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出来損ないの預言者が少女たちと出会う。

「うーん、やっぱり死んでいるね。流石にこれを蘇らせるのは、俺じゃ無理かな」


 俺、ルクスは今、灰色の大樹を調べていた。このアンディーンなんかは聖域と言っていた綺麗な空間の、中央に立っている木である。


 俺がこの木を調べることになったのは、自己紹介で言った、植物を操る魔法が得意だというのが原因だ。操るといっても、もちろんできないこともある。植物を自在に動かしたり、その成長を調整したりできるが、無から植物を作り出すことや完全に枯れた植物を蘇らせることは不可能だ。


「形はそのまま残ってるし、倒れるわけでもないから何とかならねーかと思ったんだけどな」

「不思議だけど、俺の魔法じゃ無理だね。弱っているだけとか、一部だけでも生きているとか、あるいは小さな芽の一つでもあればなぁ」


 死にかけているというなら、生命力を増幅させれば助けられるのだが。


「……俺の世界じゃ、死にかけた植物を魔法で蘇らせるだけでも十分難しかった」

「あら、そうなの? 私の世界のエルフとかならできそうだけど」

「世界によって違うんだね」

「ああ。できたら見たかった……ん? ちっ」


 マタンが急に舌打ちして後ろを振り返った。すると、何もない空中が歪み、そこから人が現れた。


「またかよ」

「えっ……え? 人?」

「言っておくけど、あなたも同じようにここへ来たのよ?」

「あ、そうだったね」


 現れたのは少女、かな? 被っているフードから長い桃色の髪がはみ出ている。


「#……###?」


 バリン!


 少女がつぶやくのが聞こえたと思ったら、彼女が出てきた辺りが割れた。


「*、***」


 大きく開いた穴から、もう一人少女が入ってきた。赤い髪を一つに結った活発そうな少女で、片手に抜き身の剣を持っている。


「****、マタン。***、******?」

「いやいや……お前なんで来た、つーかどうやって来たんだよ?」


 なんと、後から来た娘の言葉がわからない。マタンはわかっているようだが。というか。


「この子、マタンの知り合いなのかい?」

「ああ、少し前にここに迷い込んだから、帰してやったんだ」

「*、*******! ***、********?」

「あ?」

「**************、*************?」

「……あ、うわ、めんどくせー」


 マタンは嫌なことに気づいたというように眉をしかめた。


「あら、どうしたの?」

「言葉通じねーんだ、こいつら。同じ世界でも違う言語使ってたりするんだ、世界が違うのに同じ言語使ってるわけねーだろ? 偶然似てるとかならあり得るかもしれねーけど」

「あ」


 そういうことか。つまり俺は新しく来た二人の言う内容を理解できないんだ。でも、それならなんでマタンとアンディーンの言葉はわかるんだ?


「**、**************?」

「俺みたいな精霊とか、神は特殊だからな」

「魂の質が高い存在は、無意識に魔力を使って言葉を読み取ったり伝えたりしているらしいわ。だから相手がどんな言語を話していても意味がわかるの」

「……#####、######? #############?」

「まぁ、そうなるかな」


 先に来ていた少女が口をはさんできた。何を言ったのかはわからないが。


 今まで黙っていたのに何で急に、と思ったところで気が付いた。


 この子、状況わかっているのか? この世界のことも俺たちのことも何も説明していないし、ここへ来た経緯も聞いていない。俺が聞いても無駄なんだけどね。


「言葉はわからないけど、名前ぐらいは教えてもらってもいいかな? 俺はルクスだ。と二人どっちか伝えてもらえないかい?」

「ああ、そうね。私の名前はアンディーン。彼はルクス。二人とも、名前は?」

「*、******! *******」

「###」

「この赤い髪の子がリヴァ。桃色の髪の子はスキアだって。スキア、俺はマタンだ。お前、ここに来た経緯を説明できるか?」

「****、*********************?」

「あ」


 リヴァに何か言われた後、マタンは魔法陣を書き始めた。時折手を止め、悩みながら書き上げたらしいその魔法陣は、形を保ったままふわふわと飛んで俺の手の甲に張り付いた。


「って、何だいこれは?」

「ねえ、今の術式は何? 見たことない。どんな効果の術式なの? ねえ」


 俺の疑問の声をかき消すように話し始めたのは、スキアだった。


 待った。スキアが話しているのに、意味が分かる?


