ホテル 1
タクシーでホテルに戻った四人は、フロントで部屋のカードキーを受け取った。
葵とリカがロビーで連絡先を交換して、何か話している。
アキはマサムネに小声で話しかけた。
「(なあ、マサムネ。今晩、向井さんの部屋に行ってこい)」
「(え?)」
「(さっきの話で、向井さん、かなりショック受けてた。少し、慰めてきてくれ)」
「(だったら秋人も…)」
「(アホか。あと俺はこの後リカと約束がある)」
「(…んだよ。いつの間に。もう敵わねえよなあ…)」
リカが葵の耳元で何か呟くと、葵がニヤニヤし始めた。
「明日、8時半出発だから、一応8時過ぎにはロビー集合な」
「りょーかい」
「朝食7時からだって」
「葵ちゃん、じゃあ朝は一緒に食べよう。7時半頃で良い?」
「うん。あ、秋人くんたちも寝坊しないようにねぇ」
「はいはい。それじゃ、おやすみ」
「ちょっと着替えてからアキの部屋に行くから」
部屋の番号をリカに教えたが、一度部屋に戻るようだ。
アキはホテルの自販機で酎ハイを購入した。
706号室に入り酎ハイをテーブルに置き、寝巻きのスエットに着替えた。
ベッドの枕元に目覚まし時計があったので、タイマーをセットしておく。
7時くらいで良いだろう。
ベッドに寝転び、テレビをつけてぼんやりしていると、ドアがノックされた。
ドアを開けると、ネイビーカラーのルームウェアに白いパーカーを羽織ったリカが佇んでいた。
ルームウェアは裏起毛なのか、かなり厚手で暖かそうだ。
部屋に入ったリカはキョロキョロと部屋を見回した。
「アキの部屋もあんまり変わらないんだねえ」
「ビジホだからこんなもんでしょ。少しだけど買ってきた。レモンとグレープフルーツ、ピーチとグレープ、何が良い?」
「あ、じゃあグレープもらうね。ありがとー」
「どういたしまして。じゃあ、乾杯」
「カンパーイ」
リカは酎ハイを飲んだ後、パーカーのポケットからお金を取り出し、アキに渡した。
「これ、さっきのバーの飲み代。ちょっとだけど」
「…わかった。じゃあ貰っておく。これでもう気にしないでくれ」
「うん。ご馳走様」
リカがニコリと笑った。
アキはレモン酎ハイを飲みながら、猟師と大蛇の物語をリカに話した。
リカもたまにツッコミを入れつつ、飲み物を口にした。
一通り話し終えたところで、リカが呟いた。
「……人ならざる者との恋かぁ。…ねえ、旦那さんは、奥さんが蛇ってことを知っていたと思う?」
「どうだろうね…。多分気づいていたんじゃないかな。奥さんが家を出て行った時、彼は奥さんのことを何も言っていなかったし」
「うん…」
「全部知っていて、でも奥さんのことが大好きで、絶対何も言わないって決めてた気がする」
「…どうして?」
「猟師はずっと一人だったから、寂しかったんだと思うよ…」
「そっかぁ…。寂しいのは、嫌だよね…」
右手に2本目のピーチ酎ハイを持っていたリカが、左手を伸ばしアキに触れた。
アキも何も言わないで、リカの好きなようにさせている。
「…何だか寂しくなっちゃった。少しだけ、一緒に寝てくれる?」
「…ああ。俺で、良いのなら」
リカはアキの手を引いてベッドに倒れ込んだ。
アキは枕元のスイッチで、部屋の照明を落とした。
少しの間抱き合ってから、軽いキスを交わして、目を合わせて、ちょっと笑って、深いキスをした。
ゆっくり抱きしめあっていると、リカが言った。
「アキがいて良かった…。ねぇ、なんでダイキリだったの?」
「…特に深い意味はないよ。何だか、リカの話を聞いていたら、飲みたくなっただけ」
「そう…。でも、カクテルにも花言葉みたいなの、あるんでしょ」
「…よく知ってるね」
「ジャネルに教えてもらったの。「ピンクレディ」は、「いつも美しく」。「テキーラサンライズ」は「情熱的な恋」。「アプリコットフィズ」は「振り向いて」とかね」
「ジャネルは魅力的な女性なんだね」
「ええ。ニッキーもミシェルも素敵な人よ」
「リカも、ね」
リカがもう一度深いキスをした。
「ありがとう。…「希望」のカクテルを飲むアキも素敵だったよ」
「…偶然だよ。恥ずいわ…」
アキは立ち上がるとバッグから何かの箱を取り出した。
コンドームのようだ。
「アキ…コンドーム持ち歩いてるって、やっぱりモテるのね」
「そんなんじゃなくて、ん、マサムネを焚きつける小道具だったんだけど。自分が必要になると思ってなかったよ」
「じゃあ、タイミングが良かったって思っておく」
リカが笑った。
「少し寒いから、暖めて……」




