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人魚の女神が異端のエルフを歓迎する。

「あら、エルフ?」


 池から上がって休んでいるときに目の前に現れた少年は、私の世界にいたエルフという種族と同じ特徴を持っていた。金色の髪に白い肌と先の尖った耳。典型的なエルフだ。


「師匠と同じようなことを言う人がいるとは……僕は風の民と言われる方が慣れています。僕の世界ではそう呼ばれているので」


 風の民? 聞いたことはないが、確かにエルフは風系統の魔法が得意だったような気もする。


「また来たのか」

「まぁそう言わずに。俺はルクス。この不愛想な彼はマタン。青い髪のお姉さんがアンディーン、桃色の髪の女の子がスキアだ。よろしく」

「あ、はい。僕はフェーゲと申します」


 ルクスが全員分の名前を先に名乗ってしまった。私たちは自分から名乗らないと判断されたのだろうか。


「お前、ここに来た経緯を把握してるか? 自分の現在地分かってるか?」

「ええと、異世界出身の師匠の故郷へ行ってみたくて転移魔法を使ったら、ここに。見たところ何もなさそうなんですが、人は住んでいるということですよね。なら、師匠の世界で合っているのでしょうか」

「間違ってると思う。少なくともお前の師匠はここにはいないんじゃねーかな」


 マタンの言う通りだ。ここには様々な世界からやってきた人が数人いるだけ。


「ここはファウスト。滅んだ世界だから生物は存在しない。もちろん文明もない。最近は自分の世界からはみ出した奴が迷い込んでは住み着いてるから、今は何人かいるけど」

「滅んだ世界……?」

「ねぇ、その人の師匠が滅ぶ前の時間軸に生きてたこの世界の住人って可能性はないの?」


 そう言ったのはスキアだった。確かに進む時間は世界によって違う。その可能性もあるかも。


「一応あり得るけど、どうだろーな。その師匠の世界について、何か聞いてねーか」

「はい、魔法がなくて、代わりに科学というものが発達した世界だと」

「……地球か?」


 マタンが言った世界は、私も聞いたことがあった。


 いくつかの平行世界に分かれている。そして、何故か異世界召喚や転生時に前世の記憶が残ってしまうエラーの被害者が圧倒的に多いという世界。


「あ、ええと、ニホン? という……」

「日本は国だな。地球、あるいはアースって世界にある島国だっけ」

「あ、はい! 確かに島国だと言っていました。ご存じなんですか?」

「昔、日本で生きた記憶があるっつー奴から話を聞いたことがあるだけだ」

「それ、転生者じゃないの?」

「転生者?」


 意味が分からなかったのか、ルクスが首を傾げている。


 本来は転生させるときに魂に蓄積された記憶や経験を取り除いてまっさらな状態にするのだが、稀に記憶を残したまま魂を別の世界へ送り出してしまうことがある。その、前世の記憶の持ち主を一般的には転生者と呼ぶ。正確には全ての魂が転生するのだが、転生している自覚のある者というニュアンスだろうか。おそらく"天"がそう呼ぶから定着したのだろう。


 神が意図的に行ったごく一部を除き、そうなるのは所謂エラーだ。さっき述べたように、地球からの魂では何故か発生しやすい。しかも他世界への影響も大きくなる。


 と、このような説明をしたマタンへ、質問したルクスではなくスキアがキラキラとした目を向けていた。


「転生。魂は一か所に集められるの? そのまっさらにするのって魔法で? あと……」

「待ってスキア。一回落ち着こうか?」

「だって私こういうこと知りたくて研究してたのに」


 確かに魂や神について知りたいと言っていたが。


 ……あれ、そういえば。


「ねぇ、転生のシステムとか神の事情とか、本来無関係の人間に聞かせたら駄目よね? 今まで話してたのは住んでた世界のことだったけど、これは、ちょっと」


 転生者の説明なら、単に前世の記憶を持っている者でよかったはずだ。本来の転生の形や前世持ちはエラーなどというシステム面から見た説明は、今思えば必要なかった気がする。


 人間に話していいことだったかというと、グレーゾーン?


