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幼馴染は残念でした  作者: 暁
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5.ある残念な幼馴染

 



「ちょ、っと、あの、ス、ステイラー副長?」


腕を掴まれたままずかずか進むウィンに、何事かと振り返る魔術師たち。

しかし真剣なウィンの表情にぎょっとしたあと、私の姿を見て何やら納得したかのような表情をして無言で道を譲る。


いやいやいや、誰か最初の表情のままどうしたのか尋ねてほしい。

一番どうしたか尋ねたいのは私だが。

ぐいぐい引っ張られる腕がちょっと痛む。


「ステイラー副長、あの、腕が痛いのですがっ」


無言で無視された。


でも少しだけ掴んだ手から力が抜けたので楽になる。

これほど問答無用な態度は初めてで緊張するが、少しだけ安心した。


安心したからといって、状況が変わるわけでもないのだが。

もう仕方ないのでウィンの好きなようにさせよう。

私は心の中で溜息をつき、無言で引っ張られるままに身を任せた。


そもそもウィンのこの態度は何なんだろう。

部屋に飛びこんできた時はひどく怒っているようにも見えたが、今はどこか焦っているように見える。

ウィンがこれほど焦るとなると神子関係だと予想はつく。


ああ、私がウィンひとりに神子のことでああだこうだ言ったり画策したりするのは構わないが、誰かに相談されるというのは困るのかもしれない。

それもそうか、相手は神子だもの。

ライバルは少ないほうがいいに決まっている。


あと恥ずかしいのもあるかもしれない。

部下の女が情報収集してお膳立てしていると知られるのは恥ずかしいだろう。


ようやくウィンの態度の原因に気がついて納得。

私が相談していたのはやる気が見られないウィンのせい、ウィンのためだ。

ひとっつも悪いことだと思っていないので、責められても徹底抗戦だ。

うんうんと頷いていると、ウィンが足が中庭に向いているのだと気づく。


中庭に出ると、やはり向かう先はいつの木陰のベンチ。

そこまでずかずか進むウィンと、おとなしくついていく私。


さて、まずはウィンの言い分を聞こうか。

ウィンをちらりと見上げて口を開こうとすると、ぐるりと視界が反転した。


「う、わあっ!」


どさっと背中が固い感触に落ちて混乱する。

もしかしなくても、振り返ったウィンによって軽く転ばされた。

地面じゃなくてベンチであろうところが良いのか悪いのか。

それでも怒ってるからってひどいでしょうが。


「ちょっとウィン……!」


見上げると顔を歪めたウィンがいた。いた。


いたけど。

仰向けに転んだ私の真正面にウィンの顔が見える。

まさかこれってもしかして、いわゆる、押し倒されたってやつか。

……なにゆえ?


「何でそんな驚いた顔してるんだ」

「なにゆえ……」

「なにゆえ、じゃないだろっ……そんなに俺の傍が苦痛かよ……!」


怒ってるというか、焦っているというか、悲痛というか。

ぽかんとしたままでいると、ウィンが叫びたいのを我慢するように呻く。


いやちょっと待って。待とうか。

ステーイステーイ。


一体全体何をおっしゃっているのだろうか、この残念な幼馴染は。


「く、苦痛なんて思ったことないけど……」

「だってお前、ここのとこ、俺と神子様をくっつけようとしてたろう。その前からいきなり好きなタイプがどうの、結婚いいぞ結婚しろよって……しかも知らない奴と見合いってお前ふざけんなよ?」

「貴族で見合いって普通じゃん!?」


私はまだするつもりないけど。


「普通ってお前な……俺は相手はちゃんと見つけて」

「ちょっと待って! それ聞いてないよ、ウィン。それ誰なの、情報収集するから教えて」


苦々しげに言うウィンの言葉を思わず遮る。

ウィンがお目当てにしているひとがすでにいたなんて知らない。

あっちゃー、それだと気づかなかった私が悪いことになる。

お相手さんはウィンと神子が近づいているのを気にしてしまったのかもしれない。

それを見てウィンがこれほど怒ったのだとしたら、非常に申し訳ない。

しかるべき謝罪と情報収集とお膳立てをしてくっついてもらわねば。


「いや今度は絶対に間違えない、頑張るから」

「……頑張ってくれるのか? お前」

「もちろん頑張るよっ!」

「だからお前だってば、シェリー・マクダイド」


ん? 私だってば?


