体験談
まあ、これがあの沼の由来と言われているよ。
本当かどうかは知らないがねえ。
ただねえ。
あたしは昔、あの山で、2度ほどよくわからないモノを見たことがあるんだよ。
道は今ほど良くなかったが、車が走れる道路が通っていてね。自転車でも走れたもんだ。
当時自転車が流行ってねえ。
夏の日に女友達3人で隣町まで出掛けて帰る時のことだった。
夕方の、5時は過ぎていたかねえ。
日が長くてねえ。
それでも山の中の道だから、陰ってくると暗くなるのは早いもんさ。
急いで帰っている最中、曲がり角の向こう、まっすぐ先の木の奥に変なモノがいたんだ。
黒っぽい、毛むくじゃらの、なにか大きなモノだ。
最初見た時は、木に何かぶら下がっているんだと思った。
ずいぶん大きかったよ。
気持ちが悪かったから、止まらずに走ったんだ。
クマが出たのかと思ったんだがね、どうにも違う。
少し走って後ろを振り向いてみたんだが、その時は見えなくなっていた。
横を走っていたミヨちゃんに話してみようと思ってそっちをみたら、ミヨちゃんの向こう側、山の木の奥をあたしらとおんなじような速さで、何かが動いてる。
こっちは止まらず走ってるんだ。
自転車でね。
それでも、距離が変わらない。
変わらないんだ。
こっちは道路を走ってる。
向こうは山の中を動いてる。
ついてきてるんだよ。
あたしは前を向いて必死になって自転車を漕いださ。
他の二人も何も言わずに必死に自転車を漕いでいた。
みんな見たんだろうね。
誰も声を上げたりしなかった。
あたしもあんまりそっちを見ないようにして走った。
それでも気になって横を見ると毛むくじゃらは遠くならずに、段々と近づいてきてたんだ。
じわじわとね。
どれだけ走ったかわからないが、気づいた時には大きな毛むくじゃらが道のそばまで来ていた。
黒っぽいと思ったけど、赤黒い感じだったよ。
そいつが山から道に出ようとした時、前から一台の車が来て警笛を鳴らしてあたしらと毛むくじゃらの間を通った。
今だっ!って思ってねえ。
3人で必死で山を降りたよ。
気づいた時には、毛むくじゃらはいなかった。
車に驚いたのかもしれないねえ。
村の役場のところまで走っていって、3人で抱き合ってわんわん泣いたもんさ。
……ああ、おそろしかったさぁ。
それからあの山には登ってないが、何年くらい後だっけかな。
しばぁらくしてあの山を見たら、山の上を白くてながぁい手拭いみたいなもんが、ずぅっとふわふわ浮いとったよ。
鯉のぼりみたいにおんなじところになあ。
あれは不思議だったねえ。
それにしても、追いつかれていたら、どうなっていたやら、ゾッとしないねえ。




