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精霊使いの少女が光と聖域を作った後に、

「……戻ってきた?」


 気がついたら森の中にいた。周囲を見回すと、レイと共に飛び込んだ空間の歪みが蠢いていた。


「うわ、何これ……って」


 消えてしまった。


 あれか、マタンが直したのか。大精霊の領域へ繋がっている歪みが消えたなんて話は聞いたことがないが、マタンは私に二度と来るなと言っていたし。


 でも、絶対また行く。


「また会いに行くからね。マタン」


 ガサガサと葉の擦れる音がした。視線を上げると黒い魔力を纏い、赤く不気味に光る目をした猿。魔獣だ。


 腰に帯びた剣に手を掛けたところで、異変に気づいた。


「ん? 何、この剣……」


 魔力を感じる?


 これは成人祝いに父から貰った剣だ。それなりに良いものではあるが、別に霊具ではないはずなのだが。


 疑問に思うも、考えている時間はない。既に猿が近づいてきている。魔獣は待ってくれないのだ。


 剣を抜いてみるが、斬れないということはなさそうだ。普通に剣として使えるだろう。


 だが、どうせなら試してみようと魔力を込めて剣を振った。


 すると、猿の首がスッパリと斬れた。


「っ、危ないわね、もう!」


 首が斬れたのに身体だけ突っ込んできた。やがて勢いを失って倒れたが、首が地面に落ちるのも身体から血が噴き出すのも全て一拍遅れて起きた。


「何? なんか、霊具になってるけど系統が分からないわね……」


 もう一度魔力を流してみると、剣が光る。色は、ない。つまり、くうの精霊……


「あ」


 そういえば、マタンは透明な魔力だったけれど。それに、定義が違うとはいえ彼は精霊。それなら契約できてもおかしくない、のか?


「そうだ、最後、お互い名乗って……!」


 下級から上級までの精霊と契約するときには、自分の名を名乗り精霊に名前を付ける。大精霊と精霊王は名を持っているため、互いに名乗り合うことで契約が成立するのだ。私とマタンは後者に当てはまっている。


 それでも、本来契約するには互いに了承していること、特に精霊が契約者に力を貸したいと思っていることが絶対に必要なのだが。


「ねぇ、マタンなの?」


 そっと剣を撫でるが、反応はない。当然か。霊具である以上マタンを召喚できるのかもしれないが、異世界から彼を喚んで滞在させるだけの魔力なんてどれだけ必要になるのか。


 だが、彼の魔法を使える。つまり、魔法でファウストへ行くことも可能。


 こうなったら特訓だ。派手に動く訳にはいかないが、空魔法を使いこなしてマタンに会いに行ってやる!






 ◆◇◆◇◆◇◆



 ※マタン視点



 灰色の空間に、巨大な魔法陣が一つ浮かんでいた。俺が書いて、リヴァが作った聖域の外に設置したものである。


「よし、爆ぜろ」


 俺の声を合図に、魔法陣の中央から爆発した。陣を弄ってわざわざ作り出した、白金色の煙と濃い紫色の炎が巻き上がる。それが灰色に吸い込まれるまで静かに見守っていた。


 この魔法陣はリヴァとの出会いで沸き上がった、俺のモヤモヤとした気持ちを発散するために行ったことだ。


 俺自身は持っていない属性を複数組み合わせる爆発の魔法陣を、しかも魔改造を加えた巨大なものを書き上げた。こんな面倒な上に無意味なことを、それでもやらないと気が収まらなかったのだ。


 この、喜びとかイライラとか虚無感とか認めたくない寂しさとか、色々と混ざった感情を昇華する方法を、魔術以外に思い浮かばなかった。


 どうせなら綺麗な色を、と式を弄ってみたが、そうしたら無意識にあの人の色にしていたことに発動させてから気がついた。


「エレ……」


 あんたがちゃんと転生できてたことには、安心した。でも、なんでこの世界に来るんだよ。あのレイとかいう精霊の魔力を見たとき、横にいたリヴァが視界に入って心臓が止まるかと思ったんだぞ。


 夜空に虹がかかっているような、他に見ないあの魔力。エレの魂の色を見たときからずっと、忘れたことはない。


 間違いなく、リヴァはあんたと同じ魂だった。なんで戻ってくるかな。俺はあんたのその魂に弱いんだよ。いや魂だけじゃなくエレのこと全部、大切だけどさ。リヴァと一緒にいたいって、思っちまったじゃねーか。あれ以上いたら、リヴァを帰せなかったかもしれねーんだぞ。


「情けねーな、俺」


 同じ魔力が見えたというだけで、俺はエレとリヴァを重ねてしまった。リヴァのポニーテールにした赤毛と青い瞳は、別にエレを連想させる見た目ではないのに。


『出られるなら、あなたも出たらいいじゃない。こんな気味の悪い世界』


 この言葉を聞いたとき、エレに俺の選択を否定されたように感じたのだ。


 例えば幼馴染が俺の選択を知ったら、そんな生き方をしてほしいわけではないとキレるだろう。でもエレなら俺を否定しないと思っていたのだ。俺が自由に生きることを望んだあの人なら。


 いや、わかっている。俺がおかしいのだ。


 大切な人に「生きて」と言われたからといって人間やめて何百年、何千年と生きるなんて正気の沙汰ではない。


 神とか精霊とか、世界を維持する立場にある者からすれば絶対である、"天"からの命令に背くなんてあり得ない。


 よりによって"天"のお気に入りだった破壊神まで殺して、これだけは譲れないと抗った。しかも罰は二択だったのに、わざわざこの世界に監禁状態になる方を選ぶなんて。


 それでも、エレなら馬鹿だと言いつつも笑って認めてくれるのではないか、と。期待したから、否定されて頭に血が上ったのだ。いや、違う。言ったのはリヴァだけど。


 だから、リヴァがこんな聖域を作ってくれたことに正直物凄く驚いた。初対面の得たいの知れないやつ相手に、なんでこんな親切にしたのだろうか。


 嬉しかった。俺の居場所はここで良いのだと言ってくれたようだったから。光を見たのも久々だった。


 同時に、ふざけんなと思った。余計に彼女に手を伸ばしたくて堪らなくなったから。


 少しでも彼女と会話をしたくて、つい転移の魔術を解説してしまった。二度と関わるべきではないと思っていたのに、少し打ち解けてしまった気がする。実際、彼女はまた会いましょうと言っていた。


 まぁ、ここへ繋がる歪みは防いだ。あれはおそらく、武器を振りながら体を動かしていた時に誤って少し斬ってしまってできたものだ。次からはもう少し気を付けなければ。


 自力で来るにしても、彼女が使えるのは光魔法。魔術も一方的な解説だけですぐに理解できるわけがない。そもそも魔法の仕組みが違う。彼女は精霊の力を借りなければ魔法を使えないのだ。俺が教えた転移を習得してここへ戻ってくるようなことだって、起こらないだろう。


『マーちゃん、そういうのはなぁ、フラグって言うんだよ!』


 …………また違った異世界で過ごした前世の記憶を持っていた、幼馴染の声が聞こえた気がした。いや、気のせいだが。あいつはとっくに死んでいるのだから。


 俺は思考を放棄し、目を閉じた。


 リヴァと俺の間に、既に取り返しのつかない繋がりができていることに気づかないまま。

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