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バー 1

「ご馳走様でした」

「すごく美味しかったです」

「サービスも素敵でした。ありがとうございました」


 3人が店員にお礼を言っている中、アキは渡された伝票の金額に驚いていた。


「お会計の金額、間違えてませんか?かなり安すぎる気がするんですけど…」

「いえ。先生にはいつもご贔屓にしていただいているので〜」

「それにしても…」

「実はウチの主人が昔先生にお世話になったので、いつもこのくらいの価格なんです」

「そうなんですか…。それじゃこれで、すいません」


 教授から預かったお金で会計を済ませ、忘れずに領収証をもらう。


「今度近くに来た際には寄らせてもらいますね。ご馳走様でした」

「お粗末さまでした。お待ちしています〜」



 窓から外の様子を見た店員が、アキに一言アドバイスしてくれた。


「天気は少し良くなったみたいですけれど、短い距離でもタクシーを使われた方が良いですよ。表通りに出てすぐの角のビル、そこの地下1階にお若い方に人気のバーがあります。そこでしたらタクシーも呼んでくれます」


「お気遣い、本当にありがとうございます」



 予定では食事が終わる時間に合わせてタクシーを呼ぶつもりだったが、すっかり忘れていた。

 時刻はまだ21時半。もう少し夜を過ごすのも良いかもしれない。


 先にエレベーターで待っていた3人と合流したアキは、タクシーを呼ぶのを忘れていたことを詫びた。


 ビルを出ると雪はあまり降っていなかった。

 歩いて帰っても大丈夫そうな気もするが、もう少し話をしたい気もする。


「このまま帰る?それとも、もう少し飲んでいく?」

「俺はもう少し飲みたいかな」

「私もリカと話したい」

「葵ちゃん、私も〜」

「さっき店員さんにすぐそこのバーを教えてもらったんだ。タクシーも呼んでくれるみたいだから、そこにしようか?」

「良いね〜」


 アキは先ほど聞いたビルに3人を連れて行った。




 エレベーターで地下へ降りるた先に【スイフリー】というBarはあった。


 少し重めの厚みがあるドアを抜けると、暗めの室内の奥のカウンターでシェイカーを振るバーテンダーが見えた。

 ボーカルのないジャズミュージックが流れている中で、いくつかのグループがグラスを傾けている。

 店の雰囲気は重厚だが、紹介されたように若い客層がメインのようだ。


 ざわめきのような話し声の中、時折、抑えた笑い声が聞こえてくる。


 入り口の四人に気づいたスタッフが近づいてきた。


「いらっしゃいませ」

「四人ですが、良いですか?」

「テーブル席をご案内させていただきます。こちらへ」


 スタッフに促され、少し高いスツールが四脚置かれた丸テーブルに案内された。

 スタッフはメニューを渡すと、お決まりの頃に伺います。とだけ告げて離れていった。


 葵が店内を見渡している。

「なんだか、雰囲気の良い所だね」

「そうだね。良いお店を教えてもらえて良かった」

「スローテンポのジャズか…大人ってヤツだな」

「とりあえず、何か飲もっか?」


 リカが開いたドリンクメニューには、たくさんのカクテルが並んでる。

 カシスオレンジやマティーニといった定番物だけでなく、ブールバルディエなんて少し珍しい物まで出してくれるようだ。

「じゃあ、ピーチフィズにしようかな」

「俺、ジントニック」

「私は、ミモザにしておくわ」

「了解」


 アキが軽く手を挙げるとスタッフがすぐに注文を取りに来てくれた。

「ピーチフィズとジントニック、ミモザと、ダイキリで」

「ダイキリのラムベースはどうされますか?」

「ホワイトでお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 バーテンダーに注文を伝えにいくスタッフを見送った葵が尋ねた。

「ダイキリのホワイトって何?」

「ベースのラム酒って、最初は透明なんだけど、熟成させると少しずつ色がついていくらしくてね。ホワイト、ゴールド、ダークだったかな?ホワイトが一番さっぱりした感じになるんだ」

「流石、バーでバイトしてるだけあるな」

「へえ。アキは色々なことをしているのね」

「秋人くんは、ウチの学校でも結構人気なんだよ〜」


 葵の言葉にアキが苦笑いをこぼした。


「そんな話、聞いたことないよ。ダイキリは店長が作ってるのをみて覚えていただけ」


「ふぅん……」


 リカがアキを見つめて微笑んだ。

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