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温泉に行こう

 教授はフロントで宿泊手続きを済ませると、カードキーを配った。


 ホテルスタッフに温泉に行く旨を伝えると、ミニバスが30分後に出るので、着替えを持ってロビーに集合して欲しいと言われ、手提げを手渡された。

 タオルや着替えなどを入れるのに使ってくれということだ。


 浴衣も貸し出しているそうだが、教授から「寝巻きにするのはいいがこの後食事に行くから湯冷めする」と忠告された。

 葵は風情が〜などとこぼしているが、風邪をひくわけにもいかない。



 アキに割り当てられた部屋は706号室だった。

 マサムネが707、葵が712だ。

 喫煙者の教授は別のフロアのようだ。


 昭和レトロを感じさせるオンボロホテル……というわけではなく、全国にチェーン展開しているホテルの部屋は、シングルベッドとテーブル、テレビ、ユニットバスといった構成で、Wi-Fiも繋がっている。

 回線速度にはあまり期待できなさそうだが、特に問題ない。


 テレビをつけると、今後の雪に関する警報が出ている。

 明日は注意が必要だろう。

 アキは温泉に行くための準備として、ホテルスタッフから渡された手提げに下着とタオルを突っ込んだ。





 ロビーに降りると、教授たちだけでなく他の宿泊者も6名ほど集まっていた。

 そのうちの一人の男性と教授が何か話している。


「秋人、遅いぞ」

「すまん。ウェザーニュース見てた。明日の状況見ときたくて」

「秋人くんはしっかりしてるよね〜。ムネももうちょっとちゃんとしてよ〜」

「さっき聞いたら送迎は1時間に一本らしいぜ。つうことは、晩飯何時だよ〜。葵は温泉のことばっかじゃん」

「ちょー楽しみなんだよね!ここの温泉、秘湯ってヤツらしいの」


 ホテルの前に1台のミニバスが停車した。

 ハイエースのグランドキャビンのようだ。


 運転手に声をかけられて、その場に集まった全員が乗車しても席に余裕がある。


 発車したミニバスは市街地を抜け山に入っていく。

 ホテルから10分ほど走っただけで、街灯もほとんどない暗い夜道になった。


 絶え間なく降る雪と相まって見通しも良くない。

 地元の人にとっては慣れた道なのだろうが、土地勘がない人間はあまり走行したくない場所だ。


 1車線しかない道を入ったところに、古民家然とした大きな二階建ての建物が現れた。

 山を背にして、周りは田んぼに囲まれている。


 駐車場にはミニバスが1台と乗用車が十台以上駐車してあった。

 場所はあまり良くないのに、かなり人気があるようだ。


『黄走りの湯』という看板が入口の上に架けられている。



 運転手に礼を言い、建物に入った。


 料金表が掲げられていて、その横に券売機が設置せれている。

 入浴料は一人500円で、プラス400円で館内の個室休憩所を半日利用できるようだ。


 ここでも教授が4人分の券を購入してくれた。

 受付に渡し奥に入った。

 ロビーから先は男女で完全に分かれている。


「7時50分の便でホテルに帰るから、向井くんはそれまでには戻ってきなさい」


「はーい!」

 スキップでもしそうな勢いで暖簾の奥に消えていく葵をマサムネは心配そうに見送った。


「先生、あいつが戻って来なかったら先に帰りましょう」

「そう言うな。可愛らしいじゃあないか」

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