朝食会場 1
PiPiPiPi…PiPiPiPi…PiPiPiPiPiPiPiPi…
「ん……」
アキが目覚まし時計のアラームに起こされた時、リカは部屋にいなかった。
テーブルに転がっていたはずの空き缶がゴミ箱の横に並んでいた。
代わりにテーブルの上に『7時半に朝ご飯』とだけ書かれたメモが置いてあった。
アキは時計を見直し、ちょっと伸びをすると、顔を洗うためにユニットバスのドアを開けた。
2階の朝食会場のレストランに降りると、リカがお盆を手に列に並ぼうとしているところだった。
「リカ、おはよう」
「あ、うん。おはよぅ」
「リカは、和食にしたの?」
「うん。白いご飯と焼き鮭とか、好き。アキは?」
「朝はあまり入らないんだよね…。クロワッサンとスクランブルエッグ、ソーセージにコーヒーくらいで十分かな」
「そうなんだ」
朝食を手にした二人はレストラン内を見渡したが、マサムネと葵の姿は見えない。
適当なテーブル席を確保して、お盆を置いた。
「ねえ、葵ちゃんにも7時半って言ってあったんだけど、見てない?」
「いや、見てないな。マサムネもいないから、電話してみるよ」
アキはスマホでマサムネを呼び出した。
RRRR… RRRR… RRRR… RRRR…
「…ぅす。…なに?」
「おはよう。アキトだけど、時間、大丈夫か?」
「…え?そんな時間だった⁉︎」
「まだ大丈夫だけど、一応7時半過ぎ。先、飯食ってるから」
「ワリィ…少ししたら行くわ。…ぁぉぃ…ぉぃ」
Pi ! という音と共に通話が切れた。
「ちょっと、寝坊してるみたいだな。まぁ、向井さんも一緒みたいだから、少ししたら来るでしょ」
「そう…。上手くいったんだ。良かったね」
「みたいだね」
リカは笑みを浮かべてアキを見たが、俯いてしまった。
「ねえ、アキ。…私、アキの連絡先、聞いてない」
「そうだね」
「私の連絡先も聞かれてない」
「教えてくれるの?」
リカは顔を上げて、じっとアキの目を見た。
「うん」
「嬉しいよ。ありがとう」
「…うん。どこに住んでるって言ってたっけ?」
「道明寺の辺り」
「私、松丘だから意外と近いかも…。ねぇ、また会えるかな?」
「勿論。バイトと大学がなければになっちゃうけど。リカは?」
「復学手続きはしてて、後期授業で取れる単位だけ受けてるから、時間はあるよ」
「バイトとか、やらないの?」
「…最近、あんまりやる気出なかったんだけど、ちょっと頑張ってみる」
「じゃあちゃんと食べて元気出さないとだな」
鮭とご飯を交互に口に運んでいたリカが、アキの皿を見つめた。
「なにそれ…、じゃあ、そのソーセージ一本ちょうだい」
「良いけど…って、ベーコンとかも持って行く?」
「あんまり食べないって言ってたから、手伝ってあげたの〜」
「なにも残ってないじゃん…。ちょっと取ってくる…」
「あ、私にもシューマイ2個!」
「そんなのあった?…あったのね。はいはい…」
結局ご飯をおかわりしたリカの勢いに押されたアキは、気づくと普段より多い朝食を摂っていた。
運転中に眠気が出ないようにと食後のブラックコーヒーを飲んでいると、マサムネと葵が連れ立って現れた。
手こそ繋いでいないものの明らかに距離が近い。
リカは葵の姿を見付けるとマサムネとは挨拶もそこそこに、葵と一緒にお盆を持って食事の列に並んでいる。
まだ入るのだろうか。
マサムネはアキのテーブルにやってきた。
「アキト、うっス」
「おっス。…一応、車に乗せても大丈夫そうだな」
「言うなよ…。でも、サンキュー。お前のおかげだよ」
「とりあえず、飯取ってこい。出発時間、間に合わなくなるぞ?」
「そうだな」
朝食をとりにいったマサムネの向こうで、リカと葵がキャーキャー言っているのが見えた。
窓から外を見ると弱い雪が降っている。
風はほとんど吹いていないようだ。
ホテルの前を除雪車が通って行くのが見えた。




