裏で補佐する者
俺は見知らぬ部屋のベットで横になっている。部屋には簡素な机に棚が置いてあり、全体的に埃っぽく、部屋の真ん中に行くにつれて天井が高くなっている。どうやらここは屋根裏部屋だろう。
先程の記憶が断片的になっている。
襲撃されて、ラストルがさらわれて、家族がバラバラになったことまでは覚えているが、そこからの記憶が無い。恐らく、この後に俺が気絶したのだろう。それに右眼が見えない。だが、片目だけなら問題ない、早くラストルを助けに行かなければ。それに母さんたちのところにも行かないと。
起き上がろうと体に力を入れたが、全身が痛み、起き上がれない。それでも俺は無理やりにでも起きようとした。
「起きたか。無理するな、あんた死ぬぞ。」
声がした方を向くと、そこには灰色の髪の毛の20歳くらいの青年が包帯とご飯を持っていた。
「俺を助けてくれたのか、ありがとう。でも俺はここで立ち止まれないんだ。」
「あんた、キャメロット家だろ。」
「.....そうだ。」
俺がキャメロット家の人間だと見られるのは正直驚いた。性格上、あまり公の場に姿を出さないので殆どの人は俺の名前だけを知り、容姿を知らない。そして青年はご飯と包帯を机に乗せる。
「なんで分かったかって顔だな。そりゃ簡単さ。その余りにも整い過ぎている顔。そして豪華な衣装。まるでパーティーの主役みたいだ。そしてそんななりのあんたがお城付近にいたら誰もが気づくさ。」
「お前の話を聞かせてくれ。何があった。そしてお前はどうして俺を助けた。」
格好からして、パーティーに参加していた人間では無いのはすぐに分かる。そしてそんな一般人が爆発の方向に向かうとは思えない。おまけに俺がキャメロット家の人間だと知っていながらタメ口だ。だから俺を助けたあいつが何なのかを知る必要がある。そして、青年は俺の寝ているベットに腰をかける。
「まずは自己紹介からさせてもらう。俺の名前はルーシェ・ディグタック、アルタイルで日雇い労働のようなものをしている者だ。そしてあんたを助けた理由、それは俺の一家があんたらキャメロット家の協力者だからだ。ディグタック家は代々、表向きではただの貧乏一家の様に見せて、裏でキャメロット家の補佐をしてきた。身の回りの世話から、汚い仕事までだ。これで分かっただろう?俺は表向きの仕事をしている途中、爆発音を聞いた。キャメロット城からかなり離れていたが物凄く大きな音だった。即座に俺はキャメロット城へ向かった。で、道中にぶっ倒れてるあんたが居たって訳だ。その時にはもうキャメロット城はあとを残さず燃え崩れていたな。」
「なるほど、お前は俺の容姿をずっと前から知っていたって事だな。」
「まぁそういう事にもなる。そして、暫くあんたの身の回りをさせてもらう。まずは鏡を見てみろ。」
そう言って、ルーシェは鏡を差し出してきた。鏡に映っているのは右眼が抉れ、その周りは焼きただれた皮膚がある、血まみれの俺が映っていた。
「ざっと説明すると、あんたは爆発に巻き込まれ、破片が右眼に貫通して失明した。俺が破片を取り除こうとした時に〝燃焼〟が発動して、あんたの顔がそうなった。って所だ。すまねぇ、俺のせいだ。」
俺は気になって右眼の位置に触れてみると、そこには確かにあるはずの目が無かった。俺の目に穴が空いている...目眩がする...
「あんたが今凄く動揺するのもよく分かるが、今は情報の擦り合わせが必要だな。」
「お前、何か知っているのか...」
裏の人間ならば、このような裏で行われる大きな事には詳しいはずだ。だとすれば、俺が次に成すべきことが見つかるかも知れない。
「多少、はな。まず、これは恐らくだが〝ヒフス族〟の仕業と予測できる。まずそもそもあんたらキャメロット家との仲が悪い。過去にキャメロット家と衝突した経歴もある。だがあんたも思う思ったであろう、仲が悪いだけなら幾らでもアテはあるはずだ。と。確かにその通りだ。しかし、これは俺が独自に調べたことだが、ヒフス族はここ数ヶ月、時間魔法の研究をした痕跡もある。そして、ヒフス族は最近当主の娘が行方不明になっている。その原因がキャメロット家にあると思っているそうだ。」
そうか、ヒフス族か。どこの一族かは知らんが、俺の家族をバラバラにしたことは絶対に許さない。俺もお前ら一族をバラバラにさせてやるよ。すぐに向かって戦うべきだな。
「で、そのヒフス族にはどこに行けば会える。」
「そうだな...たしかラングレー国付近のリンゼスに屋敷があったな。ここからだと2日くらいか?っておい!無理すんなよ!その怪我で!」
「そんなのは関係ない、今からそこに行って潰す。」
「あんた、早まんなよ、まだ黒とは決まっていない。それに気になる点も多い。」
「何流暢なこと言ってんだよ。そうしてる間に俺のラストルはいまも...!!!」
「そうだな。ラストルはそうしてあんたの考え無しの行動で危険な目に合わされるんだな。よく考えろ、あんた1人で、更にはそんな怪我した状態で一族とどうやって戦う?まずは情報集めとあんたの治癒が優先だ。」
そうだ。まだヒフス族がどんな奴らなのかも分からない上に、そこに怪我した身で、さらには単身で行くのはかえってラストルを危険に晒してしまう。そんな事は許されない。
「俺は冷静では無いようだな。」
「おう、ゆっくり休め。話はそこからだ。」
そうして、ルーシェは俺の包帯を取り替え始める。ルーシェは料理に治療、なんでも出来るようだ。ディグタック家はそういった教育を受けてきたのだろう。
「これからまず何をすればいい...」
「そうだな、あんたはキャメロット家第17代当主になったんだ。まずは襲名披露からだな。状況が状況だから文句は山ほどあるだろうが、これにはメリットがある。敵はキャメロット家の全滅を狙っているからこそ、あの規模の爆発を起こした。あんたが生きてることを知れば必ず敵は動く。敵が動けばディグタック家の情報網に引っかかるだろう。さらには敵の状況が不明な以上、後手に回るのは芳しくない。襲名披露が終わったらリンゼスに向かう。これはあくまで情報収集だぞ、まだヒフス族が黒とは決まっていない。」
そうしてルーシェは慣れた手つきで黙々と包帯を取り替えていく。
取り替えが終わるとルーシェは包帯を持ち、部屋を退出する。
ルーシェ・ディグタックか...ディグタック家と言う裏でキャメロット家を支える一族が居たとは知らなかった。俺もかなりの人を観察してきたが、全くルーシェの感情が動かず、スキもなかった。ここまで見破れない奴がいるとは思いもしなかった。怪しい気もするが、助けてくれるなら今は文句は言ってる場合ではない。俺は俺の責務を全うして家族を元に戻す。そして仇を討つ。