キャメロット家第17代当主
小鳥の囀る声と、イストリアを照らす朝日で朝は目覚める。
起きたら、さすが国随一の城だけあり豪華な部屋にネルが俺の部屋に来て、今日の日程を伝える。それを聞いた俺は気だるい表情で身支度を整え、部屋を出て、長い廊下を歩き、ダイニングルームへ向かう。ダイニングルームに向かえば、いつも母さんが微笑んで挨拶をしてくれる。
「スピル、おはよう」
そして母さんが作ったらしき、チョイスのおかしな朝食を取ろうと席に座る頃に、遅れてラストルがやってくる。
「お兄ちゃんおはよう〜」
寝ぼけた顔にボサボサ頭がいつものラストルだ。それを見た母さんがこう言うのだ。
「ラストル、あなたは女の子なのだから、身支度はしっかり整えなさい。」
ラストルが顔を洗い、寝癖を治してから3人で朝食を取る。
そうして俺の一日が始まる。
が、今朝目覚めれば質素な部屋で、俺に予定を伝えに来る者は誰もいない。予定は聞かされていないのに、気だるい気持ちは変わらないまま身支度を整え、部屋を出て、狭い階段をおりる。すると、灰色の髪の青年がこちらを振り向き、挨拶をする。
「おはよう、あんた昨日はよく寝れたか?」
そして如何にも朝に相応しいラインナップの朝食を取ろうとする。そこにラストルが現れるわけでもなく、
「あんた今日の昼から襲名披露だから最低限度の準備はしとけよ。」
と青年が教えてくれる。
その後、2人で朝食を取る。
そして今日の俺の一日が始まった。
綺麗な水が噴き、ガラス作りの噴水に流れ、通り行く人々の目を奪う。そして立ち止まった通行人は近くの商店へと足を運ぶ。ここイストリア国の中で最も栄えていると言えるアルタイル噴水広場は、いつもよりも人が多く集まっていた。
「おい、あんた、あれ聞いたか?」
「あぁ、グロウ様の次男のスピル様がキャメロット家の当主になるみたいだな。」
「そうなんだよ、キャメロット家の当主は公務によく顔を出す長男のリカルド様がなるかと思ってたんだがな。」
「リカルド様はとても優秀な方で何をしても右に出る者はそう居ないみたいなんだが、あんな事があったからな...」
「...」
人集りの中から俺らの話をしているのが聞こえてくる。だが、そんな声は気にしないで俺は襲名披露の準備を整える。アルタイル噴水広場にある豪華な舞台の裏でルーシェと襲名披露の段取りを確認する。
「あんたは今日からキャメロット家当主だ。国民一人一人の力は小さくてもそれが集まれば1つの武器になる。だからなるべくあんたは目立ち、かつオーディエンスを引き込ませるような演説を頼むぞ。裏で動く者に関しては任せろ。そしてそれ以外のことはあんたの判断に任せる。それじゃあ、健闘を祈る。」
ルーシェが舞台裏から人混みの中へと消えていく。そして全ての準備は終わり、舞台へと出ていく。
ガヤガヤとしていた広場の雰囲気は俺の登場とともに静まり返り、聞こえるのは俺が舞台の上を歩く音のみ。舞台の正面に立ち、俺はこう言った。
「俺は君たちが期待のしていた兄とは違う。」
俺の第一声が観客に対しての皮肉、そして兄に対する皮肉で全員がどよめく。
「兄はなんでも出来た。勉学では新たな魔法理論を確立でき、肉体能力でも大の大人と競っても余裕で勝てた。政治にも詳しく、かつ人の心もよくわかっていて君たちの心を掴んできたのだろう。故に、キャメロット家の当主は兄になるであろうと俺自身も思っていた。何をやっても俺は兄以下であり、よく周りに比べられがちで褒めては貰えなかった。俺はそんな兄が妬ましかった。憎かった。
それでも俺は兄を愛していた。家族というだけでその愛は他に勝るものは無いのだ。君たちもそうだろう、家族は価値をつけるとしたら他のものよりもずっと高いこと、それだけの愛があるということ。家族、その繋がりだけで君たちは家族のために自分を犠牲にして動くことが出来る。
俺もそうだ。今キャメロット家はこの状態だ。優れた父や兄と変わり俺が当主になった。俺は家族第一主義だ。家族のために俺は動き、家族のために自分を犠牲にできる。そして俺は君たちイストリア国の民、一人一人を家族だと思っている。故に力を貸してほしい!俺は力が欲しい、家族を壊したものの特定、そして報復、俺は家族の名誉のために戦う。この国を脅かさんとするものの排除のために俺はキャメロット家当主としての責務を全うする!」
俺が喋り終えると息が切れる音が響く。少し間を置いて、観客の1人が拍手をする。すると、全員が渦に飲まれて拍手をする。拍手の音が響き渡る中から、俺を支持する声が聞こえてくる。
俺は家族を愛している、キャメロット家の当主になった以上はイストリア国の民も家族だ。俺は家族と家族を守るために戦う。
そう俺はキャメロット家第17代当主なのだから。