ホテル 2
薄暗い部屋のベッドの布団の中で、素肌の男女が寄り添っていた。
アキとリカだ。
…リカがアキの胸に顔を埋めて、片手でアキのことをペシペシと叩いている。
「この女たらし。ばか」
「タラシって…。そんなんじゃないよ」
「…じゃあ、何人付き合った?」
「そんなの聞くんだ。…二人だよ」
「…ふぅん」
「…あんまり、気持ちよくなかった?」
「…良かった。めっちゃ気持ちよかった」
「じゃあ、良かった。喜んでもらえて嬉しいよ」
アキが布団をリカに優しく掛け直した。
「…ちょっと、動けない」
「一緒に寝るんでしょ。ゆっくりしていいよ」
「…3回もしたくせに」
「リカが可愛いから、つい、ね。ダメ、だった?」
「嬉しかったけどぉ…」
もう叩くのはやめたようだ。
「シャワー、浴びに行く?」
「ううん。アキとくっついてたい」
しばらくぼんやりしていると、リカが尋ねた。
「ねえ、さっきマサムネくんが赤毛のモジャモジャって言ってたじゃない。あれって何だったの?」
「モジャモジャじゃなくて、お婆さんは毛むくじゃらって言ってたけどね」
「うん。それで?」
「さっきの猟師と大蛇の話って、ここから二つ三つ先の山の話なんだ。で、何十年も前のことだけど、お婆さんがその山で3メートルもある赤毛の毛むくじゃらの化物に追いかけられたんだって」
「3メートル?よく逃げ切れたね…」
「自転車でスピード出して逃げれたのと、化物に捕まりそうになった時、ちょうど車が通りかかったから、化物がビックリして逃げたんじゃないかって言ってたよ」
「…そうなんだ」
「他にも目撃例があるらしくて、正直ちょっと怖いよ」
リカがアキの胸に顔を埋めたまま黙ってしまった。
「ごめん。怖がらせちゃった?」
「ううん。そうじゃないの」
「そう?」
「うん。多分ソレは夏しか出ないモノだから、冬の間は大丈夫」
「…そんな言い伝えとかがあるの?」
「そんな感じ。ん…ちょっと動けるようになってきたから、シャワー浴びよ?」
「一緒に?ユニットバスだから小さいけど…、まあ、大丈夫か」
「まだふらつくから、ささえてほしいの」
少ししてシャワーから出た二人は、ちゃんと寝巻きを着込んでから一緒にベッドに入った。
電気を消して、少しだけ話をして、キスをして、いつしか眠りに落ちた。
アキはその夜、不思議な夢を見た。
アキが自宅のベッドで寝ていると、ドアから真っ白な着物姿の女性が入ってくる。
艶やかな黒髪が腰の辺りまで流れていて、非常に美しい顔立ちの女性だ。
ベッドの枕元に腰掛けると、優しい表情でアキの頭をゆっくり撫ではじめた。
何か話しかけているようなのだが、内容は聞こえない。
しばらくすると、アキの頬に口づけを一つ落として、立ち上がった。
女性は室内を見回していたが、大きな窓の外を見て表情を変えた。
窓の外に赤くて大きなボールのようなモノがいた。
女性が窓に手をかけると、窓が横に開いた。
アキの部屋のその窓は、はめ殺しであかないはずなのだが。
女性はそのままボールのところまで歩いていくと、ボールに手を翳した。
足場もないのに、空中を歩いていた。
ボールがどんどん白くなっていく。
凍っていくようだ。
大きなボールの表面に、牙で覆われた口のような裂け目がいくつも浮き出てきた。
女性に噛みつこうとしているのか、ガチガチと牙を鳴らしている。
だが、だんだん動きが鈍っていき、やがて完全に動きを止めると、バラバラになってしまった。
女性が大きく息を吐いて、部屋の中へ戻ってきた。
非常に疲れているようで、ぐったりとしている。
眠りについたままのアキの頬にもう一度口づけを落とすと、ドアから出ていった。
なぜだか、すごく寂しい夢だった。




