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イイ肉の日と聞いて思い付いた、異世界肉のお話

異世界モノに良くあるシーン。見たことの無い肉。じゃあ、味は? そんな夢想を限り無く現実的に描写してみました。



 こんばんは、若しくはおはようございます。稲村某でございます。知らない方は初めまして、知ってる方はまた、コイツです。そんな感じ。


 さて、今日は11月29日、つまり【1129(イイニク)の日】ですね? たぶんTwitter辺りじゃ、おにゃのこの美肉的なイラストが大量流出してる筈ですね。しかと眼に焼き付けとこう。



 ……と、落語のマクラみたいな話はこの辺にして、タイトル出落ちですが先に進むとしましょう。ま、端的に言えば【絵に描いた餅を吟味しながら食べた感想を思い浮かべて書くエッセイ】だと思ってください。架空のおとぎ話の中に登場したり、頻繁に出てくる()()()()についての考察(みたいな嘘)のお話ですよ?


 では、いってみよーっ!!




 (ここからは架空の読み物としてお楽しみください)





        【ドラゴン】



 「大小の身体の違いはあれど、基本的に見た目は鱗に包まれた爬虫類に似ている。知能は高い場合が多く、ヒトの言語を駆使し意志疎通出来る個体が多い。人里離れた洞窟や山の頂上近くに営巣するが、姿を変え人界に降りて暮らす者も時折見られる。肉食の可能性も有る。」


 はい、ドラゴンです。多くの作品に登場。主人公と対峙し敵役になったり、(くつわ)を並べ共に戦ったり、ヒトの姿に化けてメイドになったりと人気のあるキャラでも有ります。だがしかし、リアルに食ってみる話は案外少ない(あるにはある)。それらを交えながら真面目に考えましょうかね。






 まず、変温動物ではないので冬眠はしません。と、言う事は内臓に多量のビタミンを蓄える構造では無いでしょうから、食用に適している可能性は高いです。但し、大型動物は胆嚢(たんのう)だけは苦くて食えないので、傷付けないよう慎重に外しましょう。その際は小型のナイフ等で腸管に付いている胆嚢を紐等で縛ってから切り取ると、熊の胆ならぬ竜の胆が採取出来る筈です。


 さて、内臓の処理と言えば忘れちゃいけないのが【未消化の内容物】ですね。何だか判らん? ウンコですよ、ウンコ。これも大事な所です。いや、別に食う訳じゃないですが。


 多くの種類の爬虫類の糞は、かなりドライに仕上がるようですが、腸管の中では水分を多量に含んでいるでしょう。その為、腸詰め等に利用する時は、胃の下辺りから指でしごいて中身を出す必要が有ります。臭い? そんなの当然ですよ。でもね、肉を食うって行為には付き物なんですから我慢しましょう。


 タライや何かに内容物を排出させた後は、靴下みたいに裏返して良く洗いましょう。腸管内に未消化の貴金属や宝石等が入っている可能性も有りますので、まあ気を付けてください。ピアス等で傷を負った場合は破傷風になるかもしれません。


 綺麗に洗ったら、ぶつ切りにして焼いて食べてみても悪く有りません。脂肪が付いた小腸はプリプリとした食感で噛み締める度にジワッと脂が滲み、これがドラゴンかと驚く事でしょう。大腸はもう少しヒダも深く、どちらかと言えばサクサクとした歯触りで旨味も多いでしょう。好みが別れる部位だと思います。


 胃袋はかなり大きいです。一先ず人間一人は軽く収まる容量は有るので、解体するのは大変かもしれません。ここで注意すべき点は胃酸の存在。無闇に傷付けると強酸性の液体を浴びる可能性が有ります。予め穴を開けて胃酸を放出するのが良いでしょう。無事に胃酸を出した後は、中に水を流し入れて洗浄しましょう。かなりの量が必要になるので川等に運び、ザブザブと洗えば楽かもしれません。この部位の解体には強靭な胃表面の膜と収縮させる筋膜に覆われている為、切れ味の良い大振りな刃物が必須です。ナタやオノでも良いでしょう。調理に適した大きさまで切り分けた後は、ぶつ切りにして煮込みや薄切りにして焼き物にしても美味しく頂けると思います。煮込む場合は何度か茹でこぼすと柔らかくなります。臭いが気になる場合はショウガとネギの頭を一緒に入れると臭み消しになります。



