90 第三章エピローグ
その女性は美しかった。
年の頃は三十前後と言ったところか、スラリとした長身。スリムな体型。北欧系であろうかと推測される透き通るような白い肌、海のような青い眼、陽光を受けて輝く長い金髪。
細い黒ぶちの眼鏡と身に纏った白衣は、その知性をより一層浮き彫りにさせていた。
「星間警察」の「学術研究惑星」支部の建物内を颯爽と歩くその姿は多くの者の眼を釘付けにした。
ましてや、ほんの少し屈んで、ほほ笑みを浮かべながら、「こんにちわ。今日はお世話になります」
とか言われた日には、多くの男は骨抜きにされてしまう。
少しの時間が経過した後、その彼女は今度は「有難うございます。お世話になりました」と言って、小さく会釈すると、その建物を出て行った。
◇◇◇
去った後も、支部内の男衆の間では、彼女の話題で持ちきりだった。
「綺麗だったよな~」
「どこの所属だろう?」
「白衣着てたから、どっかの犯罪者の心理カウンセラーじゃないのか?」
そのうちに、次第に違和感に気付きだした。
誰も彼女の正体を知らないのである。
◇◇◇
そのうち、拘置房から緊急の報告が入った。
「大変です。『洗脳機関』の幹部が三名とも死んでいますっ!」
「何?」
すぐに死因が調査され、判明した。
「心臓麻痺」である。
いずれも頸動脈付近に細い針が打ち込まれており、それが原因であった。
誰もが思った。あの彼女が犯人だと。
だが、監視カメラをいくら解析しても、彼女の正体は皆目分からなかった。
◇◇◇
「ふぃっー」
その女は白衣から黒づくめのスーツに着替えた。眼鏡も外している。
「パウリーネ様」
従者と思われる者が溜息まじりで言う。
「もう、下士官ではないのだから、いい加減、その黒づくめやめませんか?」
「でもねぇ~、これが一番落ち着くのよね~」
パウリーネと呼ばれた女は長い金髪を靡かせながら答える。
「だけど『学術研究惑星』は今が一番暑い時期なんだから、その恰好は目立ち過ぎです。ただでさえ、目立つ風貌なんだから」
「わかった。わかった。とっとと『学術研究惑星』立ち去りましょ。強そうな奴もいなそうだしね~。あ~っ、つまんないっ!」
◇◇◇
「おまわりさんっ、あの人ですっ!」
一人の若者が警官を誘導しつつ、パウリーネを指差した。
「げっ!」
指差されたパウリーネは、反射的に逃走を開始する。
「言わんこっちゃない」
共に逃走する従者は嘆く。
「この暑いのに、全身、長そでの黒づくめなんですよ。ネクタイもブラウスも黒。怪しすぎです」
若者の呼びかけに、警官も必死で追いかける。
「おいっ、君っ、待ちなさいっ! 色々聞きたいことがある」
「『待て』と言われて、待つ馬鹿いないよ~ん」
「はあ~あっ」
従者は大きな溜息をつく。
「パウリーネ様。そのセリフ。典型的なやられ悪役のそれです」
チャージオン 第三章 完




