呪いの子–上–
どれだけ忌み嫌われようと
この世界が全て敵になろうと
守りたかったものがあった
呪いの子
一人の母親のお腹から産まれたのは二人の命。
同じ容姿をした二人。
初めてのことで国では大きな騒ぎになったと言う。
呪いの子
神の子
正反対の言葉が国を荒らし、母を苦しめた。
母が自ら命を絶った姿は今も脳裏から離れない。
マレの手は震えていて、落ち着かせるように繋いだ手に力を込めた。
母が死んでからは呪いの子と呼ばれ、昼間は街を歩けなくなった。
マレはいつも震えていて、泣いていた。
抱きしめても、小さな体じゃマレを覆えきれなくて自分の非力さが悔しかった。
もっと俺が強ければ
もっと俺が大きければ
もっと
もっと
あの日のことは良く覚えている。
お腹を空かせたマレが店から果物を盗み、大人から殴られていた。
卑しい子め
母親を殺した
呪いの子め
ごめんなさいと泣いて謝るマレ。
痩せほそった体。ボロボロの布。汚れて埃に塗れた頭。
そんなマレに容赦なく下ろされる棒。
「やめろ!マレに手を出すな!!!」
無我夢中で飛び出して、マレに覆いかぶさった。
自分の腕の中でマレはごめんなさい、ごめんなさいと呟いていて、守れなくてごめんとマレに返した。
自身に振り下ろされるであろう棒の痛みを想像し、体を硬くしていたが棒は自分には当たらなかった。
恐る恐る顔を上げると、大人が振り下ろした棒を止めている逞しい腕があった。
「寄ってたかってこんな小さな子いじめて何が楽しいんだ?」
そのまま棒を取り真っ二つに折った。
「こいつは店のものを盗んだんだ!」
「こいつは呪いの子だから。」
次々に大人は暴力を声で生む。
マレに聞こえないようマレの耳に両手を当てた。
「ウルセェなぁ。」
声と共に自分とマレの体が浮き上がった。
今まで見ていた真っ暗な世界に光が差し込んできた。
それは魔法のようだった。
「じゃ、これはアタシが預かるから。今後、この子達に手出ししたら容赦しないから。」
大声で笑いながら俺らを連れて行った人。
泣いているマレの頬にキスをし、もう泣かなくていい。と優しく呟いてくれた。
垢や、埃で真っ黒になったマレの頬に何の躊躇いもなくキスをした人。
そこから生活は激変した。
屋根のあるところで、夜は温かい布団に包まれて寝れるようになった。
「アタシの名前はラクリー・ジェネバ。ラクって呼びな。」
豪快に笑った人は、汚れていた俺らを優しくお風呂に入れ、丁寧に汚れを取ってくれた。
伸びたままの髪の毛を整えてくれた時、久しぶりにマレの顔をちゃんと見れたと思った。
初めこそ警戒していたマレも今ではラクと一緒に眠るようになった。
いつも泣いていたマレが笑うようになった。
俺とそっくりな顔で楽しそうに笑う。
それが何よりも嬉しかった。
「ラクはなぜ俺らを引き取ったの?」
この家に来てすぐの頃、そう尋ねたことがあった。
「何となく。」
少しだけ考えて、豪快に笑いマレと俺を抱きしめた。
「こんなに温かいあんた達が呪いの子だなんて、街の奴らはバカだね。」
抱きしめられている腕が痛くて、押しつけられた胸で息が辛くて、ラクの優しい言葉が温かくて涙を流した。
「珍しいねぇ、レオが泣くなんて。」
「レオ、レオ。泣かないで。」
二人に抱きしめられたのに涙は止まらなくて、マレも泣き出してしまって、そんな俺らを見てラクは笑いながらたくさんのキスを落としてくれた。
ずっとこのまま幸せいられると信じていた。