地球技術国家、偶然の偶然で戦争に介入してしまう
ゴルゾン帝国 帝都 第1帝王宮殿
「帝王閣下、現在ショックシーカー帝国を中心としたマクロビア同盟軍は東方から現れたシュウスイ大帝国と国交を締結したそうです」
「そうか、そのシュウなんとか大帝国は我が帝国に影響はあるのか?」
第26代帝王であるメルケス・ゴルゾンは豪華な椅子に座りながら足を組み、頬杖を椅子の手についていた。
「今のところはありません。しかし、文明に関しては魔法文明ではなく、古代科学文明に近いようですが、古代科学文明には遠く及びません」
「そうであればよい、直ちにマクロビア同盟を蹴散らせ。ショックシーカー帝国を滅するのだ」
「ハッ!」
メルケスはニヤリと笑った。
藍那海
秋水大帝国の領海であるこの海域に切り裂くように航行している艦隊が居た。
ザザァァァァァァァ…
ゴルゾン帝国海軍第1艦隊だ。
本艦隊はゴルゾン帝国最新鋭の艦艇、システム、兵器を保有しており、ゴルゾン帝国海軍の花形といえる。
計30隻で構成され、最新技術でまだ不安定であるが、魔導蒸気機関を搭載した6隻の巡洋艦、魔導術式回転機関を搭載した24隻の駆逐艦で編成されている。
旗艦 巡洋艦 フォール・コスト 第3艦橋
「そろそろマクロビア湾に到着する筈なのだが」
フォール・コスト級巡洋艦に乗員する艦隊司令のフォート・アクルス少将はなかなかマクロビア湾に着かない為、貧乏ゆすりをしていた。
「今日は特に波が荒いです。しかし、もうすぐ到着するかと」
副司令がフォートに伝える。
「そうか…早く着いて欲し」
『ザ…ザザ…』
突然、フォートの卓上に装備されている魔導無線に雑音が入る。
「あ?何処からの通信だ?」
フォートはそういうと卓上から無線をひったくるように取った。
「こちらは第1艦隊、通信は受け取」
『こちらは秋水大帝国海軍海上警備隊である。貴艦隊は我が国の領海を許可なしに航行している。至急、臨検を行う』
「アキスイ…、確かマクロビア同盟軍の一員であった筈…」
「いや、国交を締結していた筈では?」
副司令は首を傾げながら言った。
「まぁ、所詮小舟の艦隊だ。沈めても反撃はされん。そして、後処理は我が艦隊が行うことはない」
「しかし…」
「ここまでの旅の癒しとして…」
「奴らを攻撃しろ」
秋水大帝国 海上保安局 第3警備隊 旗艦 ヴィスビュー 艦橋
海上保安局という秋水大帝国に設置されている軍に次ぐ準軍事組織である本局に存在する沿岸警備や波が穏やかな沖合での警備を担当する第3警備隊の旗艦である本艦は単胴型のステルス技術を用いた特殊な設計で知られ、船質としては炭素繊維強化プラスチックが採用され、構造方法はサンドイッチ構造、成形法には真空樹脂含浸製造法を適用、また船体を3分割したブロック成形も導入され、非常に先進的な手法として導入当初は国民からもその注目を得た。
しかし、サンドイッチ構法はフレームが無くなり、小さい艦型の限られたスペースを最大限に使うことが出来るが、艦内の通路は狭くなり、居住区も狭くなってしまう難点がある。
「我ら、海上保安局が誇る一撃離脱型の小型高速艦隊はいつ見ても巡視船や巡視潜水艇と比べても壮観ですな」
艦隊副司令のミット・アグラー大尉は司令である 国下 憲剛 少佐に話しかける。
「それもそうだが、慢心しているといつか痛い目に遭う。そう思うのは心の中だけか、休憩中に思うなり言うなりしてくれ」
松下はミットを横目で見ながら言った。
「…はーい」
ミットは口を尖らせた。
「不審船隊!砲のような物を動かしました!」
監視員からの通達とともに爆音が轟いた。
ドォォォォォォォンドォン
6隻のフォール・コスト級巡洋艦に搭載された14cm魔導術式砲から発射された淡い緑色に包まれた葉巻型の14cm魔導術式弾が6発発射される。
戦いはゴルゾン帝国側から火蓋が切られたのだ。
ヒュュュュォォォォォ…
ザバァァァァァァッ!
