秋の桜子さまよりSS【(7)~神社と先生と庭師~ に寄せて】
秋の桜子さま
(https://mypage.syosetu.com/1329229/)
より(7)グループにSSいただきました。
四句『誘われ咲くは ナルキッソス一輪』
こちらの句に寄せた、とても美しいお話です。
秋の桜子さま、ありがとうございます!
かの国に春に先駆け咲く花は、黄色いラッパスイセンという。
谷間をただよう雲のように
一人さまよい歩いていると
思いもかけずひと群れの
黄金に輝く水仙に出会った
湖のかたわら 木々の根元に
風に揺られて踊る花々
銀河に輝く星々のように
びっしりと並び咲いた花々は
入り江の淵に沿って咲き広がり
果てしもなく連なっていた
一万もの花々が いっせいに首をもたげ
陽気に踊り騒いでいた
〜ウイリアムワーズワース『水仙 The Daffodils』抜粋
香り高き黄色のそれが、頭を持ち上げ咲く。凛と佇み咲き乱れる、時が進む。春の時が……。雲雀は恋の歌を歌う、番を求めて空を舞う。
春風は枝葉を揺らし、目覚めの時が訪れた事を知らせる。
大地に濃い緑の葉が開く、蕾を持ち上げる、花弁を開く、クリーム色の花が咲く。森の中で、湖畔で、プリム・ローズが花開く。
………私が死んだらここに埋めてね、君はそう言った。僕達夫婦は、森の奥深くに住んでいた。生まれ育った村から離れた場所に……。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
無慈悲な神の思し召しにより、不治の病になった君は、日に幾度も僕に謝っていた。そして掟に従い、ある冬の日に、村の人達は、病の妻を森に棄ててくるよう夫である僕に迫った。
そんな事はできないといえば、出ていけと言われた。僕は妻を連れて村を出た。北風吹きすさぶ中、何処に行けばいいのか、途方にくれていた。
持ち出した物は僅かな蓄えと毛布。病身の妻を抱えて、歩けるだけ歩き、日が落ち、疲れ果てて道端にしゃがみこんでいると、偶然か、神の思し召しなのか、一人の風変わりな神父様と出会い、拾われた。
「空いている小屋があるから、そこに住みなさい」
深い森にある、カクテールのつるバラに覆われた古い教会、その庭先にある堂守の小屋が、妻の終のすみかとなった。
そこに住み着いた年の春、水仙が終わると、あちらこちらに、プリムローズが咲き乱れていた。クリーム色の花が群れとなり咲いていた。神父様が抱えた仕事の手伝いをする合間に、いくつか摘んで枕元に運んだ。
きれい、ありがとうと、細く細くなった手で、それに触れた妻。
それを二度目を見ること無く、妻は旅立ってしまった。堂守をしつつ、妻に寄り添い、そこで緑の溢れる夏を、紅葉の秋を、白い冬を過ごし、衰え病みゆく彼女の手を握り、残された日々を数えつつ過ごした。
やがて、再び水仙が立ち上がり、うつむき咲き、それが終わる頃、愛らしいクリーム色の花が、そのかんばせを開いた。先立つ花を摘み、時が終える妻に捧げた。
「小さい頃に、あなたが、森で摘んで、花束を、くれた、あれから、大好きな、花な、の」
だからその下で眠りたいわ……、喘鳴の下最後に交わした、懐かしい話。名残にぽつりぽつりと残る、水仙の黄色。ブルーベルの青。プリムローズのクリーム色。濃い緑の葉。木々の若葉が開く新緑の森。
空には小鳥が歌う、動物達が駆け回る、全てが春の息吹に燃え上がる。そして……、命を産み出す大地に抱かれ、妻はそこに眠る。
プリムローズが咲く森に。
僕は永久にそれを眺めるだろう、冬が終わり春が来ると必ず咲く、神様からの贈り物を。
終。
桜子さまは詠まれる時に陸さまの詩
『長引く冬を彷徨って』 も思い浮かべられたそうです。
ひとつの言葉に複数のイメージを込める、まさしく短歌や俳句といったものの楽しみ方ですね。




