94 本当にしょうがねぇことを思い知らされる
「ふっ」
偵察局長は思い出し笑いをした。
「『物事、何だってやってみきゃわかんねぇ』か。ケサマル・スカイの得意なフレーズだったな」
「ケサマル・スカイって、あの伝説の『偵察局員』の……」
「そうだ。旦那さんとシラネ君の親父だよ。私の同期だ。生きてりゃ、私じゃなくて、奴が『偵察局長』だったかもな」
「何でも殺された訳でもなく、事故死でもなく、ましてや自殺でもなく、原因不明の突然死だったとか」
「まあな。考えてみれば、あの伝説の親父の息子だ。『やってみなきゃわかんねぇ』。ふふふ。しようがねぇか」
偵察局長はそのうち本当に「しょうがねぇ」ことを思い知らされることになる。
◇◇◇
エウフロシネは上機嫌だった。
鼻歌まじりで調理にいそしんでいた。
その陰で、一人佇むティモン。
この父娘、昨夜は死闘を演じたばかりだった。
◇◇◇
坊っちゃんが「人材育成機関」の補助教官として「アクア3」に赴任することを知ったエウフロイネは飛び上がって喜んだ。
そして、坊っちゃんのいる島に行きたいと懇願した。
この時は、坊っちゃん自身が「人材育成機関」の施設整備の突貫工事に従事中であった。
余裕がなく、現場は危険な状態だったので、自らエウフロシネに面会は困難と詫びた。
エウフロシネは渋々頷いた。
◇◇◇
それだけに、施設整備が竣工し、面会が可能になったと知った際のエウフロシネの張り切りようと言ったらなかった。
クローゼット内の衣服を全て取り出して、どれを着るか悩むわ、荒くれ海の女たちに当日持参するお弁当づくりのアドバイスを請うわ、大騒ぎである。
その光景を苦々しく眺めていたのは、そう、ティモンである。
さんざん迷ったティモンだが、ついに意を決し、エウフロシネの前に立った。




