雪の降った朝に
マンションの地下駐車場で車に乗り込む。
駐車場から公道までは、マンションの管理人によって除雪されていた。
歩道や街路樹、植え込みの上には積雪が見られるものの、車道のほとんどはアスファルトが見えている。
少し寒かったが、車が走り出して程なく暖かい空気が車内を満たした。
一息ついたハルカが話し出した。
「それにしても鳴海くんてお金持ちだったんだ。あのマンション、結構するんでしょ?」
「ああ、あの部屋?親戚ので、タダで使わせてもらってる」
「「タダ?!」」
「叔父夫婦のマンションでね。本人は海外赴任でアムステルダムにいるよ」
赤信号で停車して、周囲を見渡す。
道路横の公園で数人の子供が雪玉を投げ合っている。
それにしてもたった一晩で結構積もったものだ。
雪だるまくらい出来そうだ。
「再来年まで向こうの予定だから、ちょうど良いから借りたんだ。大学に近いし」
信号が青になったので、アクセルペダルをゆっくり踏む。
「叔父たちが帰国すると帰ってくるし、結構交通の便が良い場所だからイトコもホテル代わりにしてる」
普段の土曜日より交通量が少ない気がする。
ノーマルタイヤのまま日陰の細い道に入りこむと、凍結した路面でスリップするかもしれない。
こんな日は、大人しく引き篭もるのが正解だろう。
「私物を持ってくるから、誰かが使っても文句を言わない約束で置かせてるんだ」
「それでシャンプーが3本もあったんだね」
「好みが違うんだってさ。その癖、イトコが置いて行った化粧品を叔母が使い切って揉めたり、その逆もあったりして大変だったよ」
「付き合ってるコのじゃないんだ……」
マヤが小さな声でつぶやいた。
と、スマホの着信音が鳴り、地図表示だったカーナビ画面が「加藤 マサムネ」という名前に切り替わった。
「あ、電話きたから、ちょっとそこのコンビニ寄るね」
アキは少し先にあったコンビニの駐車場に車を停車させると、ハンドルに付けられた通話ボタンを押した。
『あ、もしもし〜オハヨ〜っす』
「オハヨー、マサムネ。どうした?まだ時間まで大分あるだろ」
『いやぁ、小松原先生がさ〜天気悪いから早く出たいとか言い出してさ〜。早めに来てくれない?』
「マジかよ。何時に出たいって?」
『10時半には出たいって』
「いや、ちょっと厳しいって。こっちで昼飯食ってから出る予定って言ってただろ。俺、先にウメセンにレポート渡す約束してるし、早くても11時だよ」
『あ〜なんか梅田教授のレポートあるとか言ってたなぁ。りょーかい。11時なら大丈夫だろ。どうせ先生のことだから、直前でバタバタして遅くなるんだし。オッケーです』
「悪いね。向井さんは時間大丈夫だって?」
『さっき電話したら、大学の近くのコメダで朝飯食ってた。あ、今日は14番の駐車場使ってくれってさ』
「了解。じゃあなるべく早めに行くわ」
通話を終了したアキは、結局下車すること無くそのままコンビニから車を出した。
「どこか行くの?」
ハルカが尋ねた。
「ああ。小松原教授に頼まれてね。東北の方まで車出すことになってるんだ」
「あれ?コマ教授のゼミだっけ?」
「いや、友達の加藤ってヤツのゼミ。車出せる人を教授が探しててさ。免許持ってるヤツのスケジュールが合わなくて、タクシー代わりやってくれって」
「大変そうね。あまり接点の無い教授とだなんて」
「ああ、この教授の講義は去年とってたんで、向こうも自分の事を少しは知ってるんですよ。飯代・ホテル代・ガソリン代とか全部教授持ちで、土日で4万だから良いバイトです」
「結構良い金額を出してくれるのね……」




