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アメリカ 2

 ミシェルと出会ったのは、環境社会学の講義だった。


 彼女は日本のマンガが大好きで、日本人の私にとても良くしてくれた。

 レポートで悩んでいると、アドバイスしてくれて、コーヒーを奢ったりしてくれてね。

 日本から送ってもらったSPY×FAMILYのコミックスを彼女にプレゼントしたら、すごく喜んでくれたりして、楽しかった。


 一緒にマンハッタンのラーメン屋にも行ったんだ。

 博多系のラーメン屋で12ドルくらいだったかな。

 美味しいって言ってたけど、日本だったらもっと美味しいお店がたくさんあるって言った。




 3月くらいかな。


 彼女からパーティに誘われたの。

 学生主催のオフカレッジのダンスパーティ。

 参加者は100人近くいて、場所は寮からそんなに遠くない場所。

 パーティ自体は珍しくはないんだけど、私はレポートが溜まってて断った。

 今までもほとんど参加もしてなかったっていうのもあるけど。

 寮に帰った後、ジャネルとニッキーにパーティのことを聞いたら、面倒だから行かないって言っていた。


 でも、あの時だけは断らなければよかったと思ってる。




 その夜、ニッキーの携帯に電話がかかってきた。


 大学の知り合いのカーターという男性からだった。


 ニッキーは少しカーターと電話口で話していたが、私とジャネルに尋ねた。

「カーターが、誰かナロキソンを持っていないかって」


 ナロキソンは、オピオイド拮抗薬なの。

 ヘロインなどの薬物を過剰摂取した時に、鼻からスプレーしたり注射することによって命を救うことができる緊急措置手段として知られているわ。


 誰かが質の悪いマリファナやドラッグを持ち込んで、それをパーティで使用してたみたい。


 ……ニューヨークでは、マリファナは違法じゃないから。

 ドラッグは違法だけど。

 私はタバコの煙も嫌だし、マリファナの匂いも嫌い。

 大学内でもドラッグやマリファナを持っている人を見たことはあったけど、使いたいと思ったことも無かった。


 ジャネルやニッキーからも絶対に手を出すなって言われていたし。


「私たちは持っていない…。うん…。うん…。多分、スチュアートなら持っていると思う。気をつけて」


 電話を切ったニッキーがつぶやいた。

「パーティ会場で何人か倒れたらしいわ。誰かフェンタニルを混ぜたやつがいるみたい」


 パーティ会場は救急車を呼んでいて、結構な騒ぎになっているらしい。


 私はその時嫌な感じがして、ミシェルに電話したんだけど、彼女は出なかった。


 ジャネルとニッキーに会場に行きたいって言ったけど、危ないからって止められた。





 翌日、パーティに参加していた他の友人から、ミシェルが薬物の過剰摂取オーバードーズで亡くなった、ということを聞いた。




 ミシェルは仲の良い友人と3人で参加していた。


 ダンスをして、お酒を飲んで、軽食やお菓子を食べていたんだけど、その中にマリファナ入りのものがあって。

 彼女はそれに気づかずに食べてしまって、酩酊状態になってしまった。

 気分が悪くなった人が休める個室があったから、ミシェルもそこで休んでいた。

 そこにはミシェル以外の人も数人いて、本人も少し休めば大丈夫って言うから、付き添っていた友人もパーティに戻った。



 どうやら、その個室でフェンタニルを炙って吸引したヤツがいたらしいの。

 相当、うん、良くない薬物中毒者ジャンキーだったみたいで、換気の悪い部屋で大量の薬を炙ったから、個室全体に薬の煙が広がってしまって。

 一人の学生が助けを求めて部屋を出てきて、初めてわかったみたい。



 何人も倒れて、2人は応急措置が間に合って、3人は救急車で運ばれた。


 一人は帰ってきたけれど、二人は帰ってこなかった。



 彼女も帰ってこなかった。






 ミシェルはマリファナもやってなかったし、ドラッグにも手を出したことも無かった。

 少なくとも私には、そういうのはやりたくないって言っていた。


 耐性がなかったから、なのか、たまたまフェンタニルの煙を多く吸い込んでしまったのか、わからない。






 もし、あの日、一緒にパーティに行っていたら、体調を崩したミシェルを私たちの寮に連れ帰っていたと思う。

 そしたら、あんなことにならなかったんじゃないかな。






 ミシェルはね、私が日本に帰ったら絶対遊びに来るって言ってたの。

 私が好きな味噌ラーメン屋さんとか、一緒に行こうって。

 美味しい日本のご飯食べようって。


 約束、したんだけどな。

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