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天の神様は告げる。

今回はちょっと裏話的な感じ。

怠かったら読み飛ばしても大丈夫です、たぶん。

 そうしてファウストに降り立った"天"は、住み着いていた人間たちを元の世界へ帰すことに成功して上機嫌だった。あとは神々の処遇を決めるだけである。


「さて、アンディーンと真神には罰が必要だね~。ニムバスロムは見逃してあげるけど、その代わり速やかに自分の世界に帰ること」

「へーい」

「アンディーンは百年の謹慎。後、属する世界での役目に励むこと」

「承知、致しました」

「真神は~、ファウストを隠す結界の核を務めてもらう」

「……承知した」


 二柱はその罰の軽さに驚きつつその言葉を聞き入れた。


「驚いてるね~?」

「それは、そうね。排除されるものと思ってたから」

「排除なんて滅多にしねえよ、"天"は。昔はしてたけど、そしたら神の質が下がっちまったとかで」

「そう。基本的に長く生きるほど強く有能になるからさ~、簡単に排除してたらレベルの高い神が増えないんだよね~。アウローラっていう反逆しても存在することを許した前例ができたところで配下はあんまり消さなくなったかな~」


 一度の罪ぐらいは許して反省させた方が良いと考えを改めたのだ。罪を犯したとしても殺すのは惜しい、という存在もいるのだから。マタンのように。


「ところで、アウローラは大丈夫なのか? さっきからぼーっとしてるみたいだけどよ」

「ん……」

「ああ、放っときな。リヴァちゃんを惜しんでるだけだから」

「そのリヴァ? がユリアの生まれ変わりって話だったな。じゃあ、アウローラの魂はあれだよな。ラシアの」

「うん。ラシアの欠片だよ。大地くんみたいな」


 ニムバスロムは古参の神であり、随分昔に死んだラシアと面識がある数少ない神だ。だからある程度事情を知っていた。


 反対に、神としては若い方に当たるアンディーンはこの二つの存在を知らなかった。


「気になっていたんだけど、どうして神の魂の欠片や精霊の魂がこうして転生してるの? リヴァなんて普通の人間じゃない」

「俺も人間だぞ、元は」


 マタンが唐突に口を挟んだが、これには"天"以外皆驚いた。


「黒のが、元人間だと? そこらの神など片手で消滅させそうなお主が?」

「あ、でも生きてる年数は二千年前後だって言ってたわね」

「む、年下なのか。それで、それか」

「うわ、マジか。いくらラシアの生まれ変わりとはいえ……つかなんで人間にしたんだ"天"」

「ほら、欠片だったから! ユリアだって弱ってたし! 後悔したけど!」

「いくら弱ってたからって、はじまりの魂だろ? そこらの魂とは比べ物にならねえ力があるだろ」

「うん。実際、ボクが先を読めなかった。ヤバかった」

「あの、はじまりの魂って?」

「ん~、じゃあ少し教えてあげるよ。おまけね。これ聞いたら移動だから」


 はじまりの魂とは、初めて神の手で創られたという莫大な力を秘めた透明な魂のことだ。その魂は自我を持って神になったのだが。


「実際はね~、自我を持つ前にボクが二つに割ったんだよ。正確には、透明な部分に混ざってた黒いとこをくり抜いたんだけどね。その黒いのはよく見たら中央がきれいな虹色でね、捨てるのは嫌だなって、そっちがユリア。透明な方がラシア」


 それから、はじまりの魂を創った神、ナイラミューズラシアの二柱はそれぞれ世界を創った。


 ナイラが創った世界を一ノ世界、ラシアが創った世界をフィールと呼んだという。フィールという世界には聞き覚えがあるとマカミが言った。狂乱した女神とそれを止めようとした者が戦った結果犠牲になったといわれている、既に幻扱いの世界だ。


「二柱とも自分の世界の管理者として世界を維持する役目を負った。神の力によって成り立っている世界は、この二つが最初だよ。でも、今は二柱とも死んじゃってる。殺し合っちゃってね~」

「殺し合ったって、どうして」

「その殺し合いの勝者がナイラの方だった覚えはあるな。我もその理由は知らないのだが」


 アンディーンが続きを促すように"天"を見ていると、ニムバスロムがボソッと呟いた。


「まぁ、女の嫉妬って怖いよな」

「嫉妬?」

「そう。ラシアは自分の世界でお嫁さんを見つけて娘に恵まれたんだけど、ナイラはそれを『ラシアが盗られた!』って認識してね。……ラシアの奥さんを殺しちゃったんだ。それに激怒したラシアが反撃して殺し合いに」

「結局ラシアも殺されて、魂を砕かれたんだよな」

「そうなんだよ! やっぱりキミは知ってたか。魂は勢いで割っちゃったとか言ったんだよあの子!」


 ナイラミューズは少々過激なところがあったと"天"は思い返す。うっすらとだが、まだ彼女と過ごした記憶が"天"の中に残っていた。


「それからナイラはおかしいままになっちゃって、ラシアの娘も探して殺すっていうからさ~。止めたかったけどボクの話も聞かないし、ナイラを止められそうなのはラシアだけだった。だからラシアの魂の欠片を集めて、いくつかに分けて輪廻に混ぜることにしたの。これが、ラシアの欠片が転生してる理由」

