怪異譚 2
良い暮らしをしているとなると、いらぬ妬み・嫉みを買うものじゃ。
特に今まで蔑んでいた者が、若くて綺麗な女房をもらい幸せになったとなるとな。
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猟師が山に狩りに出かけると、家には女と乳飲み子しかおらん。
それを里の者は知っておった。
ある日、猟師がいつもの様に狩りに出かけた。
女は猟師を見送ると畑仕事をしていたが、しばらくすると家へと引っ込んだ。
子供に乳でもやろうと思ったのだろう。
それを見ていたのが、ひとりの里の若い男だった。
ただし、里でも評判の悪い、いわゆる鼻つまみ者という奴だ。
良からぬことを考えたのか。
猟師の家にそっと忍びこんだ。
家と言っても土間と居間、寝床しかない。
土間にも居間にも女と子供の姿はない。
奥で乳でもやっているのだろう。
奥の寝床へと続く襖をちょいと空けて隙間を作ると、中を覗き込んだ。
そこにあったのは七尺はあろうかという大きな蛇が、赤ん坊の周りにトグロを巻いている姿だった。
女が着ていた筈の着物は、大蛇の下に散らばっている。
若い男は思わず大声をあげて、猟師の家を飛び出した。
這う這うの体で里まで飛んで帰り、声をあげた。
猟師の家に化け物がいる。
おおへびに女が食われた。
子供も食われるところだ。
里の衆は男のいうことをなかなか信じなかったが、あまり騒ぐので猟師の家を見に行くことにした。
木刀や鋤・鍬などを手にして猟師の家を訪れると、そこには女が子供を背負って畑仕事をしていた。
いつもと変わらぬ姿に、里の衆は若い男に謀られたと憤って帰っていった。
その夜、猟師が家に帰ると、女がいつもと変わらず飯を作って待っていた。
留守中に何かあったか尋ねると、何やら神妙な顔をして、飯の後に話があるという。
飯を済ませた猟師が女に話を聞くと、女は涙を流した。
自分は以前猟師に助けられた蛇だと話し、今日、猟師が留守中に里の者に蛇に戻ったところを見られたのだという。
蛇の姿を見られたからには、ここにはいられない。
猟師のいぬ間に赤子を連れて山に帰ろうとも思ったが、この子は人の世で育つが良いと考え直した。
自分は山に帰らねばならないが、猟師ひとりでは子供を育てるのに苦労するだろう。
自分の持つ宝の玉を置いていく。
子供はこの玉を飴玉のようにしゃぶらせていれば大きく育つ。
もしも、何かあれば、以前猟師が猪を仕留めた山で自分を呼べば良い。
そう話す女を猟師は涙を流して引き留めたが、女は出て行ってしまった。
子供の布団を見ると、子供の横に一寸ほどの玉が置いてあった。
猟師は女との別れを嘆いたものの、残された子供を懸命に育てた。
子供は玉をしゃぶっているだけで、いつも健康ですくすくと育った。
女が去ってから4年ほど経ったある年の事。
山も里も酷い飢饉に襲われた。
食べるものもろくになく、里の皆が痩せる中、猟師の子供は病気をすることもなかった。
不審に思った里の者は猟師の家に押しかけて、食料を漁ったがほとんど何も出なかった。
ある日猟師の子供が山の中でひとり玉をしゃぶっているところを、山菜取りに来た里の衆が見つけた。
里の衆は子供から玉を取り上げると、自らの口にした。
すると玉から滋味が溢れ、腹を満たした。
里の衆は大いに喜び、里の宝にすると言って玉を持って帰ってしまった。
猟師の子供は玉を取り戻そうとしたが、大人には敵わず泣いて家に帰った。
帰った猟師が子供から話を聞いて里に向かったが、大勢に囲まれて棒で追い立てられた。
困った猟師は子供を連れて女が言っていた山に入った。
いつかの場所にたどり着くと大きな声で女を呼んだ。
わしじゃ。わしじゃ。
お前にもらった玉が里の者に盗られてしまった。
このままでは子供が死ぬかもしれん。
すまぬがなんぞ知恵を貸してくれ。
少しすると山の奥から女の声がした。
お前さま。元気そうで安堵しました。
ややこもそんなに大きくなって……。
同じ玉をもう一つだけ差し上げます。
今度は見つからないようにしてください。
声のしたところに猟師がいくと、大きな葉の上に宝の玉が置いてあった。




