り」
「…なあ」
「うん?」
「さっきの神社の話、心霊系じゃねえの?」
「いや、わからんけど…、ヤクザが空き家とか廃倉庫に覚醒剤を隠すって話、聞いたことあったから」
「覚醒剤?」
「暴走したヤツの症状が、それっぽくないか?」
「そう言われると…」
「隠してあったなんかのドラッグを吸い込んじゃって、トリップしたのかと思った」
「うわぁ…オカルトよりありそうで怖いわ」
「心霊スポットで行方不明とか言うじゃん」
「見てはいけないモノを見てしまった〜的な?」
「ヤクザの隠した物見つけたら、トラブル必至だろうなあ」
そんなことを話していると、葵とリカが降りてきた。
葵がチェックアウト手続きをしていると、リカが二人の前のソファに座った。
「マサムネくん、昨日はありがとうございました」
「こちらこそ。っていうか、葵に聞いたけど、リカも都内住みだったんだな」
「うん。松丘の方に家族とね」
「結構近いじゃん」
「だからリカちゃんとまた遊ぶ約束したんだ」
「ねー」
座っているリカの後ろから葵が抱きついた。
リカも笑っている。
「みんなはいつ帰るの?」
「今日帰るよ。明日も授業だし」
「あれ?そういえば先生はどうするの?」
「夕方に仙台って言ってたから…、4時までに、ここの駅まで送れば良いだろ」
「ああ。新幹線止まるし。問題ないっしょ」
アキがスマホの地図アプリで、駅を指差した。
「なるべく早めに出ないと着くの深夜になっちまう…」
「つーか、先生、遅いな。ちょっと電話してくる」
時計を見たマサムネが席を立った。
「向井さん、ちょっと車をまわしてくる」
「あ、うん。りょーかい」
アキはフロントの係員に声をかけた。
ホテルの裏の機械式立体駐車場から車を出してもらわないといけない。
少し手間だが、屋内保管なので雪の心配をしなくて良いのは助かる。
出庫したライズに自分のスーツケースを積み、カーナビを木梨家にセットした。
ホテルの横に車を着けたアキがロビーに入ると、チェックアウトを済ませた小松原教授にリカが白いビニール袋を渡しているところだった。
「昨晩は素敵なお店に私までご招待いただいて、ありがとうございました。これお茶ですので、良かったら後で飲んでください」
「いやあ、わざわざすまないね。こちらこそドタキャンせずにすんで助かったよ。ええと…何君と言ったかね?」
「相馬 六花と申します」
「相馬君か。相馬性ということは、この辺りにお住まいなのかな?」
「今は都内ですが、母方の実家がこちらのほうですね」
「そうかね。それでは…」
話を続けようとする教授に葵が割り込んだ。
「センセ〜。木梨さんとの約束に遅れちゃいます」
「そうっすよ。荷物積むんで、その袋も預かりますよ」
「あ、みんなの分もあるから」
「ありがと〜」
「アキトは、トイレ済ましてこいよ」
葵とマサムネが、教授の荷物を奪うと車に連れ去っていった。
残された二人は顔を見合わせ、苦笑した。
「気を遣わせたかな?」
「かもね」
アキが外をチラッと見た。
ここからはライズの車体は見えない。
サラサラした雪が舞っているのが見えるだけだ。
「雪が弱くなってくれて助かった」
「…良かった。運転、気を付けてね」
「ああ。ありがとう。これ以上強くならないとベストだね」
「…大丈夫。今日はこれ以上は振らないから」
「ん?天気予報変わった?」
「…多分、そんな感じ」
「リカ、また連絡するから」
「うん。私も連絡する」
フロントにスタッフの姿はなく、ロビーに他の客もいなかった。
「ねえ」
「うん?」
リカはアキの腕を引っ張り、キスをした。
「またね」
「ああ」