6発の魔導術式弾は第3警備艦体の回避運動により、全弾外れた。
「ふぅ、大きさは少し大きいとはいえ、まともに当たったら轟沈するな…」
すると、国下はふぅ…と息を吐いた。
「全艦、反撃開始!各艦自由攻撃を許可する!」
国下の命令により、ショックシーカー帝国を攻撃するゴルゾン帝国海軍第1艦隊に鉄槌が下されようとしていた。
第1艦隊 フォール・コスト 第3艦橋
「次は当てろ。撃沈するのだ」
フォートは単眼鏡で第3警備隊の姿を捉えながら言った。
ウィーーー…
「撃てぇ!」
ドォン…ドォォォォン!
シュウ…
「次弾装填まであと2分!」
第3警備隊 ヴィスビュー 艦橋
ヒュルルルルルルルル…
ザバァァァァァァッ!
「おい!攻撃を開始しろ!何をもたもたしているんだ」
国下が声を荒げる。
「丁度、装填完了しました!直ちに砲撃します」
「撃てぇ!」
ドォンドォンドォン
57mm単装砲が薬莢をばら撒きながら硝煙を砲身に纏わせる。
「ミサイル艇ハミナ、トルニオ、ハンコ、ポリが砲撃を開始しました」
ハミナ級ミサイル艇であるハミナ、トルニオ、ハンコ、ポリの全同型艦がボフォース社製の57mm単装砲を用いて、砲撃を行う。
「次弾装填を急げ!」
砲雷長が声を上げる。
「魚雷発射管より魚雷を発射せよ!」
国下の命令により、装備された400mm魚雷発射管4基から4発の魚雷が発射された。
ボスッボスッボスッボスッ
ザババァァ…
4本の白線が海中に線を引いていく。
第1艦隊 フォール・コスト 第3艦橋
「ダメージコントロール!消火班は急げ!」
「第3から8銃座が壊滅しました!」
「艦隊消耗率40%を超えます!」
思いもよらぬ攻撃を受けた第1艦隊 旗艦 フォール・コスト では味方の撃沈報告や艦の被害報告で阿鼻叫喚であった。
「ど、どうなってやがる…!」
フォートは次々と海中へ消えてゆく味方艦を見ながら言った。
「司令!本艦に向けて何かが向かってきます!」
監視員からの通達で白線を引く何かを視界に捉えた。
4本の白線は途中で別れ、付近を航行している巡洋艦ファルスとモーク、ケートに3本向かった。
「と、取り敢えず機銃で撃ちまくれ!」
フォートは叫んだ。
「き、機銃群はか、壊滅しております!」
伝令兵の思いもよらぬ言葉にフォートは驚愕した。
ドォォォォォォォォォォン!!!!
左舷が爆発し、艦が大きく傾いた。
ギギギギギギギギ……
艦が悲鳴を上げ、浸水していく。
「…く、くそ…最早、ここまで…か…」
フォートは眉間から滴り落ち、床にポタポタと水溜りのように広がる紅いモノに顔を歪ませた。
ドドドドドドォォォォォォォォォン!!
巡洋艦 フォール・コスト は弾薬庫に引火し、大爆発を起こしながら、海中へ沈んでいった。
第3警備隊 ヴィスビュー 艦橋
「撃ち方やめ。ヘリを発艦させ、救助活動に入れ」
ババババババババババ……
ヴィスビューから発艦した1機の汎用ヘリであるNHー90は装備されているゼネラル・エレクトリック T700ーT6E1 が稼働し、その4枚複合ブレードを回転させる。
外見は普通であるが、本機の特徴は他の汎用ヘリを凌いでいる。
実は、本機の胴体は複合材料製で、耐腐食性も高い。NBC兵器に対しても高い防御力を持ち、ステルス性も保有する。
耐衝撃力にも強く、可動部品やシステムは高い安定性を持っているのだ。
その後、応援に駆けつけた他警備隊から発艦したNHー90も残存した兵士を回収した。
本海戦ではゴルゾン帝国海軍第1艦隊は全艦轟沈し、救助されたのは2100人中たったの12人だった。
対して、秋水大帝国海上保安局第3警備隊の損害はゼロと一方的な秋水大帝国の勝ち戦であった。