「俺が11歳のときに初めて会った、ひとつ年上の幼馴染。人見知りの俺に『優しく可愛い笑顔で』積極的に話しかけてくれて、俺の魔術の話を『真面目』に聞いてくれて、一緒に『努力』して勉強してくれて、だけど俺の気持ちをズレて受け止める『天然』で、それでも一番に『俺を理解してくれる子』」


すらすらとウィンの口から呪文のような言葉が流れる。

強調される単語はあれか。

ウィンの言っていた好きなタイプの特徴。


ごつりと額同士がぶつかり、ウィンの綺麗な瞳に私の見開く目が映りこむ。


「……あと、『異世界の女の子』」


だめだ、こいつ早く何とか――できなかった。


「なんで知ってるの……」

「最初から知ってるよ。お前んちの両親からうちの家族全員が聞いた」

「ぜ……」


ステイラー家全員だと。

言葉が紡げず、ぱくぱくと魚のように口だけが動く。


混乱しつつもよくよく聞けば、遺跡に現れなかったことと、神子のような強い力を持っているわけでもない私は、調べればすぐに神子ではないと分かった。

両親は幼い私を見捨てることはできないと、引き取る旨を申し出たらしい。


しかし異世界出身であることが多く知られれば、子供らしく過ごすことはできなくなるだろう。

そこで両親は自分たちより格上の貴族だが、ずっと付き合いがあって、信頼のあるステイラー家を頼ったそうだ。

いざとなったときに私を護ってもらうために。


もちろんこれはステイラー家だけでなく、まさかの陛下の承知するところ。

私のことは、陛下に近しい数人ほども承知しているらしい。

補佐官とはいえすんなりと神子の傍へ近づけたことも、神子と同郷であるらしいと分かった上で許された判断だったと。


あとウィンが怒っていたのは、私がアードゥク副師長に告白したように聞こえてたらしい。


「えええええ、何それ私そんなこと知らなかった……」

「お前が成人するときに一応伝える予定だったみたいだけど、忘れてたって」

「なにそれひどい」

「そうだな。伝えてあれば空回りする必要なかったもんな。このド鈍感」


ド鈍感……。

うん、あえて反論しない。


「とりあえず覚悟しろよ、惚れて11年だ」


するりと腰を撫でられて一気に体全体に緊張が走る。

そういえばベンチに押し倒されてた。

しかも11年って。


じわじわと胸に広がるざわつきに叫びだしたくなる。

分かってる、分かってる。

私だって12年間このざわつきに気づかない振りしてたから。

だってこっちで過ごす時間分、異世界で過ごした記憶は遠くなるから。

ウィンの興味を引けることがなくなっていくから。


「シェリー、……シオリ。好きだ」


しかも一度だけ教えた名前を覚えてるなんてずるい。


「呼ばないでっ……職場、むり……!」


囁かれた瞬間に観念する。

ウィンの肩口に真っ赤であろう顔を隠して小さい声で告げた。


そもそも職場でこれ以上なんてほんとに無理。

しっかりしないといけない場で名前を呼ばれるとか本当に無理だ。

特にウィンに呼ばれると補佐官の顔を保ってられなくなる。

だから呼ばないでって言ったのに!


がばりとベンチから起き上がったウィンは、にんまり嬉しそうに笑う。


「あとでちゃんと言えよ。今日、うちに連れて帰る」

「……はい……」


宣戦布告の内容もほんと無理。

これ絶対、うちとステイラー家に速攻伝わるやつ。


残念な幼馴染は、どうやら私の方だ。




 

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