卒業して戻って来ました
若いころのカレスン卿視点です。一人称が僕。あの頃は若かったなぁ(笑)
ついつい、設定と薀蓄大好きの癖が出てしまいました。次話こそ、お嬢様を登場させねば!
幼いころから母に連れられて訪問してきた伯爵邸は、それはそれは豪華だ。貴族学園へ進学するために王都まで旅をすることで比較対象を知って、改めて実感することができた。
東の端のバルトコル伯爵領から王都までは、いくつもの伯爵領を通過する。正門から中に入ったことは無いけれど、館の正面はたくさん見てきた。
そのどれと比べても、バルトコル伯爵邸は格上だった。広い前庭、横にも縦にも大きな建物、手入れの行き届いた白く輝く外壁。伯爵家の中で最も格が高いって納得した。
僕は男爵家の次男。いずれ家を出て一代限りの下位貴族になる身分だから、高位貴族の領地を通過するときに領主の館で宿を求めて社交をする必要は無い。
家紋を付けた豪華な馬車で乗り付けて、それなりの手土産を持参して、緊張で味のしない料理を窮屈な盛装で食べたくなんてないから、助かるんだけどね。
それでも挨拶だけはしておかないと無礼になってしまう。中位貴族のつらいところだ。
街中で宿を取って、休憩もそこそこに挨拶文を認めて、領主館の正門へ持参する。儀礼上、領主への面会を求めるんだけど、そこで遠回しに断られて、挨拶文を託して帰る。ここまでがワンセット。
僕みたいに一人で歩いてやって来る相手は、門兵が直接対応して、形だけ館に問い合わせて挨拶文を受け取ってくれる。
兄さんだと、紋章無しの馬車で乗り付ける。腐っても男爵家の後継者だし、本家のバルトコル伯爵の面子が付いて回るから、軽く見られるわけにはいかないんだ。
門兵は自分で誰何せず、しばらく待つように要請しておいて館から執事を呼んで来る。執事は当主が不在だとかなんとか定例の断りを入れて、挨拶文を受け取ってくれる。
父上は男爵家当主だから、ちゃんと社交しなきゃいけない。先ず、数日前に手紙を届けて訪問許可を取る。前日に先触れを出して訪問予告。当日は家紋付きの馬車で乗り付けて……という流れだ。
子爵領や男爵領なら、そんな面倒は関係ないから楽で良いよ。
そもそも伯爵以上の高位貴族しか、門兵付きの屋敷なんて構えてないから。
学園を卒業した僕は、真っ直ぐ故郷に帰って来た。兄さんに嫡男が生まれるまでは家に残らなきゃいけないから、王都で就職する訳にはいかなくて、ちょっぴり残念だった。
そしたら、御本家からの呼び出しがあった。それも使者が書面を持参する正式なものが。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
門まで出迎えてくれた執事に、父上が御苦労と声を掛けた。そのまま、ランデス男爵家の紋章を付けた馬車で、バルトコル伯爵邸の正面玄関まで乗り付ける。
こんな正式な訪問は初めてで、嫌でも緊張してしまう。父上の後を着いて、今まで来たことのなかった表の廊下を歩いて、初めての部屋に入った。
待つことしばし、御当主様のお出ましだ。
当代のバルトコル伯爵閣下は、薄い金髪に黒目の、高貴な顔立ちをしていらっしゃる。これぞ高位貴族という出で立ちで、なんて言うか、貴族貴族してらした。変な言い方になっちゃうけど、意味は分かるよね。
「よく来てくれた。その方が卿の息子か」
時候の挨拶も無しに、御当主様が父上へ聞いてきた。父上もそれが当たり前って感じで受け答えしてる。
「はい、次男です。無事、貴族学園を卒業して戻りました。カレスン・ランデス、十八になります。お眼鏡にかないますかどうか、どうぞ御見極めを」
色々とお言葉をいただき、学園生活についてのご質問もあったけれど、正直、何てお答えしたか覚えてない。最後に決定事項として言い渡された言葉で、他の全てが頭から飛んでしまった。
「よろしい。カレスン卿。其方を我が娘の婿とする。次期バルトコル伯爵として励むように」
目指せ、甘酸っぱい初恋物語。あんまり書いたことのないジャンルなので、薀蓄ばかりになりそうですけど、なんとかラブストーリーに持っていきたいです。
お星さまとブックマーク、ありがとうございます。少しずつでも書き続けます。