「それは……かなり無茶ではないか?」


 完全な形であっても一度は負けた魂だ。欠片となれば勝率が落ちそうなものである。それでも"天"は賭けた。


「結果的に娘ちゃんとラシアの欠片の転生体がナイラを倒してくれたから成功だったんだけどね~、問題も起きて大変だったよ~。あ、倒したのはアウローラとは別の欠片ね」

「大地だろ? あいつ、"天"に超振り回されてたなぁ」

「それに関しては後悔してないし謝るつもりもないよ~」


 へらっと笑い、次はユリアの魂について話し始めた。


「最初はフィールに流したんだけど、地上で暮らすにはやっぱり規格外だったんだよね~。だから、ユリアは一ノ世界を管理する精霊の一人にした。彼女の役目は世界の浄化システムを管理すること」


 地上に流す前に気づけたのではないかとマカミなどは考えたが、黙っていた。


「一ノ世界の浄化方法は魔素を凝縮した魔物を生み出して空気中の魔素を減らすことだった。それで、ユリアは人類や魔物の数を調整する役割だったの。やがて人からは魔王って呼ばれるようになった。魔物を統べる王ってね。でもユリアは魔王として恐れられるのがツラくなったみたいで、自分を殺してもらいたくて勇者を生み出した」

「勇者……あれだな。魔王を倒す存在。割と維持システムにも採用されてるよな。けど、魔王が勇者を生み出すってできるのか?」

「世界に自分は魔王だと名乗って、自分を倒そうとする勇者が現れれば歓迎するとか何とか人類を挑発したんだ。そしたら一ノ世界の住民は各種族から一人ずつ勇者を選出した。このときの種族は四つだから、四人ね。でも普通人間は精霊を倒せないからさ~。ましてはじまりの魂から生まれたユリアだよ?」


 確かに、勇者がいくら強くとも人間の中での話。元々魔王として倒される役目を負っているならともかく、ユリアは半永久的に存在する前提の浄化システムを担っている者だ。人間が倒せるとは到底思えない。


「でもユリア、倒されちゃったんだ」

「……倒せないのではなかったのか?」

「自分の管轄内ということは一番力を発揮できたはずなのに。倒してほしかったから、抵抗しなかったの?」


 アンディーンの指摘にも一理あるが、それだけではユリアが勝たなかった理由にはなっても負けた理由には足りない。


「倒せたというなら、勇者とやらが人間の力を超越したとしか考えられぬが」

「そう簡単に超えられちゃ、神や精霊の立場がねえよな」


 皆が難しい顔をする中、マタンがあっさりと答えを言った。


「元が神の魂だったら、人間が発揮できる最大値なんて割と簡単に超えるぞ。ユリアを倒した勇者はラシアの欠片の転生体。ユリアと同じはじまりの魂を持ってたんだ」

「はじまりの魂だけ、どうしても先の行動が読めないんだよね~。まさか欠片の一つが一ノ世界に行ってるとは思わなくてさ~。ヤバいことになったよ~」

「おい」

「まぁ、そんなわけで死んじゃったユリアの魂を輪廻に送ったの」

「ちょっと待て。欠片はともかく、魔王の方までそのまま人間に転生させたのか!? 神とも渡り合うほどの精霊だろう? 人の身では力を扱えぬぞ」

「かなり弱ってたし~、魔力に関してはそこそこ扱えるようにユリアの子孫にしか転生しないように輪廻を弄ったから一ノ世界、ファースト、さらにファウストに名前が変わってからも大丈夫だったんだよ。持ち主が一回だけ邪神の器として使われるぐらいしか大きな問題は起こしてない」

「それ大丈夫じゃねえぜ、"天"さんよ……」


 邪神の器になるなど、大問題である。加えて、そんな経験のある魂が普通に今も人間として転生し続けているということも問題である。"天"はきっちり浄化してから輪廻に戻したから大丈夫だというが、それでも破格の力を持っていることは変わらないのだから。


「で、そのユリアを倒しちゃった勇者の転生体が、今はアウローラなわけね。ほら、規格外でもおかしくないでしょ~?」

「ああ、なるほど」

「ねぇ、じゃあ、その、マタンとリヴァはずーっと昔の前世で殺し合ったことがあるってこと?」


 スッキリした様子のニムバスロムと違って、アンディーンは沈んだ表情だった。


「まぁ、そうだね~。ボクが知ってるだけでも何回かあるよ? そういう悲劇的なことになったの。そしてどんな時でも大体互いに惹かれてるっていうね。そういう運命なんじゃない?」

「……やめろ」


 "天"は嫌そうな顔をするマタンに笑いかけ、穏やかな時間を終わらせた。


「じゃあ昔話はこれぐらいにして、罰の執行、しようか」

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