表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/55

タエさん

「ムネ、こっちのカメラ、そろそろカード替えないとまずいかも…」

「ん。わかった。……すんません。一度メモリーカード交換しても良いですか?」


 話が途切れタエさんがお茶を飲んだタイミングで、葵と何か相談していたマサムネが教授に小声で尋ねた。


「ああ、そうだね。ちょっと休憩しようか。タエさん、ありがとうございます」


「なあんも。話し下手でわかりづらいだろうに、ようも聞いてくれるもんだ」


「タエさんのお話はとても興味深いですよ」


「本当に先生は聞き上手だあ」


 タエさんの話は時折違う話や地名が混ざってきたり、そちらにずれて飛んでしまうことなども少なくなかった。

 それでも教授が軌道修正していくと、一つの噺としてちゃんと理解することができた。


 本人は記憶力が衰えたと度々こぼしているが、九十を超えると言うのにしっかりとしている。


 マサムネは、葵のカメラのメモリーカードを入れ替えると、自分のカメラのカードもチェックした。

 こちらも交換しておくようだ。




「その…さっきの毛むくじゃらって、今でも目撃例とかってあるんですか?」


 葵の質問にはおばさまが答えてくれた。


「大婆ちゃんの毛むくじゃらは、一時期有名になったみたい。クマが出たって。大勢で山狩りっていうのかしら、猟師さんが銃持って探したみたいよ。その時は見つからなかったらしいけど、そうよね?」


「ああ、あたしらが見たのはクマじゃないがね。だんども、丸山のところの健三と武雄のヤツが見たって騒いだっけ。ありゃ40年くらい前か」


「あん人たちは酔っ払ってたって話でねえか。酒飲んで運転したまま、車で警察さ駆け込んでえらい目におうたって」


「どっちか食われれば証拠になったのになあ。惜しいことをした」


「なんてこと言うのよ。全く!……すいませんねえ。大婆ちゃんは偶に口が悪くなるもんでねえ」



 ノートに何か書き込みをしていた教授が顔を上げた。


「今年は街にもクマが降りてきたって話に事欠かないですからねえ。気をつけないといけませんね。まあキリも良いところですし、今日はこの辺でお暇しましょうか。……明日は9時ごろお伺いしても大丈夫ですかね?」


 気づくと18時を過ぎて、窓の外はすでに真っ暗になっていた。


「あら、もうこんな時間でしたか。ええ。9時でしたら大丈夫ですよ。大婆ちゃんも良いわよね?」


「ああ。先生、明日は違うのを話せるようにしとくけな」


「すいません。色々お話していただいてありがとうございます。また明日、よろしくお願いします」


 タエさんが少し疲れたと言うので、おばさまが自室へと連れて行った。

 タエさんが話している間ずっと傍にいた猫も、ソファを飛び降り後をついていった。



 学生3人で機材を片付けたが、すぐに終わった。

 荷物をまとめ、おばさまに挨拶してから帰ろうと待っているとき、マサムネがポツリとこぼした。


「先生、もう少しお話を聞けたんじゃないですか?」

「うん?いや、いいのさ。タエさんの集中力が切れてしまったからね。それにそろそろ引き上げないと、君たちに約束した温泉に行けなくなってしまう」


「え?温泉って時間決まってるんですか?」

「共同浴場で9時までなんだよ」


「早くホテルに行きましょう!」

 葵の目の色が変わった。


 その後戻ってきたおばさまにお礼を言って、木梨家を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