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人魚の女神が池を作る。

基本的にサブタイトルの前半が示すキャラの視点で書いてます。


「ここなら追手は来ないでしょうけど……」


 何もない。滅んだ世界なのだから、当然なのだが。


 それにしても珍しい。"天"は豊かな世界で生物、特に人類が生きている様子を見るのが好きだ。だからこのような世界は跡形もなく消滅させることがほとんどだというのに。


 まぁ、気分がいいとは言えないが、私なら充満している邪気の影響も受けない。しばらくここで過ごして、ほとぼりが冷めたころに新しい住処を探しに行こう。


 少し進んだ先に明らかに清浄な場所を見つけるまでは、そう思っていた。


「いや……え? 何、誰かいるの?」


 誰もいない、何もないのにこの状態はあり得ない。


 そっと近づいてみると、声をかけられた。


「また来たのかよ……なぁ、迷子か何か?」

「迷子ではないわよ、たぶん。一応自分の意志でここに来たから。私も聞いていい? あなたはどうしてここにいるの? 神、よね?」


 見た目の印象は全体的に黒い青年。しかも美人系イケメンだ。だが、彼から感じる魔力は膨大で濃密なもの。力の強い、神に類する者であることは確実だ。


 つまり、私を始末するために"天"が彼を寄越した可能性があるのだ。


 そう、思っていたのだけれど。


「神、なんて大層なもんじゃねーよ。この世界に監禁されてる自称精霊。"天"にとっては罪人だし」

「罪人? あなたも?」

「じゃ、お前も?」

「まぁ、そうね。邪神の子を隠して逃げてきたから、"天"から追われてるの」


 邪神というのは、"天"の配下ではない、世界の害となる神のことだ。闇系の力を持っていることが多い。もちろん、そうではない邪神もいるし、闇を司る神には善良な者もいるが。


「へー。じゃ、隠れたくてこの世界に来たのか?」

「そうなるわね」


 邪神の子を隠した、ということを聞いても、彼の態度は変わらなかった。本当に、興味がないように思われた。


「ねぇ、しばらく住ませてくれない?」

「いやそれは……ま、いいか。別に俺はもう……。ん、好きにしろ。ここにいた結果どうなっても、俺は責任とらねーけど」

「それでいいわ」


 彼が本当に"天"から疎まれた罪人であるという保証はない。ここに住むことで、寿命を縮めることになるかもしれない。


 しかし、それでもいいと思った。彼と話しているうちに、なんとなく逃げる気が失せたのだ。


「そうだ、私はアンディーンよ。あなたは?」

「俺はマタンだ。アンディーン……アン、でもいいか」

「いいわよ」


 彼の感情などほとんど読めないけれど、距離を縮めたいという意図は感じなかった。呼びやすいから、なのだろう。私も気負わずに了承した。


「こっち入れば?」

「あら、いいの? あなたの聖域みたいなのに」

「あー……」


 彼はわずかに眉をしかめた。


「これ、迷い混んだ人間がやっていったんだ。精霊を使役して」

「まぁ! 人間が?」


 それは凄い。これだけ濃い魔素をかなりの範囲浄化して、さらに結界まで張るなんて。得意分野だったのだろうが、普通の人間にできる芸当ではない。


「だから一応、俺の聖域とじゃねーし、入っていいと思うぞ。別に俺以外弾かれることはねーだろ」

「じゃあ、お邪魔するわ」


 一歩中へ踏み込んだだけで、身体が一気に楽になる。綺麗に澄んだ空間だった。


「ねぇ、ここに池とか作っていい? 私、本質はマーメイドなんだけど、しばらく水に入れてなくて」

「……規模は考えろよ」


 これは許可、よね?


「mm……lu……lula……」


 詠唱を口ずさみ、生み出した水が渦巻いて地面を穿つ。窪みがそれなりの大きさになったところで魔法を止めると、使っていた水がそのまま窪みを満たした。


 これでよし、と見た目を普通の人間のように変えていた幻影魔法を解き、本来の姿で水に飛び込んだ。


「んー」


 やっぱり水の中は居心地がいい。


 水面に顔を出すと、紅い瞳と目が合った。何故か、じっとこちらを見つめている。


「あの……何?」

「あ、悪い。初めて聞く詠唱だったから、つい。歌みたいだな」

「まぁ、そうね。これは私がいた世界のマーメイドがよく使う詠唱」


 私の生まれた世界にはいろんな種族がいて、その種族の数だけ詠唱があるといわれていた。最も、種族ごとによく使われる詠唱があるというだけであり、その特徴は絶対的なものではなかったが。


 私が使ったこの歌うような詠唱はマーメイドやハーピィに多かったものだ。


「ふーん。なぁ、気が向いたら聞かせてくれ。そーいう話」

「そういう話? 詠唱とか、魔法についてということ?」

「それも含めた、お前が住んでた世界の話。人の暮らしについてでも、種族についてでも、神についてでも、何でもいい」


 世界の話?


 聞いてどうするのだろうか。別に私の故郷に行けるわけではないし、特に何か利益があるとは思えない。だが、私の詠唱を聞いた後から、彼は明らかに私に興味を持っているように見える。


「どうして聞きたいの、そんなこと」

「趣味だから」

「……は?」

「知らない文化を知ること。世界がどんな仕組みなのか知ること。これが俺の五歳の頃からの趣味。異世界も対象だ」

「はぁ、そう……」


 趣味? どういうことなの。いや、趣味に関係することだから態度が変わったのだろうか。まさか理由を聞いて「趣味だから」と返ってくるとは。


 彼はかなり変わっている。興味のあることにしか動かないのだろう。永い時を生きる神の類には割といるタイプでもある。出会った当初に言っていた罪人というのが事実なら、彼の生き方を貫いた結果である気がする。


 私も似たようなものなので、案外彼の傍は居心地が良いものになるかもしれない。だから、彼へのお礼というわけではないのだけれど。


「まぁ、気が向いたら話してあげてもいいわ」

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