「もしかしてこれ、知らない言語を翻訳してくれる感じの魔法かい?」

「ん。わかる?」

「どう? 成功した?」

「ああ。さっきのスキアの言葉も、今のリヴァの言葉もわかったよ」

「……私の方はわかるようになってないけど」

「あれ、そうなのかい?」

「聞き取れればいいかなって。後で改良して場所にこの効果を持たせるようにするけど、とりあえずこれで」


 そう言ってマタンは再び魔法陣を書いた。今度は二つ、先ほどとは比べ物にならない速さでスラスラと書き上げ、リヴァとスキアへ飛ばした。


「ええと、スキア? 私の言ってること、わかる?」

「……うん。すごい」

「ああ、私もわかるわ。流石マタン」


 スキアは自分の手の甲をじっと見つめていた。つられて俺も手の甲を見ると、魔法陣が薄く残っている。


「じゃあ、改めて自己紹介と、ここへ来た経緯を話してみない?」

「それよりこの魔術について聞きたい」

「それは後でもいいんじゃない? それを言ったら、私だってマタンに聞きたいことあるし」

「あ?」


 何というか、皆自由だ。アンディーンなんて、いつの間にかいなくなっているし。おそらく池に戻ってしまったんだろう。


「そうだなぁ、スキアは魔術、が好きなのかい? 俺の世界ではこういうのは魔法といったけれど。世界によって名称が違うのかな」

「好き、なのかな。私は、色々知りたかっただけ。魂や神って何? 世界って何でできてるの? みたいなことを。魔術とか、魔力を調べていけばわかるかと思って」

「あら、マタンの同類なんじゃない?」


 声が聞こえたので上を見ると、宙に浮かんだ水たまりにアンディーンが寝そべっていた。


 いや、何をやっているんだい? 水ごと浮いているんだけど。


「マーメイド……」

「え? それっておとぎ話に出てくる……でも」

「ああ、私マーメイドなの」

「えっ」


 どうやらマーメイドは、リヴァにとってはおとぎ話の存在らしい。スキアの世界には実在していたようだが。


「魔法の話をしていたようだから見せてあげたんだけど、種族の話の方がいい? といっても、種族によって違う魔法を使っていたから、結局マーメイドの話になるわね」

「種族で違う? 属性がってこと?」

「厳密な属性というものはないわ。違うのは詠唱」

「……えいしょう?」

「ちょっと待て。まず俺が知ってる魔法と魔術を説明するから、聞け」


 口を挟んだマタンの説明がなければ、俺は魔術、属性、詠唱といった俺の世界になかった言葉の意味を理解できなかったかもしれない。


「魔法を使う手段は主に二種類。口で言うか、手で書くかだ。言う方を詠唱、書く方で実際に書くもののことが魔法陣。スキアは術式っつったっけ。俺が出身の世界じゃ基本的に魔法って名称だったけど、特に魔法陣書くのを魔術、詠唱と魔法陣を組み合わせたら魔導っつわれてた。どれが発展してるか、どんな名前で呼ばれてるかは世界によるだろーけど」


 なるほど。俺やスキアの世界の魔法は書くタイプ、アンディーンの世界の魔法は言うタイプということか。言うタイプの場合は魔法陣を書く代わりに詠唱を使うと。


 さらに、魔法が火、水、風といった属性に分かれる世界もあるのだとか。その場合は水属性は火属性に強いというような相性もあることが多いらしい。属性がある世界出身はマタン、スキア、それから。


「私の世界にも属性があるわ。こういう道具を通して契約した精霊から力を借りて魔法を使うから、精霊使いと呼ばれてるけど」


 という少し特殊なリヴァ。


「そういえば、サンクチュアリ消えてないのね。よかった」

「ん」

「サンクチュアリ?」

「私が初めてこの世界に来た時に、あの木を中心に周囲を浄化したの精霊のために聖域を作り出す魔法で、気休めに、と思ったんだけど」

「あら、あなたがやったの? これがなかったらこの世界に人間、つまりルクスは住めなかったわよ。私は平気だけど」


 うわ、この空間が綺麗なのはリヴァのおかげなのか! 助かった。聖域の外は正直行ったら無事では済まない気がするし。


「リヴァ、礼を言わせてくれ。俺自分の世界にはもう帰れないからね、ここに住めるというのはすごく助かるんだ」

「え、ここに住むって、住んでるの!? ルクスは普通の人間、じゃないのかしら」

「普通の人間だよ? でも元の世界じゃ罪人だから、帰ったら処刑されると思うんだよね。で、ここなら水はあるし、マタンが食べ物もたぶん魔法で何とかなると言ってくれてね」


 マタンなら無から物を生み出すことも可能らしい。が、あまりしたくないというため、二人の少女が来るまで木を調べていたのだ。生きている木、芽の一つでもあれば俺が自力で食料を得られる可能性が高まるから。


「この木?」

「そうよ」


 スキアが灰色の大樹に近寄り、その枝を見上げていた。


「んー……私も調べていい? 私も元の世界に帰ったらたぶん殺されるし、ここに住みたい」

「あ? 本気か?」

「うん」


 ……彼女は俺と似たような境遇なのだろうか。


 本人にとっては忘れたい過去なのかもしれない。皆そう思ったのか、誰も詳しくは聞かなかった。自分から話した時にはもちろん聞くつもりだ。


「まぁ、また人が増えるのね。最初は一時的な避難だったけれど、退屈しなくていいわ。あなたはどうするの、リヴァ。帰るの?」

「そうね……私はマタンと少し話したら一回帰る。次は食べられる植物の苗とか持ち込めるか試してみるわね」

「また来る気なのか」

「もちろん」


 即答したリヴァに、マタンは心底嫌そうな顔を向けた。といっても動いたのは眉ぐらいだが。それでも、ここまで表情に出すのは珍しいな。


「……ま、いーや。二人とも好きにしろ。この世界で何かあっても、俺は責任取らねーけど」

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