黄走り温泉
「「おお……、すげえ……。本当に黄色だ!」」
温泉を見て驚愕する裸の細マッチョとマッチョの後ろで、痩せた男性が笑った。
「すごい色だろう。ここに連れてくるとみんな驚くんだ」
洗い場で頭と体を洗った面々が露天風呂に行くと、そこには蛍光色を思わせる黄色のお湯が湯船から溢れ出ていた。
どうやら温度が違うようで、三つに分かれていて、先客も結構いる。
風呂の横には泉質や効能が書かれた看板が立っている。
泉質は、酸性・含硫黄・ナトリウム・マグネシウム、硫酸塩・塩化物泉。
硫黄成分は基準値のおよそ二十倍もあるとのことだ。
マサムネとアキは『あつ湯』の看板が掲げられた風呂に並んで入った。
少し熱めの濁り湯にゆっくりと身体を沈めていくと、足先はすぐに見えなくなった。
酸性が高いのか、肌に少しピリピリとした刺激を感じる。
身体の中に温泉の成分が染み込んでいくようだ。
「やべえ。ちょーきもちいー」
「マサムネ、上、見てみろよ。もうさ、なんつうか、サイコーじゃねえ」
空から雪が舞い降りてきて、湯船に落ちて消えていく。
一日中運転した疲れも、お湯に溶けて消えてゆくように感じる。
教授は別の少しぬるめの風呂に入っている。
バス移動中に隣り合わせになった男性と仲良くなったようで、何か盛り上がっているようだ。
とりあえず、3つの風呂全てに入り、最初の風呂に戻ってきた。
「なー、マサムネ」
「うんー。なんだ?」
「向井さんとどうなったん?結局」
「んー。まあ、付き合ってほしい……的なものは言ったよ。先週、二人で飲み行って」
夜空を見上げていたマサムネがうつ伏せになって、風呂の縁の岩に寄りかかった。
「おー、やるじゃん。で?」
「感触的には悪くない感じだったんだけど、ちょっと待ってくれって」
「へー。でも、もうすぐクリスマスだろ?」
「それまでにはきちんと返事もらいたいとは思ってるけどさ〜」
「……今日なんて、いいタイミングだろ。後で二人きりにしてやるから、なんとかして来いよ」
「……ん〜。じゃあ、がんばるよ。ありがとな」
どこか遠くを見つめたままのマサムネがポツリと言った。
「もし振られたら縁起悪いから、どっかで捨てていってやる。俺の車に乗せて置きたくないから」
「おま!そりゃねーだろーが!」
「車内の空気悪くなるから、失敗すんなよー」
アキはマサムネの背中を軽く叩いた。
アキはマサムネに言っていない事があった。
先週のこと、自宅でノートパソコンを開きレポートに頭を悩ませていると、アキのスマホが鳴った。
葵からだ。
珍しいと思いつつ、通話マークをフリックした。
「あ、もしもし、鳴海だけど」
「あ!秋人くん⁉︎」
「そうだけど…、なんかあった?」
「ちょっとちょっと!ねえ!聞いてよー」
「聞いてるって。てか声でかいよ……」
「今日ね!ゼミ終わりに〜ムネと二人でご飯行って〜ま〜これってデートだよね〜」
面倒臭そうな雰囲気を感じたアキは電話を切りたい衝動に襲われたが、なんとか堪えてスピーカーモードにしてテーブルに置いた。
レポートの方が重要だ。
「そうだねーよかったじゃん」
「でね!一緒に〜お酒飲んでて〜あ!前に秋人くんが教えてくれたバーに行ったんだ!」
「うんうん。それで?」
「なんかね!ちょっと〜いい感じになって〜」
「良かったね〜」
「そしたら〜ムネがね!好きって言ってきて〜付き合ってくれって!」
「お〜良かったじゃん。やっと付き合うことになったん?おめでとー」
「……ううん。付き合って…ない」
「はあ?」
「ムリ!ってなっちゃって!」
「え?マサムネのこと、好きぽだか好きぴだか、なんとか言ってなかった?」
「言ってたけど〜」
「なに?告ってきて急にキモくなったとかそっち?」
「違う!」
「じゃあ何さ……」
「めっちゃ嬉しかったんだけど、テンパっちゃって……」
「じゃあ断ったんだ」
「……ちょっと時間ちょうだいって」
「……うわぁ。マッチョを弄んでるよ」
「違うの。いやムネの筋肉はいつも素敵だけど!」
「出たよ…。ほんと好きだよね…」
「別にマッチョなら誰でもいいわけじゃないから!」
「わかったって……。で、どうしたいの?」
「来週末の教授のフィールドワークの時に協力して!」
「はいはい…。で具体的には?」
「晩御飯の後に秋人くんが先生をうまく連れ出してくれれば良いから」
「…いいけど、今度はヘタレないようにね…」
「もち!それでね………」
その後も電話が切られることはなく、アキのレポートは進まなかった。
要は、この後は『出来レース』という事だ。