 さて、内臓と言えば忘れちゃいけないのが、心臓です。巨大なドラゴンの身体を支える重要な部位ですが、胃と比べたら然程大きくはありません。ヒトの胸部位の大きさでしょう。ここは血抜き(血管内に残った血液を出す事)さえ怠らなければ美味ですが、血生臭さが嫌いな方は召し上がれないかもしれません。そうした方は筋肉の項目まで読み飛ばして下さい。


 心臓は表面に若干の脂肪が付いていますが、こちらは取り除いても構いません。煮込む際、余計な脂が臭みに繋がる時も見受けられますが、更に美味を探求する御仁は【刺し身】に挑戦しても宜しいかと思います。薄造りにした心臓は、軽やかな噛み心地で酒のお供に欠かせないでしょう。ハツ刺しと言えばショウガ醤油なんかで頂くと乙な味です。細かく千切りにしてゴマ油と塩と摺りニンニクでセンマイ刺し風も悪くないです。



 内臓は肝臓等も有りますが、ここまで読んだ皆さんは「生で食えるの?」と心配しているでしょうが、生食出来るか否かは細菌の存在が最も注意すべき危険だと、様々な事例が指し示しています。では、ドラゴンはどうでしょうか。ヒトより強く、大抵の生物的ヒエラリキーの頂点に位置している存在ですから、致死性の細菌を体内に保持していても直ぐに死ぬ可能性は低いでしょう。しかし、心臓や肝臓といった生命維持に大切な部位が汚染されていては、流石のドラゴンでも死は免れません。だから、そうした部位は生食出来るかと思います。しかし、良く注意して欲しいのは、それ以外の腸や胃袋、外皮に近い筋肉等の汚染され易い部位を調理した刃物やまな板を、そのまま洗浄せずに心臓や肝臓を調理してはいけない、と言う事です。食中毒を避ける為、加熱が必要な腸や胃袋は最後に切り分け、生食する部位は清潔な調理器具で切り分ける事を徹底する。これを忘れてはいけません。ドラゴンが最後の晩餐にならないように。



 そうそう、一番多い筋肉はどうでしょうか? 頑丈なウロコと皮を剥がすのは大変な手間と労力が必要ですから、手伝う人を呼ばなければ作業が進まない筈です。そんな助っ人諸氏に分け与えるのに最適なのが筋肉です。大きな頭部から長い首、翼付近や肩、そして太い手足(前後脚かもしれない)と尾。全て食用に適した部位です。では味はどうでしょうか?


 先ず、手足や首、尻尾の筋肉はややピンクかかった白身に近い肉です。大きな肉と立派な(すじ)は一見すると固く締まって食べ難いように見えますが、皮下部分に近い所を丁寧に削いでトリミングすると、うっすらと脂肪が刃先に付着します。筋肉に脂肪を取り込んだドラゴンの特徴です。では、早速刺し身で食べてみましょう。


 しっかりとした歯応えと、じわりと染み出す脂の滋味。噛む度に大型動物ならではの旨味が舌に乗り、流石はドラゴンと唸る事請け合いです。ワサビ醤油が更に旨味を引き立てます。白ワインや日本酒と相性抜群だと思います。勿論、煮ても焼いても美味しいです。


 さてさて、次は胴体や肩の付け根等の肉ですが、先程の部位と違って赤身に近い色をしています。しかし……ここまであらゆる部位が美味しかったドラゴンですが、何故か此処の付近だけは独特な獣臭といいますか、何とも言えないアクの強さを放ち、美食家達はこぞって「ドラゴン肉は尻尾と手足に限る」と安値で叩き売ってしまう部位なのです。実に残念な事ですが、一度試せば判るでしょう。大体の初心者が知らずに食べて「二度と食わない!」と()()()()()()する訳です。


 ……しかし、そんな肩と胴周りの肉ですが、実は美味しく食べる方法が有るんです。これをお読みの皆様にだけ、内緒で教えちゃいますね?


