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小松原教授

「そういえばこの車はハイブリッドなのかな?」


 高速に乗る前に立ち寄ったセルフのガソリンスタンドで給油して車に戻ると、助手席に座った教授から尋ねられた。


「いえ。ガソリン車です」

「そうかね。運転が良いのかわからないが、君は丁寧に走るから静かに感じる」


「雪が降った後ですからね。少し慎重にしているだけですよ。高速乗ったら少し煩いかもしれません」


 後ろの席で「もっと飛ばして行こうぜ〜」などと言っているバカがいるが、無視しておこう。


「ハイブリッド車は燃費も良くて良いが、静かすぎて驚く時があるよ。この間も路地を歩いていたら後ろから来た車にクラクションを鳴らされるまで気がつかなかった」

「ガソリン車なら結構音がしますからね」

「まあ、後ろから来たのは家内の運転する車だったから、クラクションで済んで良かったかもしれんがね」


「先生、また奥様に怒られるようなことしたんスか?」

「いや、なに。ちょっと興味深い書籍がネットに出ていたから何冊か買い求めたのだがね。少しばかり値段が張ってしまってね。カード明細を見た家内が不機嫌になっただけだよ」

「いくらだったんスか?」

「30万くらいかな」


 葵が呆れた声を上げた。

「先生、この間奥様に無駄遣いしないって約束したばっかりじゃないですか」


「とんでもない!貴重な書籍だったんだよ。現存する数量が少なくて、むしろ安かったくらいだ。だが、そうだな。無駄遣いか。君たちのバイト代を削れば、少しは節約に……」


「いやいやいや。そんな貴重な本に巡り合うなんて、先生はラッキーっすね!どんな本なんですか?」

「加藤くんは興味があるか!実はね遠野の俗話と風習に関する本やマイナーな宗教に関する説話なんかでね!明日会う根岸教授にも羨ましがられていてね!そもそもは……」


 よろしくない話題になりそうだったところを、マサムネが話をずらして機嫌をとっている。


 そうこうしている内に、高速のゲートを通過した。

 道路上の雪は除雪されており、ほとんど影響を感じることはない。

 今の所、電光掲示板にも渋滞情報は出ていない。

 トラックは多いものの交通量は少ないようで、スムーズに走れそうだ。




 しばらく走っていくと段々と空が灰色になってきた。

 若干だが細かい雪が舞っている。


 いつも間にか服装のことに話題が移っていた。


「先生はその格好で寒くないんですか?途中でダウンとか買って行きます?」

「そうっスね。流石に背広にコートじゃ寒いっスよ」


 小松原教授が苦笑いして答えた。


「カジュアルな服装も良いんだがね、お話しを伺う方へのせめてもの礼儀なんだよ」


「礼儀、ですか?」


「うむ。私みたいな者は人様のプライベートにお邪魔して、その人からすれば、どうでも良いことだけではなくて、話しにくい事まで尋ねることがある。ましてや最近はカメラで話す内容を録画させてもらったり、ICレコーダーまで使わせてもらったりするんだ。ただでさえご迷惑をおかけするのだから、外見だけでも不快感を感じないように気をつけているのさ」


「でもそのネクタイは奥様のセンスですよね?」


 葵にチクリと釘を刺された。


「家内が色々やってくれるから助かっているし、これでもいつも感謝の言葉を言っているんだよ。よく食事にも連れて行くんだ」

「奥様の運転で、ですよね」


「勘弁してくれ。私は免許は持っているが、どうにも運転が苦手でね……。身分証明証だな、これは」

「先生が書いた本がいっぱいあるんだから、1冊持って歩きましょうよ。身分証明証と護身用の鈍器として使えますよ」


 そういえば、テキストとして買わされた本がやたら分厚くて重たいとマサムネがこぼしていた。


「加藤くんにはどういう意味かじっくり聞く必要がありそうだね」


 教授とマサムネのやりとりにアキも笑いをこぼした。


 時計を見ると13時半を過ぎたところだ。

 速度をあまり出していないので、予定よりも少し遅れている。

 トイレ休憩も必要だし、いい加減お腹も空いてきた。


「教授、お昼はどうしますか?次のサービスエリアに寄りますか?」


「うむ。そうしてくれるか?ただ、さっき携帯で見たところ目的地のあたりでは雪が強くなっているようだ。早めに切り上げて移動してくれると助かるよ」


「やっと飯だ!」「次のSAに何があるか調べよ〜」という後部座席の声を聞きながら、アキは車を走らせた。

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