「だからスキアの質問にはこれ以上答えちゃ駄目よ。いい? まぁ神霊や世界の管理に関わらないことなら答えていいけど」

「えー……」

「わかった。じゃあまた今度」

「駄目だってば」

「もし必要になったら。その時はいいだろ?」

「……いいけど」


 そんな知識が必要な時なんて来ないだろうに。


「あとスキアが自力で調べる分には止めないってことで」

「それもまぁ、そうね。止めたいところだけど」


 スキアは既に蘇生術が使える。禁忌なんて気にしないこの娘は、止めても無駄だろう。


「あの……」

「ああ、ごめんね。皆脱線しやすいというか、暴走しがちで」

「ちょっとルクス、私も含めないでくれる?」

「君だってかなり自由だろう? フラッといなくなったかと思えば池で泳いでいたりその辺を漂っていたりするじゃないか」


 否定はできないが、マタンやスキアよりはずっとまともな思考を持っていると思う。


「漂うって、どういうことですか?」

「こういうことね」


 と、魔法で空中に水の塊を生み出し、その上に座った。


「うわぁ、どうなってるんですか!? この水は、魔法で?」

「ええ。私が住んでいた世界のマーメイド特有の魔法よ。と言っても、似たことなら他の魔法でもできると思うわ。マタンとかなら簡単にできそうよね」

「そうなんですか! あの、マタンさんにはニホンの話も聞きたいのですが、魔法も教えてもらえませんか。お詳しいんですよね?」


 あ、この子マタンとスキアの同類な気がする。興味があることにはガンガン突っ込むタイプ。今のところ、二人よりは常識的だと思うが。


「いいけど、代わりにお前の世界について教えろよ? 種族でも神話とか伝承でも文化でも、もちろん魔法でも何でもいいから」

「わかりました」






 この世界は生まれたときから、炎の神フォルガによって守護されていた。暮らしていた人間は、フォルガの加護を受けた炎の民と、加護を受けていない氷の民に分かれており、氷の民は炎の民のもとで働いていた。


 ある日、氷を司る女神がこの世界に現れた。彼女の名はクリュスタロス。氷の民が話しかけると、彼女は泣いた。もともと異界で生まれたのだが、母であった水を司る女神に捨てられたという。氷の民は自分たちと共に暮らしてくれと頼んだ。彼女はそれを承諾したが、フォルガは異界のものが住み着くことをよしとしなかった。


 結果、フォルガとクリュスタロスは戦うことになる。実力はほぼ互角でなかなか決着がつかなかった。そのとき、放浪していた風の神アネモスが通りかかった。争いを好まないアネモスはこの戦いを仲裁した。そして炎の神は炎の民と共に世界の右側に、氷の神は氷の民と共に世界の左側に住み、神同士は交流しないと決めた。


 フォルガは変わらず炎の民に加護を与え世界を守護している。クリュスタロスは自身を受け入れてくれた氷の民に加護を与え、彼らの居場所を守っている。アネモスはこの世界の行く末を案じて今も世界のどこかに残っている。アネモスが世界を見守るために創り出した眷属は種族として世界に定着し、風の民と呼ばれた。風の民はアネモスの加護を持ち、炎にも氷にも属することなく世界に点在している。





「というわけで、僕の故郷には三つの種族がいます。その内皆さんの言うエルフというのは僕の世界では風の民です。まぁエルフという言い方もありましたけどね。主に僕の師匠がそう呼んでいました」


 しばらくはこの世界に滞在すると決めたフェーゲは、自分の世界の神話を話してくれた。マタンだけでなくルクスも楽しそうに聞いている。


 一方、スキアが関心を持つのはやはり魔法だった。


「魔法、あるんでしょ? その加護は魔法に関係あるの?」

「はい。加護を与えた神が司るものを、微量ながら生み出し操ることができます。それが僕の世界の魔法です。」

「風の民ってことは風の魔法が使えるの? でも転移魔法を使えるんだよね? それはどの属性になるの」

「ええと……」


 フェーゲは少し視線を彷徨わせてから、言いにくそうに続けた。


「何というか、僕はその、炎の加護も頂いていまして」

「ふぅん。それで?」

「……え、えっと、二種類の魔法をぶつけたときに発生するエネルギーを用いることで世界の壁を超えることができると、師匠から聞いて」


 随分強引な方法だった。それ大丈夫なのだろうか。明らかに正規の使い方ではないと思うのだが。


「要は、魔法を暴発させた勢いで人を飛ばしてるのか。そりゃあ、狙った世界に行くのは難しいだろ」

「え、そうなんですか? じゃあ、僕の師匠は帰れたんでしょうか……」

「行きたい世界がある方角や距離を把握して、発生させるエネルギーの量と打ち出す方向をちゃんと計算。その上で計算通りに暴発が起きれば一応、可能だ。普通の人間には無理だろうが」

「計算通りに暴発が起きたらって、計算通りにならなかったものを暴発っていうんじゃないの?」


 私の疑問一つに、そんな呆れた目をしないでほしい。イラっとしたのだが。


「本来計算できないものを計算して起こさなきゃいけねーから、普通の人間には無理だっつってんだよ」

「……マタンは、できる?」

「意図的に暴発させることが? それとも、この方法の世界間移動がってことか?」

「両方」


 気になっているのは質問したスキアだけではないようだ。


「できる。が、進んでやろうとは思わねーな、そんな面倒なこと。わざわざ暴発させなくても大きなエネルギーを生み出す方法はあるし、世界を渡るなら普通の魔術で転移した方がいい」

「その転移、僕でもできますか」

「大丈夫。人間の私が自力で習得できる難易度」


 死者の蘇生ができるスキアは普通の人間といえるのか、というのはさておき。


 スキアの言葉にやる気を出したフェーゲは、転移魔法の習得を目指してここに滞在することになった。一応、転移できるようになったら再び師匠の故郷を目指すらしい。


「また、賑やかになりそうね」

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