 先ず、【ドラゴン跨ぎ】肉に岩塩を摺り込みます。出来れば薄く切って食べ易い大きさにし、その裏表にしっかりと塩を馴染ませてあげましょう。


 次に、浮き出てきた水分をキッチンペーパー等で包んで取り除き、そのまま一昼夜、冷暗所で寝かせます。その後は流水で塩抜きしてください。抜き加減はやや強めに塩味が残る程度が宜しいかと思います。


 そして、塩抜きが済んだら麦藁を束にした【ワラ束】に包んで庭に穴を掘って埋めてください。それを二十日程、そのままにして待ちましょう。ええ、熟成肉ではありませんが、それが臭い消しの秘訣なのです。経験に裏打ちされた秘伝と申したいですが……これは多少の理由が推測出来ます。干し藁には納豆を造る菌、枯草菌が付着しているのですが、これが臭いの元を減少させる働きをしているようです。但し、表面に付着した菌周辺の臭いが薄くなる程度だと思うのですが、かなり臭いが薄く感じる訳で、謎は深まります。


 それはさておき、臭い消しの済んだ【ドラゴン跨ぎ】肉ですが、それでもまだ臭いが気になる御仁には【タンドリードラゴン】をお勧めします。件の肉をヨーグルトと香辛料(ターメリックは必ず入れて欲しい)をまぶし、窯焼きにすると実に美味であります。固かった肉も柔らかく召し上がれますし、臭いも気になりません。窯が無い場合はフライパンで蓋を被せ、弱火で蒸し焼きにしても宜しいかと思います。



 ……いやはや、ドラゴンとは実に美味な肉を内包した、素晴らしい食材だと思いませんか? 得る為には様々な苦労が付き纏いますが、それだけの犠牲を払って然るべきでしょう。下手をすれば命を失いかねない生き物でありますから。


 と、ここまでお読みの諸兄で気になっている方が、いらっしゃるかもしれませんね。珍味中の珍味、生殖器と脳髄の二つの味は……どうかと。



 この二つに関しては、様々な憶測が流布しています。やれ滋養強壮だの、魔力が桁外れに上がるだのキリが有りません。但し、結論から言うと全くのデマです。実際に食べた自分だから言えます。そうした効果はありません。残念ながら、ね。


 味ですか? 脳髄はフワッとした舌触り、ホロホロとした口溶けで肉類とは思えない部位なんですが、ややクセが強く多めの薬味が必需品です。旨いと言えば旨いんですが、それ自体の味は淡白としか言い様がありませんね。



 ……生殖器ですか。うーん、あれは雌だと鶏のキンカンに似た固さと後味ですが、更にクドくて美味とは言えません。雄の方が多少は食材としての味は保証出来ますが……何せ、部位が部位だけに「流石はドラゴンだ!」と吹聴したくは有りません。自分が男だから、なのでしょうかね。あ、因みに()()()()は固くてコキコキとした歯触りでしたが、アンモニア臭が強くて不味かったです。止めた方が良いでしょう。強壮効果はプラシーボのおまじない程度です。特記する事もありません。




 ここまでお読みの皆様。拙い文章にお付き合い下さいまして誠に有り難う御座います。当方、古今東西の珍しい食材を試して参りましたが、このような機会でご紹介出来た事、喜ばしく思います。


 もし、他の食材について知りたい御仁がいらっしゃいましたら、お知らせ下さいませ。ご連絡先をお教え致しますので、稲村皮革道具店までご一報下さい。



 それではまた、いずれお会い致しましょう!!




11月29日限定、って訳じゃないですが、たまには王道な設定を書いてみました。いかがでしたかね?

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごいリアルで為になりました! タンドリードラゴンがすごく美味しそうです。
[良い点] ファンタジー×グルメの教科書載せたい話ですね! 妙にリアルで、とても面白く読ませていただきました。 [一言] 異世界のモンスターを食す小説を書く日が来たら、これを参考にドラゴンをキャラに…
[良い点] 素晴らしいヽ(=´▽`=)ノ 色々な意味でお腹いっぱい(笑) ごちそうさまでした〜。 オーク肉も興味あります。
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